第10話 これが現実

 俺はどんな事をしているのか興味津々だ。

 ナドラのように扉から頭を突っ込んで中の様子を見てみた。


「うわっ」


 俺は思わず声を出してしまった。

 ベッドの上で、御領主様と思われる蛙のような顔をした肥満した体の男が、滅茶苦茶美しいパンツ一枚の女性の胸に手を置いている。

 だが、合意の上では無いことが、女性の顔を見ればすぐにわかった。


 女性の体は、全てを諦めたようにだらんと力が抜け、美しい顔の両目から、涙があふれ出している。

 目は充血していてずっと泣いていた事がわかる。


 俺は、この女性の美しさにクラクラしている。

 長い金髪が本当に美しい。

 目と鼻、口が顔の中に並ぶ位置が、さらに大きさが完璧である。

 体も完璧だ、胸は大きく膨らみ、腰が描く曲線、それを細く包む薄い生地の布はもう宝石の様に輝いている。

 輝きすぎて目がつぶれそうだ。


 こんな美しい女性が、こんな醜い領主に自由にされていいものだろうか。


「ひでーことをしやーがる」


 俺は、怒りに我を忘れそうになっている。


「ナドラ、何をしている。このガキをたたき殺せ」


 ナドラの体を、領主の横に放り投げた。


「な、なんだこれは」


 領主は、はいずることも出来ないナドラを見て驚いている。

 すかさず、驚く領主の足首をつかみナドラの横に投げ飛ばした。


 不意に現れた男達に半裸を見られて赤くなって、手で胸を隠している女性に、俺の上着を投げてやった。


「……」


 格好を付けたつもりだが子供用の上着は、何をするにも小さくて、どうすればいいのか女性は困っていた。

 俺は領主からガウンを奪い取ると、女性に投げて、小さくて役に立たない上着をもう一度着直した。


 かっ、かっこ悪い。

 顔が真っ赤になった。


「ありがとう」


 そんな俺に、笑顔を見せて笑ってくれた。

 声が、可愛い。

 なんだこの人、女神じゃねえのか。

 正気が保てねえ。


 正気を保つため、領主の両手両足を折った。


「ぎゃあああああああああ」


 悪党の悲鳴で、俺は正気に戻った。

 正気にもどって女性を見ると、指をさしている。

 指の先には扉がある。俺は中をのぞいた。

 そこには、全裸の女性の死体があった。


 全員首に紐が巻かれ、窒息死をしている様だ。

 見ると、金髪女神の首にも紐が巻かれている。

 領主のひとときの快楽の為に、この女神も命を失う所だったのだろう。


「可哀想だが死んでいるみたいだ」


「うっ、うっうううう」


 女神は泣き出した。

 だが、こんなことは日常茶飯事だ。

 金を持ち、暇を持て余している貴族などほとんど、こんなもんだ。


「わ、わしにこんなことをして、ただで済むと思っているのか。今なら命は助けてやる。その女もくれてやる」


 うわあ、まじか、こいつ俺の心が読めるのか。

 この女神が手に入るなら、もう何もいらないと思ってしまった。

 だが、こいつが本当の事を言うわけが無い。

 だが、この女神はまじでほしい。


 俺が少し動きを止めていたら、女神がナドラから刃物を奪い取り、領主を殺そうとしている。


「うわあーー、やめろーー、い、命だけは助けてくれー―」


「やめろーー」


 扉から、港に来ていた兵士の隊長が入ってきて大声を出した。

 俺は、素早く女神から刃物を奪うと、隊長の手足の骨をたたき折った。


「ぎゃああああ」


「ふふふ、どうだ、言った通りになっているだろう」


 地べたに這いつくばる隊長を見下ろして俺はつぶやいた。


「くそう、お前達はもう絶対許さん。許さんぞーー」


 領主が怒っている。

 倒れている、悪党三人組が恐ろしい顔でにらみ付けてきた。


「なあ、あんた、こんな奴でも、あんたが殺しちゃ駄目だ」


 俺は悪党を無視して、女神に話しかけた。

 偉そうに話しているが、心臓が破裂しそうな位ドキドキしている。

 だって、相手は、滅茶苦茶美人なんだぞう。


「うっうううううう」


 女神はベッドに顔を埋めて泣き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る