第31話 救助要請

 わたしは、オーガが二体だけなので魔法で倒すのはやめた。

 オーガ二体の攻撃を、全て足さばきでかわして見せた。


「いつの間に、あれは私が聖騎士達の訓練で教えていた型だ」


 エマさんが驚いている。

 わたしは家の中庭で訓練する聖騎士さんを見ていたのです。

 そして、勉強もせず人知れず練習していたのです。


「おい、治療薬をありったけ使え、何とか脱出するぞ」


 後ろでけがをした、冒険者達が、治療をしています。

 私の治癒なら、一瞬で治せるはずです。

 後でなおして上げましょうか。


「であーーー!!」


 オーガの腹に暗黒ロッドをポコンと当てます。


「がああああああ」


 叫び声と共に魔石に変わります。

 ほとんど力がいりません。

 父ちゃんの付与のすさまじさがわかります。

 おいらは、毎日父ちゃんを思い出しているからね。


 ――父ちゃん、かあちゃん、元気にしてるかなー


 地面に落ちているゴブリンの魔石を四つ拾って、結界の中にいる人達に投げた。


「これは、かえしておきます。あなた達が倒したゴブリンの分です」


 残りの魔石は、収納魔法で全て回収します。

 あとでギルドに売ってお小遣いにするためです。


「お、お前、俺のチームに入らないか。俺はチーム光の戦士リーダー、ロドンだ」


「お断りします」


 わたしは、極秘で行動しないといけない聖女です。どこから秘密がバレるかわかりません。

 人間関係は、増やせないのです。

 でも、ロドンって聞いた事あるなー。


「お前は、俺を知らないのか。もと最強チーム天神のリーダーだ」


 あー、思い出した。

 最強って言ったって、父ちゃんが最強だっただけじゃないですか。


「そのゴブリンはロドンさんが倒したのですか。強いみたいですね。でも今のメンバーはここでは足をひっぱっただけのようですね」


「だからだ、俺と組めば、俺たちは最強になれる。俺が保証する」


「ふふふ、そして強すぎるから追放するのですか。ロドンさんも弱いメンバーと戦う苦労をして下さい。全滅しないことを、影ながらお祈りいたします」


 わたしは、嫌な子です。

 こんな所で、父ちゃんの仕返しをしています。


「な、何を言っているんだ。まるでわからねえ」


 ぐはっ、この人には伝わらないようです。


「エルマさん帰りましょう。気分が悪いです」


「エルナ様、ロドン様を知っているのですか」


「ふふふ、どうでしょうか」


 ロドンさんをエマさんも知っているみたいです。

 有名なんですねえ。

 ロドンさんの仲間には、重傷者もいるようですが、治癒もして上げません。

 ざまーみろです。


「頑張って脱出して下さい。早くしないとまたモンスターが復活してしまいますよ」


「うわーーーっ」


 六人の冒険者がヨタヨタしながら逃げ出した。




 私達は、移動魔法でギルドの建物の影に移動しました。


「あ、お疲れ様です。エルマ様、エルナ様」


 受付のおねーさんの方から声をかけてくれた。


「今日も魔石を持ってきました」


「はい、どうぞ……あっ、こっちの台へお願いします」


 普通はカウンターの上に小さな魔石を数個ですが、私は特別な台を用意してもらっています。


 ザーーー


「うわあああーー」


 おねーさんが慌てています。

 ギルド内がザワザワしています。


「相変わらず凄い量ですね。計量しますので少しお待ち下さい」


 待っている間に、ギルドの壁の救援要請を見てみました。

 凄い数の要請があります。

 村や町の人が苦しんでいるのがわかります。


「エルマさん、沢山救援要請がありますね」


「そうですね。本当は聖騎士も救援に行きたいのですが、勝手に動けません」


「天帝の勇者も教祖も何をやっているのでしょうか」


「エルナ様、呼び捨てはやめて下さい」


 エマさんが怒ってくれた。

 これは、天帝の勇者や、教祖に忠誠を誓っているからでは無い。

 わたしの身を心配してくれているのだ。

 エマさんは心からわたしに忠義を尽くしてくれる。

 本当に感謝しています。


「あっ」


 わたしは一つの救援要請に目が釘付けになった。

 救援要請を見つめていると、じわっと涙が出て来ました。

 そこには港町ソロンからの救援要請がありました。

 おいらと父ちゃんとかあちゃんと爺ちゃんが暮らしたあの町です。


「エルマさん、この依頼を受けたいです。いいえ、受けます」


「あと二時間ぐらいなら大丈夫ですよ」


 わたしは紙を奪い取ると、受付へ走り出した。


「くすくす、あんなにはしゃいでいる、イルナ様を久しぶりに見ました」


 聞こえていますよ、しかも偽名を忘れているしー。

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