第8話 船員との和解

 荷物運びが終ると、船員達が笑顔になっていた。

 俺は、何だか気持ちがよくなっていた。

 イルナがいなくて俺一人なら、決してこんなことはしていなかっただろう。


「いたそうだなー―」


 イルナは足を引きずる船員達を見てつぶやいた。

 まあ、俺に喧嘩を売ったんだ自業自得だ。


「父ちゃん、船員さんの足って治してあげられないの」


 イルナが足を引きずる船員を見ながら、悲しそうな顔をして俺を見た。


「そんなことぐれー、朝飯前だ!」


「すげー、すげーよ、父ちゃん! そんなことができるのか」


 イルナが驚く姿に気分がよくなって、船員全員を直してやる気になった。


「ふふふ、なあ爺さん、船員達の足を治してやりたいのだが、どうかな」


「はぁ……」


 爺さんが大きな口を開けて驚いている。

 俺は近くの箱に腰掛けた。


「足の悪い奴を集めてくれ」


 爺さんと船員が手分けして、けが人を俺の前に集めた。


「アスラ殿これで全部だ」


「ふむ、治癒」


 俺は、集まっている百人以上のけが人に向って手を広げ、治癒魔法をかけた。


「うおおおおおーーー」


 歓声があがった。

 どうやら全員治ったようだ。


「すごいもんじゃのう。海軍におった時も上位神官が同行していたが、一日三人の治癒で魔力が枯渇しておったのだが……」


 爺さんがしきりに感心している。




「おい、がき!!」


 昨日の親方が嫌な笑いを浮かべまたあらわれた。

 そして、大きく手を振り出した。

 ガチャガチャという音と共に数十人の兵士が現れた。


「ちっ、領兵だ」


 爺さんが少し焦っている。

 領兵が来たと言うことは俺の事が領主の耳に入ったと言うことだ。

 領内で領主の権限は絶大だ。

 逆らうことは死を意味すると言っていい。

 そういう事は俺も良く理解している。


 だが、それは領主より弱い奴の場合だ。

 悪の親方に力を貸す領主など、少し厳しい罰が必要だ。


「な、何の用だ」


 昨日の体のでかい髭面の船員が前に出てくれた。

 それだけでは無い、船員達が皆俺を囲むように守ってくれている。

 こんなことは今まで一度もなかった。

 いままでなら、仲間と思っている奴に真っ先に突き出されていた。


「爺さん邪魔だ、船員をどけてくれ」


「なっ……」


 爺さんが少し怒った顔になった。

 せっかく皆が命をかけてかばっているのに、なんて事を言うんだということだろう。


「ふふふ、皆には心から感謝している。だが領主ごときに俺が遅れをとることは無い。心配せずに任せてくれないか」


 俺は余裕のある表情をして、にこりと笑顔を作った。


「みんなー―、俺たちが邪魔になっている。道を空けるんだー―」


 髭面の大男が船員をどけてくれた。


「て、てめー、頭大丈夫か。兵士だぞ。手を出せば確実に死刑だぞ」


 親方が少し焦っている。


「小僧、きもがすわっているなー。本気か」


 兵士の隊長が前に出てきた。

 見た目は強そうだ。


「やかましいなー。お話をしにきたのかよー」


「ふふふ、殺しても構わん捕まえろ!!」


 兵士は抜剣すると斬りかかってきた。

 別に雑兵の剣ごときで傷一つ付かないとは思うが、一応避けておいた。

 兵士の動きは止っているように遅い。

 俺は、兵士の両足を、丁寧に蹴り飛ばしてやった。


「ぎゃああー」

「ぎゃっ」

「いでーーー」


 隊長をのこして兵士全員が倒れたまま動けなくなっている。

 親方は両足だけで無く、両手もへし折ってやった。

 これで、少しは懲りるといいのだが。


「き、きさま、こんな事をしてどうなるかわかっているのか」


「わかっているさ。領主が命だけは助けて下さいと言うのさ。生かすか殺すかはその時の態度次第だ。お前は助けてやる。今から小僧が一人で、屋敷に行くから全兵士で守りを固めておきな」


 この言葉を聞くと隊長は、走り出した。


「爺さん、すまねえがイルナを頼む」


「アスナ殿本当に行かれるのですか」


「ふふふ……」


 俺は返事をせずに笑った。


「このまま、逃げれば……」


 言いかけて爺さんは、無駄だと気が付いたのか言うのをやめた。


「領主は、あの城にいるのか」


 すでに日が暮れかかってあたりは薄暗くなっている。

 そこに明るく浮き上がっている城の姿が見える。

 爺さんはうなずいた。


 それを見て、俺は走り出した。

 途中で隊長を追い抜いたが、隊長はそれすら気が付かないようだった。

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