第41話 潜入玉座の間

「では、アスラちゃん移動するかいのう、すぐに行くのじゃろ?」


「お願いします」


僕たちは魔王国の、王都の広場の片隅に移動した。


「わーー凄い!!」


フォリスさんがニコニコしながらグルグルまわりを見ている。


「凄いじゃろう、この王都は、魔人の国の人口の半分ほどが住んでいるのじゃ」


コデルさんが自慢そうに言う。

人間の国の王都より、ギュッと詰まったように建物が建ち並び、その建物の背が高く、空が小さく見える。

なんだか、重苦しい雰囲気の街だ。


すでにいい時間だったので、早めに宿泊先を確保した。

日が暮れて、あたりが暗くなると、僕はコデルさんに話しかけた。


「コデルさん、お願いがあります」


「まあ、そう来ると思っておった。どこへ行きたいのじゃ」


コデルさんは、察してくれていたようだ。


「王城の、玉座の間です」


僕は、これからはじまる戦いの、目的地を口にした。


「ぎゃあーーはっはっはっはっー」


コデルさんは爆笑している。


「無理ですか」


「ふふふ、結界が何重にもかけられている」


「やはり、無理ですか」


「ばっかもーーん、誰が出来ないと言った。わしをみくびるなーー」


「では、大丈夫なのですね」


「ふむ、アスラちゃんは慎重なのか、大胆なのかよくわからんのう」


「ふふふ、見て見たいものは、最初に見ておいた方が、いいと思います。警戒される前じゃないと、近づくことも出来なくなりますからね」


「どうするね、全員行くかね」


フォリスさんも、シュラさんもクザンもランロンもうなずいている。


「では、全員で行くかいのう」


急に暗いところに出た。

目が慣れてくると、広い空間の中だった。

長い歴史を感じて、息苦しい感じがした。

暗い為か、よけいに広く感じる。


「どうじゃ、魔王の謁見の間じゃ。ほれ、そこが玉座じゃ。なつかしいのう。ここで、魔王が何を言い出すのか、皆、ビクビクしていた。今、思い出してもおそろしいわ!」


そういうとコデルさんは両手を、胸の前で交差して寒そうにした。


「なんだか、恐い雰囲気です」


フォリスさんが、恐怖を感じているようだ。

きっとここで、大勢の人の命が理不尽に奪われたのでは無いだろうか。

恨みの念のような、重苦しい空気がただよっている。


「こら、何をしておる。見つかれば死刑じゃぞ」


僕は、無言で玉座に向かい歩き出した。

そして、そのままストンと座ってみた。

何も感じ無い、ただの椅子だ。


「うわーーーっ、な、何をしておる。玉座に座るなど十回死刑じゃーー!!」


コデルさんにとっては、ふれる事も許されない椅子。

恐れ多い行為なのだろう。心の底からあせっていることがわかる。


「騒がしいわね、だれかいるのかしら。ロホウ! 光を」


僕が椅子に座っていると声がした。

コデルさんが大声を出した為、誰かが近づいてきたのだ。


「はっ、お嬢様」


光の魔法具があたりを照らした。

ロウソク一本程度の明かりだったが、僕たちの存在はしっかり照らし出された。

そして、自らの姿もさらした。

二人の男女だった。


「驚いたわねえ、こんな所に侵入出来る人がいるなんて」


驚いたと言いながら、驚いている様子はなかった。

どこか余裕がある。


「リコ様、気を付けて下さい」


体の大きな金髪で美形のフル武装の男が、リコという銀髪の美少女の前に仁王立ちになった。

この男が強いということなのだろう。


「ぷーーーっ」


リコという美少女は、僕の姿を見て吹き出した。

僕は、玉座に座りふんぞり返って、口をへの字にして、目だけで、リコと大男をギロリとみていたのだ。

魔王を演じている少年の姿が、可笑しかったのだろう。


「あのね、その玉座、私がネズミの糞をばらまいておいたのよ。くすくす」


「な、なにーーー!!」


僕はあせって立ち上がった。


「嘘に決まっているでしょ。いくら魔王の孫でもそんなことをすれば、ただじゃすまないわ」


「くっくっくっくっ」


僕のあせっている姿が面白かったのか、フォリスさんやコデルさん、クザンやシュラさん、ランロンまで笑っている。

しゃくに障ったので、もう一度玉座にドスンと乱暴に座り、少しだけ右手を上げた。


さすがは、大賢者のフォリスさんです。それで全てを理解してくれました。

僕の前に進み出てひざまずいた。

そして僕にしか見えない様に、少しだけ舌を出して片目をつむった。

フォリスさんにならって、クザン、シュラさん、コデルさん、ランロンまで平伏した。

ランロンは見えないから、やらなくてもいいと思いますけどね。


「ふふふ」


リコが、少し不敵な笑いを浮かべながら、平伏した。


「ロホウ、魔王様の御前である。頭が高い」


リコは何を考えているのか、配下のロホウまで平伏させた。

僕を魔王と言って平伏したということは、僕の事を魔王とわかってくれたのでしょうか。

それとも子供の魔王ごっことか思っているのでしょうか。


まあ、玉座の座り心地を確かめる事は出来ました。

長居は無用です。帰りましょう。


「では、帰りましょうか」


僕は、リコとロホウに視線を送り、移動魔法を使った。




「リコ様、あの者は誰でしょうか」


「ロホウ、わからなかったのですか。あれは、魔王ですわ」


「では、報告しないと……」


「いいえ、おもしろそうなので二人の秘密にしておきましょう。ふふふ……」

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