第21話 聖女連行
「教祖様、た、大変です。祭壇まで来ていただけませんか」
巫女があわてて、わしを呼びに来た。
わしは、ベッドから降りると、ゆっくり祭壇に向った。
いまさら、わしがあわてるような出来事は、無いと思っているからだ。
六年前、国王が死んで以来、天帝の勇者とは戦力に大きな差が無い為、にらみ合いが続いている。
ここで、何が起るというのだろうか。
ま、まさか天帝の勇者の暗殺に成功したのか。
ふふふ、それならもっと大騒ぎになっているだろう。違うな。
「遅いぞ、ハルラ教祖」
祭壇に着くと、第二バカ王子が焦っている。
美人巫女二人と手をつなぎアホ面をさらしている。
「どうされました。モドス王子様」
「あれを、見ろ」
祭壇を見ている。
念の為、勇者の柱を見てみた。
相変わらず左から二番目の柱の上の玉が、青く光っている。
天帝の勇者が健在の証だ。
だが、王子や巫女の視線は、勇者の柱を見ているわけではなさそうだ。
聖女の柱の方を見ている。
「な、何だこれは……」
聖女の柱の上の玉が黄色に輝いている。
天神の聖女が誕生したということだろう。
「ラハル教祖どうするのだ」
ちっ、このバカ王子は相変わらず自分ではなにも考えない。
だが、これは、わしにとっては、好機かもしれない。
天帝の勇者はこの事実を知らないはずだ。
天神の聖女を味方に付ければ、戦力に差を付ける事が出来るかもしれない。
「巫女共、この事は絶対誰にも知られるな。聖騎士団四番隊、隊長のエマを呼べ!!」
まずはかん口令をしき、聖騎士団の女部隊の隊長を呼んだ。
なんとしても聖女を教団陣営に引き入れなくてはならない。
「お呼びですか教祖様」
「エマか。あれを見よ」
「あ、あれは」
「聖女様が誕生した。聖女様の石柱の下の石を持って、探し出し、ここへ連れてまいれ」
石柱の下の石には不思議な力が宿り、その石柱のあるじの位置を指し示す。
勇者もこの方法で探し出した。
「わかりました」
「まて、誰にもバレないように秘密裏に動き、絶対につれて参れ」
「それは、手段を選ばずと言うことですか」
「……」
「わかりました」
わしは、返事をしなかったがエマは顔色を変えて出て行った。
「ふふふ、教祖のわしの普段の行いが良いから、神が味方したということか」
「聖女を味方に付ければ、兄を出し抜けるということか」
ふふふ、このバカ王子でも事の重大さに気が付いたか。
「はーはっはっ、聖女かー。ラハル教祖、美女なら俺にくれ、かわいがってやる」
「王子、しばらく手出し無用にお願いします。下手をうって敵にまわすわけにはいきませんからな」
くそ、色ぼけバカ王子め、何を考えているのか。
「ならば、しばらくは我慢する。だが最初は俺だからな。もうお前のお古で我慢するのは嫌だからな」
ふん、誰がお前になど最初に与えてやるか!
この教団の女はすべてわしのもんだ。
ひひひひひ。
「おばちゃん、いつも悪いな」
食堂の女将にいつもの様に食料調達に来ている。
フォリスさんとイルナの二人は今、レベル1だからダンジョンでレベルアップをしなくてはならない。
大量の食料を調達して、一気にレベル上げをするつもりだ。
「まさか、王都にいるとは思いませんでした」
俺たちの席に見慣れない女騎士があらわれた。
「あなた達は、何ですか?」
フォリスさんが不機嫌に答えた。
三日前ならそれで良いのですが、今のフォリスさんは十二歳のお子様です。
「お前達、聖騎士団四番隊、隊長エマ様に対して失礼だぞ」
「よしなさい。ライファ」
「聖女様の御前です」
エマと呼ばれた女騎士がイルナに深々と頭を下げた。
なんで、こいつらわかるんだ。
俺が生まれた時も、聖騎士が連れ去ったと聞いた。
何か特殊な方法があるのだろうか。
「聖女様、我らと一緒に教祖様のもとへ来ていただきます」
「えーー、嫌だよ」
「我が儘を言ってもらっては困ります。断れば力ずくということになりますよ」
その言葉を聞いた途端にフォリスさんが立ち上がった。
少し遅れてしまったが俺も立ち上がった。
家族を力ずくで連れて行くというなら、生かして帰す気はない。
「子供が三人で何が出来るというのだ」
ライファとかいう女騎士が笑っている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます