第20話 換骨奪胎

「さあ、そろそろ、ボスを倒しましょうか」


 そういって、俺は百五十階層へ向って歩き出した。

 何だかいつもは、強気なフォリスさんが影を潜めて、おしとやかになっています。

 イルナもやはり雰囲気が暗くて物静かになっている。

 さっきの出来事を完全に引きずっています。大丈夫でしょうか。


 百五十階層に降りて、まずは雑魚モンスターの処理。

 無言ですが、二人とも体は動いています。

 雑魚と言っても、言うまでも無く強いモンスターです。

 それが森にいるゴブリンのようにサクサク倒せている。


 これだけ成長してくれれば、俺が勇者に退治されても立派に生きていけると思う。でも、俺としてはもう少し一緒にいたい。どうせ分かれなければならないのだが、いざそうなると名残惜しい。


 ――換骨奪胎をして、もう一度レベル上げを一緒にするというのはどうだろう。なんだか名案の気がする。

 ボス戦に勝てたら聞いて見ようかな。


 いよいよボスが出て来た。

 全身が真っ黒で光沢があり、まるで金属のような皮膚の、巨大な人型のモンスターだ。

 俺が少し体を動かしたら。


「アスラ様、二人に任せてください」

「父ちゃん、かあちゃんと二人で戦いたい」


 二人の声がそろった。

 俺は、大人しく見守ることにした。






「わたしの名は、ランロン、生と死の精霊じゃ」


「ぷっ」


 今までずっと一緒にいたくせに何を言っているのかと、思わず吹き出してしまった。


「あなたが、ランロンちゃん、やっと見ることが出来る様になった。とっても可愛い」


「本当ですね、妖精みたいに美しくて可愛い」


 イルナとフォリスさんがうっとりとした表情でランロンを見ている。


「わしは、妖精ではない、精霊じゃ」


 ランロンは妖精と言われるのは嫌なようだ。

 だが、真っ赤な顔をして、もじもじしているから、可愛いといわれて喜んでいるようだ。


「ここは換骨奪胎の神殿じゃ。換骨奪胎を望むのじゃな。」


「はい」


 二人の返事が重なった。


「うむ、二人とも祭壇に手を当てるのじゃ」


「はい」


「ふむ、二人の換骨奪胎の先の職業は、大賢者と大聖女じゃ、どちらを望む」


「おいらは大聖女」


「わ、私は大賢者」


「ふむ、同じ職も選んで良いのじゃが、それで良いのか」


「おいらは、かえなくてもいいよ」


「私の様な不浄な女は、聖女様にはふさわしくありません。賢者でお願いします」


「うむ、よかろう」


 ランロンがうなずくと、フォリスさんと、イルナの体が金色に輝いた。

 そして、フォリスさんは十二歳の少女の姿になった。

 あの巨大な胸のふくらみが、なんにも無くなってしまった。

 イルナは、美しい少女の姿になっている。


「えっ、イルナ、お前女になっちまったぞ」


「な、何を言っているのですか。イルナちゃんは女ですよ」


 子供姿のフォリスさんに怒られた。

 姿が子供になると、声まで変わってしまうようだ。


 ――うおーーーっ。俺のフォリスさんが別人になってしまったー!!


「これで、二人は生まれ変わった」


「えっ、生まれ変わった?」


 フォリスさんが目を見開いて驚いている。

 俺はこんなに驚いた顔をした人を知らない。


「そうじゃ、まあ、生まれたばかりの子供にはならぬが、確かに生まれ変わっておる」


 ランロンが言い終わると。

 フォリスさんの体が崩れ落ち泣き出してしまった。


「うわーーーーっ、うわあああーーん」


 すごい号泣だ、どうしたのだろうか。


「よかったーー、ううっ、よかったーー」


「フォリスさん、どうしたのですか」


 俺が近づいたら、フォリスさんが抱きついて来た。

 フォリスさんから、俺の体に触れてくるのは初めてで俺は驚いた。


「私は、けがされた女です」


「えっ」


 そうか、フォリスさんが体に触られるのを嫌がっていたのは、俺を嫌っていたわけじゃなかった。

 あの領主のことで自分をけがされたと思っていたんだ。


「生まれ変わったのでしたら、アスラ様に触れる事が許されます。うれしい」


「フォリスさん、俺はフォリスさんがけがされた女なんて思ったことは無かったよ。もしそれを言うなら、俺の方こそ二人の近くにふさわしくない人間だ」


「えっ」


 フォリスさんと、イルナが俺を見つめる。


「俺は、勇者だったとき、人を恨んで生きていた。心がけがれていたのさ。体なんかは、けがれねえ。一番けがれちゃいけねえのが心なのさ。俺はその心をけがしてしまった人間なのさ」


「ちがうよ父ちゃん。父ちゃんは俺を助けてくれた。優しい、良い、父ちゃんだ」


「そ、そうです。アスラ様は私も救って下さいました。けがれた心も、その後の行いで正せると思います」


「ありがとうな!!」


 俺は、慰めていたつもりが慰められていた。泣きそうになっている。

 この二人と、ずっと一緒に暮らしていきたいと思った。

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