凍ってました。最強に。

木田りも

凍ってました。最強に。

小説。 凍ってました。最強に。


久しぶりの再会。

凍っていたそれら。存在していたはずのそれら。

理由とかいろんなものはよくわからないけど、俺はひさびさに笑ったかもしれない。


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過去の栄光。すがっているだけ。

何もかもあの頃のままだ。



僕は、変わらないことを望んでいる。

例えば、友達の家の場所。

そこに向かうまでの道。

見慣れた風景があると安心する。いつもと変わらない友達がいて、いつもと変わらないことを話して、もう何十回もやったテレビゲームを未だにやる。お菓子を食べて日が暮れるまで。日が暮れたら晩御飯を出してもらって図々しく食べる。食べ終わって帰るのは寂しいからあと1時間ちょっとだけゲームをして帰りは駅まで送ってもらう。

ダラダラと過ごす毎日。永遠ではないことなんてわかってる。

でも、この瞬間だけは本当に最高である。


過ぎ去った過去がある。永遠に残り続ける。正直に嘘をつかない人間に憧れた。嘘をついた人間は出世した。親切に立ち振る舞う人間を目指した。人1人にそんなに時間を割くな、って怒られた。クレームが入った。親切に立ち振る舞わなかったお前のせいだと言われた。親切になろうとした。時間がなかった。クレームが来た。お前のせいだ。

嘘をつけない不親切なお前のせいだ。

お前がなぜ上に行けないかわかるか?

もっと人に優しくなりなさい。

(体験談より)



世の中の人とたくさん出会い、多くの人と話をしてきたおかげで、妙に器用に立ち振る舞う僕が生まれた。今までの自分とはかけ離れた自分。人に優しく、とか、その人の立場になって考えよう、とかそういったものを捨てて、自分のため、ただ自分さえ良ければという最低な成長意欲に唆されている。

周りがそうだからだ。なぜ自分だけが耐えなきゃいけないのか。なぜ自分はこんなにつらいのに、笑顔でいなきゃいけないのか。

自分のために他人を蹴落としたり、他人に失敗をなすりつけたり、それが上にはバレなくても当人にはバレて恨まれたり、仕返しされたり。仲間だよね?僕たち。

もう疲れたのだ。常に演技をし続ける自分に、ありのままの自分を抑制し続けることに。


全て辞めたのだ。そういった煩わしいものを。僕は自由だ。取り返しのつかない自由を謳歌しようか。

これは、俺の人生だ。俺が主役で、俺は世界で一番有名で人気があるスーパースター。

そんな妄想やらなにやらを引っ提げて、

いるのだ。旅行で来た、もう2度と行かないであろう映画館で急に叫んだって周りに変な目で見られたりすることも快感だ。

前までの俺はどこへ行った?そんなことは知らない。生き続けていて生き切っているのだ。


たまに、夢を見る。

昔、あの友達の家。成長した俺たちがいて、でもやってることは昔のままで。

変わらないままそこに存在する愛しい空間。

だけど絶対に崩れる。なぜか君からは職場の人間の声が聞こえる。悪口、嫉妬、愚痴。変わらないはずの空間が、全て崩れ、映画やドラマのセットのようにハリボテが倒れ、そこは、今1番見たくなかったかつての職場という見慣れた風景になる。どこに何があるかも全て把握している。作業効率化のため、場所を変えたものたちは、衛生面の関係から元の場所に戻された。お前のする行動は全て余計な行動だと罵られた。夢という不安定なものが奪う何もかも。自分の記憶にしか存在しない部分から僕が僕にダメージを与える。

悪夢という明晰夢。夢が夢だとわかるからこそ自分の人生だ。

僕はなんだ。心で反芻していたはずの「ありがとう」という文字や、感謝、尊敬、共存、切磋琢磨。そういった言葉が凍ってゆく。たぶんもう2度と思い出せないくらいに。


かつてそこに存在していた痕跡だけを残して、存在することを知っている情報だけを残して。これはつまり、それを知らないということよりも厄介なのだ。

がんじがらめな毎日。自分で生きづらくした世界。たぶん。孤独。たぶん。

これが、孤独。たぶんね。


あのさ、

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少し疲れてるんじゃない?

友達に言われた。


疲れなんてもういつから溜まってるかわからない。僕はとりあえず黙った。近況報告なんてする気も起きない。

しばし僕らは無言のままお酒を飲み、お店のおすすめをもらった。店員さんが顔を覗くときだけ妙に愛想良く対応していただろうからきっと気味悪がられているだろうし、次はないと思っていた。僕はぼんやりと友達を見ていた。友達は何かを考えているような演技をしているように見えている。やがてこちらを見ると、よし、と言ってまるで演技のようにビールを一気飲みした。まるで何かを決意したかのように。友達は演技らしくこちらを見た。清々しい顔をした。まるで演技のように………


「まあ、あれじゃない?

よくわかんないけどさ、約束された安心とかそんなものなんて存在しないんだよ。他人なんて所詮他人だしさ。だからさ、なんていうか、その、無理しなきゃいいんじゃない?こうなればいいやぁぁああーとかさ、こうすればどうかぁあ!とか次はどうなる??なんと!?みたいなさ、あれ?なんの話だっけ?あは、まあいいや。まあ、とりあえずさ、まあ元気になったらまた遊ぼう。前みたいにさ、それでいいじゃん。生きてれば可能性はあるんじゃない?1%でもさ、他人と出会う可能性があるやん。コンビニ行ったり、スーパー行ったりして、そこで可愛い人がいたりしてさ、わかる?あるじゃんたまにめっちゃ可愛い人がいたりとか。あれハンパねぇよな。なんかいいこと言おうとしてみたけど酔ってるからまとまりないね、ごめんね。でも久しぶりのお酒だし、何よりお前とまた会えて良かったよ。ほんと、お前と会えて良かったよ。」


面白おかしかった。僕はしばらく腹を抱えて笑っていた。周りからはやかましい酔っ払いだと思われただろう。

しかし、こんなにベロベロに酔っ払いながら、こんなにかっこいいことを言えるのか。ベロベロに酔っ払いながら所々聞き返したくなるくらい呂律も回っていない。なのに、僕はボロッボロ涙を零しながら大笑いして、もう面白くて面白くて仕方なかった。ずっと存在し続ける過去というものがコンプレックスだった。どんなに遠くへ行っても逃れられなかった。しかし、僕、、俺は最強だった自分を思い出した。ベロベロに酔ったお前もいろんな人と出会い別れ、話したり落ち込んだりしていろんな経験をして変わっていくんだなぁと思った。でもそれと同時にお前は変わらないんだなぁとも思った。さっきまで演技に見えていた全てが現実になった。生きてる。俺、生きてる。


僕は紛れもなく僕で大切な時間。生きてた。

今の俺、も!生きてる。

どっちも生きてるし、生きてたし、

生き切っている。生き切り続けている。

死ぬまで生きるし、それまでは図々しく生きる。


「あ、図々しいでおもいだした。

またお前んちでご飯食ってもいい?」


僕はお前に肩を組み、夜空のまだ電気がたくさんついてる会社とか世界に向けて中指を立てた。



おしまい。





あとがき。

全盛期とか言われると悲しくなる。

いつだって今この最新の自分が1番良くありたいし、みんなそうでありたい。これから年老いて運動能力などは確かに衰えるかもしれないが得た知識や、ここまで生きてきた財産は蓄積されるはずである。良いことも悪いことも。そんなものを大事に生きていきたい。


人は変わっていくし、僕も変わっていると思う。変わらないものを求めてしまうし、あの頃の安心感とか楽しかった記憶ばかり思い出してしまう時もある。

それでも何が起こるかわからない今日これから、明日明後日を楽しみに生きていきたい。

つらい時、泣きたい時もあるけど、心穏やかに健やかに少しでも長く生きていきたい。

立ち止まってもいい逃げても良い。

ただ生きたいなって思った。それだけです。


読んでくれた方、ありがとうございます。

これからも頑張ります。


木田。

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凍ってました。最強に。 木田りも @kidarimo777

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