お誕生日会は物理的に結納の儀となりて

第5話 ♠気♠ ナノとナノカの気になる登場

《わかったわかった、続きの説明はナノ姉さんから》


 何の姉さんから?

 真由美さんの甘噛みの呪い(?)から離れ、僕の意識ははっきりしてきている。

 (こいつティーナに妙な言い逃れなどさせちゃいけない)


 そう思うなり、人形少女ドルフィーナが眼前に浮かび、じっと見つめていることに気づいた。


 一瞬の沈黙の後、僕は尋ねる。

「お前が、フェムトナが……説明をする、姉さんとやらなのか?」


 S.F.Aシークレタートフォーラでの僕と人形少女こいつの砂漠紀行から始まったのだ。

 この訳わかんない状況の説明を、女神フェムトナ入りな人形に期待してもいいのかもしれない。

 

 無表情な人形少女ドルフィーナが、僕をじっと見つめ返してきた。

 

暢気ノンキの知能レベルノ ウチハ」

(うん?)

「細カイコトハ気にスルナ」

「おいっ!」


「ダイタイ吾ガ 浮かんでイル理由モ気にナラナイレベル、ダロ」


 それはそうだ……女神フェムトナの依代な人形なんだから宙くらい浮かぶものと思っていた。この良くわからん状況を受け入れてしまっているということか。

 

 ふぅっ、と息を吐いてから、深く呼吸をする。

 真由美さんに密着され甘噛みされている間、ずっと浅く呼吸をしていた気がする。

 平静を取り戻し、状況を把握しなくては。


 

 周りの様子を見回してみる。


 上間久里天神社の境内は割りと広いのだなぁ、と思う。

 普段は静かな天神様の境内に、今は100人くらいの人間……というか角の童女がわらわらいて、走ったり跳ねたりしている。

 それでも人で埋め尽くされた感ではない。まぁ、小学生児童サイズの角の童女が8割以上だからか……あれ、なんかおっきいのもいるな?

 角を生やした中学生くらいのも混じっていることを、僕は気がついた。



「ヒトツ訂正してオクト」

再び口を開いた、人形少女。

「私はフェムトナではなく、オウテツナノ」


(おうてつ?)


 『おう』と『てつ』と文字がフリガナつきで浮かび上がる。

 

《ふふーん、便利でしょう、ノンケくぅ~ん》

 僕の網膜かどこかに漢字を書き込んだらしい夢魔ティーナが、自慢げに言う。


《ほら、夢魔リリスらしい漢字だってぇ、いくらでも》

 漢字が『』と『わい』に変わった。


(えぇぃっ、話が進まなくなるから夢魔ティーナは出てくんな)


 ✧


 まずは、地下室の地中移動の件だ。

 巻き込み事故とか起こしてないかを聞いてみると、旺鉄ナノは「大丈夫」と答えた。

「その理由は?」と聞いてみるが、ナノの答えは良くわからない。


「旺鉄ト言ッテモぴんトコナイ ダロウナ」

 まぁ、旺と鉄の字面しかわからない。

 

「少シ チカラを見セテヤロウ」


 そう言うなり人形少女ドルフィーナは頭上まで浮かび上がっていく。

 そして、人形の顔がチェック柄の布に覆われだした。


 そして布の先から、2本の……太腿が生えてきた。

 チェック柄は、スカートだったようだ。逆さまだが。

 頭上で目を見張った僕の前で、膝小僧が現れ、ふくらはぎへと伸びて踵となって――裸足が現れた。

 

《そんなに見つめても、スカートはめくれてこないぞ》

(分かってるわい)

 いや、スカートが重力に負けない理由は分からないのだが――裸足の指が生え揃うのを見つつも太腿の付け根の方にも目を向けていたことを咄嗟に否定してしまう。


 視界に『ふともも』と漢字が表示された。

(……やかましい)

 やかましくはないのだが、いちいち心を見透かしてくる夢魔ティーナにやはり突っ込んでしまう。


 ✧


 眼前から声がかかった。

「どう、なかなかの登場だったでしょ?」


 逆立ち姿勢の少女に目の前から声をかけられ、のけぞってしまい――尻もちをついてしまった。



 すると、一瞬で少女は地面に立っていた。

 宙返り?


「私はナギサノナノカのコピー――言うならば、最強有機生命体のコピーというところね」

 少女はどこかの高校の制服らしいブレザー姿で立ち姿を決めている。

 ……何の最強生命体だって?


凪沙野なぎさの』と、漢字とふりがなが浮かんだ。

 

「幽霊とか実体がない身体では、ないわよ」

 そう言って少女ナギサノナノカは、右手で僕の額に触れた。

「普通の体温でしょ」


 たしかに人肌の温もりだった……先ほどまでも真由美さんの唇などからさんざん温もりを伝えられた後ではあるが。

 

 『凪沙野JKのひとはだ』と、ふりがなが変わった。

(いちいちやかましいわっ!)


 ……早く本題に入らねば。

「わかった。本題に入っていいかな?」

 僕はナノカに言った。


 ✧


「いいわよ。ただ、話をわかりやすくするために、はじめにちょっと力を見せておくね。あそこの枯れ葉を使わせてもらうわ」

 ナノカは境内の奥に掃き集められている枯れ葉を指さした。

 

 そう言うなり、何千枚もの枯れ葉が連なって宙に浮きくるくる廻りだす。突然に龍馬が起こったのかと僕は思ってしまった。


「「おおっ~」」

「すごい陰陽だぁ」

「まてぇ、葉っぱぁ」

 庭でてんでに散らばり遊んでいた角の童女たちから次々と声が上がった。

 

 連なる枯れ葉は回転速度を上げながら廻りながら近づいてくる。

 そして、ナノカと僕との間で、すとんと二脚の椅子となって落ちてきた。


「軽いけど、ちゃんと座れる椅子よ」

 ナノカは得意気に言う。

 

 枯れ葉の椅子を手にしてみる。重さをほとんど感じない。

 さぁどうぞ、といいたげなナノカの視線を受け、僕は、枯れ葉の椅子に恐る恐る座ってみる。


 枯れ葉の椅子は体重60kgの僕が座ってもびくともしなかった。

 割りとリクライニングとクッションもあって座り心地も悪くない。


 どんな原理かはさておき、ナノカは有用な力を示したらしい。


「さて、本題ね」

 ナノカがもう一つ枯れ葉の椅子に腰掛け、サッと足を組む。

 角度の関係でスカートの奥が見えそうに思え、ひるんだ僕は目をそらした。

 すると、僕の視線の先には、びっしりと角の童女たち。

 皆が集まって、こちらを見ている。人数の圧に思わずたじろいでしまう。

 

「ふふっ。羨ましいの?」

 ナノカは童女たちそう言うと、境内の木々などからも枯れかけの葉っぱが集まりだし……宙に小ぶりな椅子を次々と作り出していく。

 

 宙から降ってくる枯れ葉の椅子を、角の童女達は、キャッキャと我先に受け取ってと座ってつく。


「ちょうど人数分よね」

 

 ナノカの言葉通り、角の童女達は皆、枯れ葉の椅子に座れていた。

 中には、明らかに童女の枠を出て角女とか鬼女といった風に大きくなったのも混じっているが、枯れ葉の椅子に問題なく座れているようだった。 

 その全員が、僕とナノカの方を見ている。


 急に観衆が増えやりにくさを感じるが、ナノカから話を聞かなくては。

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