第42話 安い商館

翌日、フォリスさんがとてもご機嫌です。


「うふふ、やっぱり良い買い物でしたね」


魔王都の中で巨大な六階建ての商館を入手したのだ。

商館は相場の半値以下の金額だった。

買う時にまわりの店員の様子がおかしかったのが気になる。


まさか、あれが出るのだろうか。

といっても、うちにはランロンという仲間がいる。ほとんどあれだ。

だから、あれなら気にならないだろう。


「浄化」


フォリスさんの手から、金色の魔法陣が出る。

商館の一階はワンフロアーで、天井も高い。床から順に天井まで、ピカピカの新品のように綺麗になった。

綺麗になった部屋に、机と椅子を出して、全員でお茶にした。


「フォリスさん、なぜ、こんな大きな商館を買ったのですか」


この商館は、フォリスさんの提案で買ったのだ。


「もちろん、商品を売って、お金を稼ぐ為です」


「えっ、僕のお金ならまだ、全然減っていません」


「うふふ、この国からお金を奪い取る為です」


フォリスさんには何か考えがあるようです。

ここは、一つ大賢者様の知恵をお借りするとしましょう。


「何をするつもりですか?」


「はい、説明します。もうじきこの国は、戦争を始めます。攻める先は、もちろん魔王様の居城です。ですから、戦争に必要なものをあらかじめ買い占めておいて、考えられないくらいの高い金額で売ろうと考えています」


「武器とか治療薬とかですか」


「その通りです。平和で安い今のうちに入手しましょう。今から武器屋と薬屋を、回りたいと思います」


フォリスさんが言い終わるのと同じ位のタイミングで、がらの悪い男達が、六人入ってきた。


「じゃまするぞ! なんだまだ商品が入ってねーじゃねえか」


「あなた達はなんですか!」


フォリスさんの機嫌が急に悪くなった。


「俺たちは、闇の双龍という組織のもんだ。この裏で商売している。まあ、ど田舎の金持ちが安さに目がくらんで、ここを買って後悔するのさ、運が悪かったと思ってあきらめな」


男は腕の、二匹の龍の入れ墨を見せてきた。

ここが安かった理由がわかった。

でも、たぶん運が悪かったのは、あんた達だと思うよ、気を付けてね。


「別にそれが、運が悪いと思えませんが……」


フォリスさんが、とぼけているのか本気なのか、男達に答えた。


「おい、メガネをつれてこい」


メガネをかけた痩せた女性が腕をつかまれて入ってきた。


「この女は不正が出来ないように、経理で置いて行く。面倒はお前達で見ろ。そして利益の八割を俺達がいただくという寸法だ。良心的だろう、二割も残すんだからな」


「何で、あなた達にお金を払う必要があるのですか」


すでに、どういうことなのかは、わかっているみたいだ。

フォリスさんと、コデルさんが悪い笑顔をしている。


「おい!!」


かけ声と共に男達が、ガラスを割り始めた。

机もひっくり返されて、椅子がたたき壊された。

部屋中の物を壊し尽くすと、笑いながら近づいてきた。


「わかったか。てめーらみてーな奴は、俺たちの言うことを黙って聞いてれば良いんだ!」


「ひゃーはははー」


男達は全員で笑っている。

こいつらは、いつもこんなことをやっているのだろう。


「あのー、アスラ様、もう良いですか」


きっと腹が立っていると思いますが、フォリスさんは静かに聞いて来た。


「フォリスさん、アスラバキでお願いします」


僕は、アスラバキという言い方は嫌いなのですが、自分で使ってしまった。


「はい」


とても嬉しそうに、男達の手足を全部折っていく。


「ふふふ、皆さんには、謁見の間に行ってもらいましょう」


僕は、手足が折れて動けなくなった男達を、魔王の玉座の上に丁寧に送り届けてやった。


「ま、まさかこのために、玉座の間へ行ったのか」


コデルさんが驚いている。


「まさか、違いますよ。でも悪い人は、玉座に座ってもらって、十回死刑になってもらいます」


「あ、あのー、こんな恐ろしいことをしたら、どうなるか」


メガネさんが震えている。


「大丈夫です。それより、あなたはもう自由です。どこへでも行ってください」


「む、無理です。家族が人質になっています」


メガネさんが悲しそうな顔をして首を振ります。


「では、それも解決しないといけませんね」


「はい」


フォリスさんが嬉しそうに返事をする。


「メガネさん、家族がどこにいるのかわかりますか」


「わかりますが、大勢の見張りがいて、助けられるはずがありません」


「様子だけ見に行って、無理なら諦めるということでは、ダメですか」


「そ、それなら」


では、サッサッと済ませてしまいましょうか。




メガネさんに案内してもらって、家族が監禁されているという郊外の倉庫に着いた。

なるほど、人相の悪い人が出入り口に数人います。


「中にも大勢います」


メガネさんは、助けるのをあきらめてもらおうと、言ってきたと思う。

それを、聞いてもうちの人達はまるで動じない。


「あ、あの、大勢います」


メガネさんは、聞こえていないと思ったのか、もう一度言ってくれた。いい人みたいですね。


「二十人位いるねえ。でもレベルは全員十以下じゃ」


ランロンが中を見てきてくれた。

壁も通り抜けられるようだ。すげー。


「さて、フォリスさんどうしましょうか」


僕は、作戦をフォリスさんに任せた。

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