第22話 決心

 食堂の外の通りに、騎馬隊と歩兵が大勢いるため。店内も通りもザワついている。


「ふふふ、外には騎兵が百人、歩兵が四百人いる。逃げることは出来ないぞ。まあ、お前達子供がどうこう出来るとは思えんがな」


 ライファとかいう目つきの悪い女騎士が勝ち誇った様に笑った。

 こいつらは、知らないんだ、父ちゃんの恐ろしさを。

 おいらの父ちゃんはレベル1の癖においらがレベル999の時より強かった。

 外にいる兵士など一瞬で倒されると思う。


 それだけじゃ無い、父ちゃんの目に見たことが無い程の怒りがやどっている。皆殺しにしそうな勢いだ。

 すごくうれしい、父ちゃんがおいらの為にこんなに怒ってくれて。

 でも、だからこそ、父ちゃんを暴れさせてはいけない。


「かあちゃんまで、何やってんだよ。父ちゃんを止めてよ」


 かあちゃんが、ピクンと体を動かし我に返った。

 そして、父ちゃんの手を握った。

 ここで暴れたら、また父ちゃんの名に傷が付く。

 聖騎士と戦ったらその時点で大罪人確定だ。普通に死刑になる。


「エマさん。おいら、家族と話しがしたい。少しぐらい時間をもらってもいいだろう」


「素直に来て下さるのなら構いません」


 おいらは、エマさんに無言でうなずいた。


「ねえ、父ちゃん。暴れちゃ駄目だ。おいらはこの人達と一緒に行くよ。でも、そこで力をつけて正々堂々父ちゃんとかあちゃんの元に帰って来るから。だから心配しないで」


「駄目だ。イルナはまだ子供だ」


「ちっ、父ちゃんだって、見た目は同じじゃねえか。いつまでも子供扱いしないでくれよ」


 父ちゃんはまだ怒りが収まらないらしくて、怒った顔のまま聖騎士をにらみ付けている。


「なあ父ちゃん、最後だよ。おいらの顔を見てくれよ」


 父ちゃんは驚いた様な顔をして、おいらの顔を見た。

 おいらは、涙をこらえて、今までの感謝をこめて笑顔を作った。


「おいらは、自分の意志でこの人達と行くよ。でも父ちゃんとかあちゃんのもとへ絶対帰ってくる。待っててよね」


 普段は照れくさくて、父ちゃんには甘えなかったけど、今日は父ちゃんに抱きついた。

 滅茶苦茶強い父ちゃんが、ボロボロ涙を流しておいらを抱きしめてくれた。


「おいらは父ちゃんの悪名は聞きたくないんだ。父ちゃんには人々の賞賛の声こそふさわしいと思うんだ。おいらのために名声に傷を付けないでよね。お願いだよ」


 おいらは、かあちゃんにも抱きついた。

 ふふふ、三日前まではあんなに大きかった胸がぺっちゃんこ。

 目線も同じであんなに、大人の魅力たっぷりだったのに、今はまるで、おいらより年下のような顔になっている。


「かあちゃーーん」


 かあちゃんに抱きついたらもう収まりが付かなかった。

 次から次へと、とめどなく涙が流れ出した。


「イルナちゃん」


 かあちゃんの可愛い顔が、くしゃくしゃになってしまった。

 おいらが父ちゃんの顔を見たら、かあちゃんも父ちゃんの顔を見た。

 父ちゃんの顔はもうぐちゃぐちゃで、鼻水もよだれも垂れ流しで、可笑しくなってしまった。


「ぷぷぷぷ」


 かあちゃんと二人で泣きながら笑ってしまった。


「父ちゃん、かあちゃん、今までありがとう。毎日思い出すから。これからもずっと一緒だからね……」


 もう一度、二人にきつく抱きついた。

 こうして、おいらは教団の聖騎士に連行されて、神殿に連れ去られた。

 父ちゃんとかあちゃんとの急な別れだった。






 俺は全身に力が入らなくなり、極度な疲労感があった。

 それはフォリスさんも同じだったらしく、二人で木造船の自宅に帰った。

 いつもの様に甲板に横になった。


 フォリスさん、イルナ、俺の順でいつも横になっていたが、イルナの位置が空いている。

 まだ、二人ともイルナがいなくなってしまった事を、受け入れることが出来ていないようだった。


 こうしていると、イルナが普通にコロンと空いた隙間に入ってくるような気がした。

 自然と涙が出た。

 こんなの見られると恥ずかしいので、フォリスさんに見られないように横を向いた。


 長い時間が過ぎたように感じた。


「このままで良いのですか」


 不意にフォリスさんが口を開いた。


「ふふふ、フォリスさん、娘は父と母が助けるものです」


「……!!」


 フォリスさんは驚いた顔をしてこっちを向いた。


「正々堂々、娘を取り戻せば良いのです。賞賛を浴びながら」


 俺は一つの決心をした。

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