第32話 再会

 わたしは受付のおねーさんの所へこどもの様に走って行きます。


「お、おねーさーん、これー」


 もう完全に子供です。


「あー、これS級冒険者限定ですね」


「えっ」


「エルナさんは、F級なので受ける事は出来ません」


「えっ」


「あと、これが代金になります。白金貨二個です」


「ちょっと待って下さい」


 エマさんが少し怒っています。

 おねーさんが少し挙動不審になっています。


「な、何ですか」


「少し、少なくないですか?」


「エルマさん、わたしはこれでいいです。はい、エルマさん」


 受付のおねーさんがほっとしています。

 随分ぼられたのかもしれません。

 わたしはエマさんに一個白金貨を渡しました。


「うふふ、半分こ」


「あ、ありがとうございます」


 エマさんが、目をキラキラさせて喜んでくれています。

 あ、それどころではありません、港町救出です。


「じゃあ、わたしはこの町を救えないのですか」


「そうですね。S級じゃないと受けられません。決まりですので……」


 それは、わかります、弱い冒険者の命を守るシステムです。でも……


「エルマさん、どうしましょう」


「クスクス、行きたいのなら勝手に行けば、よいではありませんか」


「その手がありました」


 わたしが笑顔になって移動魔法を使おうとしたら。


「私を忘れて行かないでくださいね」


「あ、はい」


 あと少しで忘れて行くところでした。

 危ない危ない。




 あー、潮の臭いがする。

 なつかしい、何もかもが懐かしい。

 港町の我が家の見える所に移動しました。

 走って、ぼろい木造船の甲板にのぼってみました。

 誰もいなくて寂しく感じます。


「……あー父ちゃんとかあちゃんに会いたいなー。ねえエマさん、このまま、私は逃げてしまうことが出来ますけど、逃げたら困りますか?」


「うふふ、第四騎士団が全員死刑になるぐらいで済みます。お逃げになりますか」


「うふふ、逃げる気なら、もっと前に逃げていますよ」


「わかっています。イルナ様はお優しいですから」


 私が逃げて父ちゃんのところに戻っても、すぐに発見されて、父ちゃんと教団がたたかう事になる。

 そうなると、あること無いことを言われて、父ちゃんは悪名をほしいままにする。

 だから、大人しくするしかないんだ。

 そんなことはわかっている。わかっているさ……。


「イルナ様、あまり時間がありませんよ」


「うん」


 町の中央広場に移動した。

 領主屋敷のほうから声が聞こえる。

 領主屋敷の中庭に移動する。

 なぜか町中の人が集まっている。


「な、なんで、皆いるんだーー!!」


「ふふふ、隣町もトロールに襲われていて、避難出来なかったのじゃ」


「じ、爺ちゃーーん」


 思わず爺ちゃんに抱きついてしまった。


「誰だ!!」


 人混みをかき分けて赤髪で片目に眼帯をしている、大きな女が現れた。


「おお、御領主殿!! 王都から助けが来ましたぞ。これで助かりましたぞ」


 新しい領主のようだ、領主というよりまるで海賊だ。


「何が助かっただ! F級冒険者じゃないか。ギルドは舐めているのか」


「な、何をいうんだ。イルナ様をバカにすることは許さんぞ」


 エマさんが瞬間的に怒っています。


「何をどう許さないと言うんだ、領内で私を侮辱すれば不敬罪で死刑だぞ」


「エマさん、時間の無駄です戦いましょう」


 私とエマさんは領主邸から出てモンスターの前へ飛び出しました。

 外にはフェンリルが二頭います。

 腹を空かせているのか、よだれを垂らしてこちらを見ました。


「ぎゃーーーー」


 エマさんが一頭、私が一頭瞬殺しました。

 ロッドでポコンと叩いただけで、コロンと倒れました。

 生身のモンスターは切ると血が出て気持ち悪いので、ロッドでたたいて倒しました。


「うおおおおおおーーーーー」


 その様子を見ていた人から歓声があがった。


「凄いもんじゃのう、アスラ殿を見ておるようじゃ!」


「爺ちゃん、おいらは時間が無いから、このまま隣町も助けてくるよ」


「うむ、気を付けてな」


「今度ゆっくり遊びに来るからねーー」


「提督、あの者は誰だ」


 領主が爺ちゃんに聞いている。


「あれは、わしの可愛い孫じゃ。じゃが、わしが知る中で、世界で三番目に強い自慢の孫じゃ」


 爺ちゃん、ちゃんと聞こえたよ。ありがとう。


「イルナ様ー、走って行くのですか」


 エマさんが追いかけてきた。


「そうですよ。行ったことが無いですから。この道を真っ直ぐ行くだけです。先に行きますねーー」


 隣町の救出は、帰る時間の三分前に終りました。

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