第4話 港町

「うわあ、くさいのじゃー」


 南の果ての小さな港町についた。

 西には魔人の国との国境がある。

 活気はあるが治安は悪そうな街である。

 街には強い潮の匂いが充満している。

 ランロンはこの臭いが苦手なようだ。


「そうか、俺は好きだぜこのにおい」


「おぬし、せっかく姿が変わったんだから、話し方を変えたらどうじゃ」


「ちっ、美少女の姿で、ばばあの話し方をしている奴に言われたかねえぜ」


「ふん、そんなことだから、人に嫌われるのじゃ」


「じゃあ、どうすればいいって言うんだ」


「語尾にですを付けるのじゃ」


「そうかよ、です」


「……」


 まあ茶化してはみたものの、ランロンの言うとおり嫌われ者人生も辛いから、少しずつ直していこうと考えている。

 こんな会話をしていたら、まわりから視線を感じる。

 ランロンの姿は普通の人には見えないようだ。

 でかい独り言をいう変なガキと映っているのだろう。

 目立ちまくっている。


「だれかーー。スリだーー。捕まえてくれー」


 人混みから、大声が聞こえる。

 小さなガキが必死でこっちに走ってくる。

 手には財布のようなものをもっている。


「まちな!!」


 俺は、ガキを捕まえた。


「はなせーー、はなせよー」


「ちっ、暴れるな。俺に捕まったら逃げられないぜ……逃げられませんよ」


「な、なんだてめーー、はなしゃあがれ。ガブッ」


 このガキ、おれが若いとみて、口調が乱暴になった。

 そして噛みついた。


「いてーーー!!」


 ふふふ、ガキが俺に噛みついて、痛がっている。

 俺にお前程度の噛みつきが通じるかっていうんだ。


「なあーっ、歯が折れたーー」


 まじか、本当だ。前歯が二本無くなって、すごい血が出ている。


「おい、にーちゃん、助かったぜ」


 財布を取られた男が、ニヤニヤしながら近づいてくる。


「ほら、もう取られないようにしな……して下さい」


 やっぱ言葉使いを治すのは難しいなー。

 俺は男に財布を渡した。

 男は財布を受け取るとガキの腕をつかみ連れて行こうとする。


「おい、手を離せよ」


「いいえ、捕まえたのは僕です。僕が身柄は預かります」


「舐めているのかー、離せつってんだよ」


 俺の見た目が若いからか、態度がでかい。


「それほど言うのなら力ずくでどうぞ」


「どうなっても知らんぞ」


 男は、俺に殴りかかってきた。

 避けることも無いかと、無抵抗で殴られることにした。


「ぎゃあー、いてーー!!」


 しまった、俺、換骨奪胎で弱体化しているのを忘れていた。

 だが、俺は全然痛くなかった。

 痛がっているのは殴った男の方だ。


「手がー、手がーー!!」


 見ると、全力で岩をぶっ叩いたような手になっている。

 指が数本変な方を向いている。


「おい、ちび。じゃねえ、おちびちゃん大丈夫ですか」


「ふん、気持ち悪いんだよ。もういいだろ離してくれよー」


「まあ、慌てるな。飯を食わしてやる。一緒に来い」


「い、いらねえよ。はやく帰らねえと、親方に怒られるんだ」


「ほう、お前達のような、おちびに悪さをさせる親方がいるのか。しかし、お前達もたいへんだなあ。盗みがばれて痛めつけられて、帰れば親方に殴られるのか」


「う、うるせえよ。そんなこと言うなら助けてみろよ。出来ねえくせに」


 そういいながら、ちびは涙ぐんでいた。


「ふふふ、出来ないと思うのか。お前こそ俺を、僕を舐めるな」


 俺は眉をつり上げてにらみ付けた。

 おちびは少し怯んだ。


「さあ、僕は腹が減った。お前にも奢ってやる」


「い、いらねえって、言っているだろ」


 ぐーーー。

 おちびの腹の虫がなった。

 俺はちびの腕をつかんだまま、無理矢理近くの屋台で飯を食わせてやった。


「おい、おめーは馬鹿なのか。まだこんな所を、ウロチョロしていたのかよー」


 俺たちが、食後のお茶を楽しんでいると、手を包帯でグルグル巻きにしたさっきの男が現れた。

 包帯男は、船員だったのか、仲間を四人連れて復讐に来たようだ。


「おいおい、馬鹿はてめーらの方だぜ。てめーらの方です。ケガをしないうちに帰った方がいいと思いますよ」


「やってみろよ」


 体が一番大きな髭面の男が前に出た。

 手に丸太のような、角材をもっている。

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