第3話 魔王レベル 1

「ここが換骨奪胎の神殿です」


 リズは湖の前に降り立った。


「まさか、この中にあるのか」


 リズはうなずいた。

 俺は、顔を水の中に入れて、目をこらした。

 湖底に何か黒い巨大な影が見える。

 息がもつか心配だったが、無理な時は移動魔法があるので飛び込む決心をした。


「リズ、そこの岩に捕まるから尻尾で湖に飛ばしてくれ」


「はい」


 リズは俺が岩にしがみつくと、乱暴に尻尾で岩を飛ばした。


「ぎょえーえーーー」


「アスラ様、私はここでお戻りをお待ちしていまーす」


 リズが何か言っているが、凄い勢いだったのでよく聞こえなかった。

 大きな岩を選んだので、勢いよく沈んで行く。

 水の中にドームのようなものに、覆われた神殿が見えてきた。

 きっと結界なのだろう。

 確か、レベル百以上無ければ、中に入れないと言っていた。


 結界のドームの中は空気があった。


 ズドーン


 おかげで十五メートルほど落ちた。


「おいおい、俺じゃ無ければ死んでいるぞ、これ!!」


 あたりを見ると、多くの白骨死体が転がっている。

 立派な甲冑を着ている白骨が多い。


「せっかく、レベルを百以上にして、転落死じゃあ浮かばれないぜ」


 気持ちが悪いので、白骨を避けながら神殿の入り口に向った。

 入り口を入ると正面に大きな空間があり、その奥に祭壇のようなものがあった。

 神殿の中にも大量の白骨死体がある。


「ふふふ、久しぶりの来客じゃのー」


 真正面の祭壇を見ていると横から声がした。

 声の主はふわふわ宙を浮いている青白い美少女だった。


「わたしの名前はランロン、生と死の精霊じゃ」


「おれは、アスラだ。換骨奪胎がしたい。お前に頼めばいいのか」






 わたしは、アスラという無骨な男を鑑定してみた。

 驚いたことに天神の勇者だった。

 いつもここに来るのは、天神の勇者に嫉妬した勇者だった。

 ここで換骨奪胎をして、魔王になるとレベルは一になるがステータスには二十倍の付与が付くのだ。


 そして魔王になった勇者が、天神の勇者に戦いを挑み敗れる、それがこの世界で何度も繰り返されている歴史なのだ。


「アスラ、お前は、天神の勇者じゃないか」


「ふふ、そうだ。わかるのか?」


「天神の勇者と言えば、最強の勇者だ。お前が換骨奪胎する必要があるのか。金も名誉も女もすべて思いのままだろう」


「うるせーなー、そういうのは天帝の勇者が独り占めしとるわ。あいつ、顔がめちゃめちゃ良いんだ」


 うむ、ここまで話しただけで、悪いのはお前の性格だー、と言いたくなった。


「まずは、換骨奪胎先の職業を見てやる。ふむ、神と魔王じゃ」


 すごい!! 神って初めて見る。

 長く精霊をやっているが、その私が初めてだ!!


「じゃあ、魔王で頼む」


 なぜだーー。こいつおかしいのか。


「いやいや、よく考えろ、神じゃぞー」


 なんで、ここで迷わず魔王を選択するのじゃ――!!

 だいたいお前が魔王になったら、倒せるものなどいないぞ。


「うるせーなー、神なんて面倒くさそうじゃねえか。俺はもう、人間とはあんまり関わり合いになりたくねえんだ」


「ふむ、なんだか事情がありそうじゃのう。よかろう魔王に換骨奪胎じゃ」


 私は、この男に少し興味を持ってしまった。

 こんな、魔王がどんな生き方をするのだろうか。


「……」


「どうした、もう終ったぞ」


「はあ、もう終ったのか」


「うむ、今日よりお前は、レベル一の魔王じゃ。特典は精霊の加護じゃ」


「それってまさか、お前が付いて来るっていう事か?」


 意外とするどいのう。

 頭は悪くないようじゃ。


「おかしいのう、換骨奪胎をしても性格が変わっていないのか」


「なに、性格も変わるのか」


「なんじゃ、お前でも直したいのか」


「……」


「あと、年齢は成人になった年、十二歳じゃ」


「な、なんだって、餓鬼じゃねえか」


 アスラは近くの水面で自分の姿を確認している。






 俺は自分の姿を見て愕然とした。

 自分とは似ても似つかない、美少年の姿があった。

 レベルは、一になっているが、強さは弱くなった気がしない。

 まあ、レベル一ならこれを維持していれば弱さを維持できるはずだ。これでいいだろう。


「おい、ランロン、ここの白骨死体は全部子供だ。帰れ無かったのか」


「そうじゃ、レベル百で来て換骨奪胎をして、魔力が一〇分の一になり、魔法が使えなくなったのじゃろう」


「そうか、可哀想になあ。じゃあ、俺は帰る。お前も来るのか」


「当然じゃ」


 俺は、何か忘れている気がしたが、魔族と人間の国境の町へ移動した。

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