第19話 絆
フォリスさんとイルナのレベル上げは順調だった。
一緒にいる時間が長くなり、俺はフォリスさんともイルナとも家族に似た、絆を感じていた。
でも、フォリスさんは俺の近くにはあまり来てくれない。
肌が触りそうになると、驚いたようにサッと避ける。
俺は、嫌われている様に感じて、その所作にいちいち深く傷ついている。
フォリスさんは、イルナとは抱き合ったり、嬉しい時など頬をスリスリしている。
最近では、イルナまで俺を避けていると感じる時がある。
「よし、やった。これでこのフロアも攻略完了だー」
俺は、喜びのあまりイルナに抱きつこうとした。
「うわーーっ。やめろよー。気持ち悪いんだよー。かあちゃーん、父ちゃんが気持ちわりー―」
俺とは気持ち悪がって、触れあってくれない。
俺は十二歳の美少年の姿だ。
中年のおっさんの様に気持ち悪くない。断じてない。……はず。
「かあちゃーん」
ちくしょう、イルナめ。
フォリスさんに甘えて抱きついている。
フォリスさんもがっちりイルナを抱きしめている。
俺だけポツンと一人だ。
でも、二人の視線は俺に集中している。
それに俺が反応したら二人とも、すげー、とびきりの笑顔になる。
それを見ると俺はとても幸せな気分になる。
だが、ふれあいも必要だよ二人ともわかっている?
俺もとびきりの笑顔を返しているが、心はもやもやしている。
「さあ、次がいよいよ、魔王に匹敵するとも言われている。難攻不落、最強最悪のダンジョンのラスボスだ」
俺たちは、砂漠の中央、難攻不落のダンジョンの百四十九階層の攻略を終了していた。
ここまで来るのに六年の歳月が過ぎていた。
ちびだったイルナも相変わらずちびだが、それでも俺より少し背が低いくらいまで大きくなっていた。
フォリスさんは、もうお色気ムンムンの超美人になっている。
俺は、最初二十六歳位だと思っていたのだが、その時が十八歳だった。その頃に俺が二十六歳と思っていると言ったら激怒された。だから今、二十四歳である。
ふふふ、服を着ていても鼻血が出るほどの美しさと、お色気である。
「じゃあ、すぐに行きましょう」
フォリスさんはやる気十分だ。
「待ってください。ここには聖女の泉があって、結界も張られています。体力の回復をしてから、のんびり行きましょう」
「はい」
「のわーーーーっ」
結界の中に入ると、ボロボロの服を着た人間がいた。
人なんかいると思っていないからすげー驚いた。
「なんでこんな所に人がいるんだ」
「俺はチーム天神のリーダー、ロドンと言います」
へえ、ロドンの奴そんな話し方も出来るのか。
しかし良く生きていたな。
あれか、回復魔法で何とか命をつないだのか。
意外と頭がいいな。
「私はフォリスと言います」
「フォリスさん、我々を助けてください」
「それは、いいですが、何故こんなところにいるのですか」
「我々は、天神の勇者と同行して来たのですが、あのクズ勇者、俺たちを置いてきぼりにして、ここの攻略の成果を独り占めにしたんだ」
「そうよ、そうよ、あなた達も知っているでしょ。天神の勇者はクズで最低なの!!」
パレスが追い打ちをかけた。
うーーん、それってフォリスさんに言って大丈夫かな。
俺がフォリスさんの顔を横目でちらっと見たら、笑顔に見えるけどその雰囲気は怒りに燃えているように見える。
俺が、十八歳のフォリスさんに二十六歳と言った時ぐらい怒っている気がする。
だってあの時は本当にそう見えたんだ。
「あの、あなた達は、本当に天神の勇者様が、クズだと思っているのですか」
「はーーっ、あんなやつ最低クズ勇者だろ」
五人が口をそろえてそう言った。
俺はこれ以上、フォリスさんを怒らせたくなくて、ダンジョンの外に五人を移動させた。
フォリスさんと、イルナの二人は悲しい顔をしてじっと動かなかった。
しばらくしてフォリスさんは、目からひとしずくの涙を流して俺の方を見た。
「アスラ様、あの方達を助けたのですか」
「ああ、これ以上フォリスさんの怒った顔を見たくなくてね」
珍しくイルナが俺にしがみついてきた。
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