第6話 ♠分♠ 運命の分岐点
「細かい話は置いといて、大きいところを話すわね」
そう前置きして、
夢魔の胡散臭い脳内ボイスや鉄人形の金属声と違い、ナノカの声音には落ち着きがあった。
ただ、話の中身は、半ば予想していた通りに斜め上のもの。
✧
その力の源は、クォーク量子の集合体であるストレンジ物質。
クォーク量子の集合体というのは、人類の技術水準ではバカでかい粒子加速器で作れるくらいのもの。しかも、瞬時に分解してしまう不安定なものをなんとか作るくらいまで。ストレンジ物質なんて安定量子を作り出すには至っていない。
ストレンジ物質は寿命を終えた大きな恒星に生じることがある物質。中性子星の深層、または、クォーク星の構成物質として。
ナノカ達は、
――超高速で計算できるのだから、椅子の数をちゃんと人数分に合わせるのも余裕ということか。
どっちかというと、童女の数と椅子の数を合わせてみせたことの方に僕は感心していたらしい。
「でも、
枯れ葉の椅子をペシペシ叩きながらナノカは言う
「そう……だね」
頷く他ない。
VRMMO上で魔法の類は見慣れている僕だが、枯れ葉から椅子を作る類の事が現実世界で可能であるなどと考えたことはない。
「この惑星上では、誰も見たことないはずよ。本来、この地球の余剰次元サイズでは、枯れ葉から椅子を作る類いの操作はできないのだから」
ナノカは説明を再開した。
――なかなか理解が追いつかないが、こういう話らしい。
クォーク量子が集まったストレンジ物質はとてつもなく密度が高い。10円玉サイズのストレンジ物質で、質量1億トンほど。しかも周りの通常物質を取り囲んでストレンジ物質化していく性質がある。
結果、ナノやナノカを構成する類のストレンジ物質は、地上で無限に肥大化していってしまう。つまりは、この地球では、本来、ナノやナノカの類は存在しえない存在。
ナノカの言う「この地球」とは、僕らの地球のこと。
対して別の地球には、ナノカやナノが存在しうる。
なぜならばというか、なんていうか、この宇宙には余剰次元サイズが微妙に異なる並行世界の地球が
本当なのか、ほんまでっか……と、気分的に棒読みで僕は思う。
けれども、今、ナノカ達は僕の前にいる。枯れ葉から椅子を作ってみせた。
「つまりは、このあたりの余剰次元サイズが
先ほど、たわ言と聞き流した
「……とある乙女座超銀河団の、有希、か」
「そう、有希に魅了された余剰次元が、自らの物理的性質を変えて、彼女の
何やらナノカは言い淀んだ。
僕も(え~と……)となってしまう。
「要するに、ね。ストレンジリットから、ささっと私みたいなのが作れるように、この地球の余剰次元の性質が変化したというわけ」
そんなご都合主義、ありうるのだろうか……
「さらに、私も、さすがにびっくりなんだけれど、そもそも有希と私は幼なじみだったらしいのよね……」
「つまりは……何ていうか……ナノカがストレンジ物質ボディになったのは有希が願ったから、とかいうあたり、なのか?」
話の半分も理解できていないままに、僕はナノカに確認を入れた。
「そうね。たぶん、小6の時に有希とエミリの舞踊を見て以来、私の運命とか性質とかが不可逆的に有希が導いた方向に変化していったという、あたりね……」
ナノカの歯切れが悪くなった。そんな不思議な踊りなんてあってたまるか、と思うところだけれど、現にナノカは存在自体が既に異能な不思議ちゃんと化しているわけで。
どう理解したら……と思えど、僕はこれまでの話ですでにお腹いっぱいだ。
――初耳のエミリという名はスルーするとして、やっぱり最後に聞いておこう。
「不思議な話、ありがとな。まぁ、ついでに一つ聞いておきたいんだけれど、その有希の名字が、とある乙女座超銀河団なのはなんでなの?本名じゃなさそうだよね?」
「そうね。気になるわよね……」
ナノカは言い淀む。
「……そうね、
ナノカは悲観的なものいいをした。たぶん。
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