第23話 聖女の一日

 王都の中央に王城があり、その東側に宮殿がある。

 宮殿の東に勇者の屋敷が有り、今は第一王子派が根城としている。

 王城の西側に神殿が有り、その西側に聖女邸が二軒並んでいる。

 今はあるじのいない屋敷だが、ずっと聖騎士の四番隊が管理し、あるじが来るのを待っていた。


「この左側が先代の天帝の聖女様のお屋敷で、右側が先代の天神の聖女様の家です。どちらも、いつでも入居可能ですが、どちらになさいますか聖女様」


 エマさんという聖騎士隊の隊長は、いつも丁寧に話してくれる。


「おいらは、天神の聖女だから、右側でいいよ」


「ちっ」


 ライファという副隊長は、おいらが気に入らないらしく、舌打ちをした。

 エマさんと比べると態度が悪いし、むかつく。


「どうぞ聖女様こちらへ」


 エマさんが、お屋敷の扉を開けてくれた。


「わああー、ひろーーい、そして綺麗だ。まるでお城みたいだ」


「ちっ」


「やい、やい、さっきから、お前、態度悪いんだよなー―」


 おいらは、父ちゃんとかあちゃんから無理矢理引き離されて、少しいらだっていたので、つい、思った事が口から出てしまった。


「それは、私にいっているのか、ちび」


「ちびとは、おいらに言っているのか、ライファ!」


 ライファという聖騎士は、おいらが気に入らないらしい。

 でも、ちびは許せない。少しは大きくなっている。


「ライファ、やめなさい。聖女様もおやめ下さい」


 エマさんが困っている。でもやめる気はない。


「ふふふ、聖女の実力を知りたいようなら、良い機会だから教えて上げるよライファさん」


「聖女様おやめ下さい、ライファが強さでは我、四番隊一の強さなのです。とてもかなわないと思います」


「ふん、レベル1の聖女が偉そうにするんじゃねえ」


「ああ、鑑定ですか。あなたの鑑定では私はどうなっているのですか」


「ふふふ、私は聖騎士だ。ちゃんと鑑定も使える。お前の鑑定結果は、聖女、イルナ、レベル1、十二歳だ」


「残念ね、正解は、天神の大聖女、イルナ、レベル1、12歳よ。そして、あなたは中級聖騎士、ライファ、レベル30、19歳。そしてエマさんは、下級聖騎士、エマ、レベル32、22歳ですね」


「下級、中級、そして天神の大聖女、私の鑑定では、わからない」


 エマさんと、ライファさんが驚いている。


「遠慮はいらねー、かかってこい!!」


 おいらは、育ちが悪いので、がらの悪い言い方で挑発した。


「なまいきな、多少違っていても、レベル1はレベル1だろーが、なめるなーー」


 鋭い目つきで俊敏そうな、ライファさんが襲いかかって来た。

 遅い、レベル2ダンジョン一階層のゴブリンよりはるかに遅い。

 全ての攻撃を余裕で避けることが出来る。


「あのーー、本気でお願いします」


「くそがーー!!」


 少しだけスピードが上がったけど、それでも遅すぎる。


「もう、だいたいわかりました。相手になりません」


 おいらは、ライファさんの胸の真ん中を、手のひらでそっと押した。


「うわああああああーーー」


 恐ろしい勢いで、扉から飛び出し、広い庭の真ん中まで転がっていった。


「なっ」


 エマさんが目を丸くして驚いている。


「聖騎士とはこれ程、弱いものなのですか?」


 おいらは驚いてエマさんに聞いて見た。


「我、第四聖騎士団は、女性だけの隊ですが、弱い部隊ではありません」


「と、いうことは、普通の人間が弱すぎるということですね」


「ち、うっ……」


 エマさんが何か言おうとしていうのをやめてしまった。


「失礼しましたー! 大聖女様―!!」


 ライファさんが目をキラキラ輝かせて走ってきた。


「うわーーーっ、た、助けて下さいエマさん」


 何を考えているのか、ライファさんがおいらを抱きしめてスリスリしてくる。


「ライファ、やめなさい。大聖女様に忠誠を誓いますよ」


「はっ」


 二人は私の前にひざまずくと、騎士のしきたりにのっとり、忠誠を誓ってくれた。

 まあ、形式的な事だとは思うけど悪い気はしなかった。


「ところで、大聖女様。私達二人は護衛でもありますが、お世話係でもあります」


「は、はい」


「まずは言葉遣いをなおしていただきます」


「えっ、別においらは、これでいいよ」


「だめです」


「うわあー、エマさんがかあちゃんの様にこえーー」


「ぷーーっ、あの大聖女様はどうしてその様にお強いのですか」


 ライファさんが、笑いながら別人の様に丁寧な言葉遣いで聞いて来た。


「おいらなんか、父ちゃんに比べたら、強い内には入らねえよ。父ちゃんはおいらの千、いや万倍は強いよ」


 そう言ったら、エマさんが凄い顔をしてにらんできた。

 ライファさんの目がキラキラしている。

 父ちゃんのファンがこんな所に出来てしまったようだ。


「おいらではなく、私です。父ちゃんではなく、お父様です」


 エマさんが、おかあ様のようなきびしい顔をして見てきた。

 うっう、先が思いやられる。

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