第9話 ミッションとカルマカード 3

 カルマカードはハガキサイズほどの大きさだった。

 カードの色は白で、神父が表だと言った側にカルマカードと書かれている。

 

 俺は神父の指示に従い、カードの表をタッチした。

 するとカルマカードという文字が消え、自分の名前などが書かれたページが表示された。


 これが1ページ目だそうだ。


 神父は俺に基本操作を教えるため、壁の向こうから指示を出した。


 操作に慣れるのに時間がかかる人もいるそうだが、俺はすぐに慣れた。スマホの使い方に似ているからだ。


 俺は神父に礼を言うと、教会の告解室のような部屋を出た。


 部屋の外に出て最初にしたのは、人の邪魔にならないところに移動すること。

 すべてのページに目を通そうと思ったのだ。


「……リセマラしたい」


 俺が今いるのは商店街の大通り。

 見慣れぬ道を一人で歩いている。


 作家――――それが俺のカードに記載されていた職業クラスだった。


 どう考えても戦闘向きじゃない。

 おまけに、唯一使用できるスキルが変な名前だった。


 その名も、チート川柳。


 なんだそりゃ、だ。

 そもそも、この世界に川柳ないだろ。


 いろいろと思うところはあったが、とりあえずこのスキルの説明欄を見た。


 だが、そこには何も記載されていなかった。

 短い説明文はおろか、たった1文字すらも。


 能力不明のスキルを覚える、戦闘向きじゃない職業クラス

 マジでリセマラしたかった。むろん、そんなことはできないのだが……。


 俺は気を取り直してクラスチェンジの条件を見ることにした。

 すぐにクラスチェンジできないのはわかっているが、条件だけでも知っておきたかったのだ。   


 だが、そのページを開いて俺はガッカリした。

 『転職クラスチェンジはできない』と記載されていたからだ。


 その後、俺はサラと合流し、これらのことを話した。


 サラは聞いている間に何度も首をかしげた。そして聞き終わったあとに『作家なんてクラス聞いたこともない。どうやらレアなクラスになったようだな』と言った。


 俺は特別な職業クラスに就きたいと思っていた。


 だが、それは勇者のように強くなれる職業クラスだ。

 作家のような非戦闘職ではない。


 けれど、本当につらいのはそのあとだった。

 俺にできそうなミッションがほとんどなかったのだ。


 たとえば輸送品の護衛のミッションでは、魔法使いや剣士などの戦闘向きの職業クラスいている、または就いていたことを応募資格にしていた(以前の職業クラスで習得したスキルは条件を満たせば使用できる)

 

 他のミッションも似たり寄ったりで、戦闘職に就いたことがない者はお断りといった感じだった。


 一応、クラス歴を問わないミッションもあったが、今度はクラスレベルでひっかかった。最低でも5くらいは必要だった。


 クラス歴もクラスレベルも問わないミッションを受けるしかない。


 だが、そういうのは報酬がとても低かった。サラが言うには『報酬が低いのは当然だ。こういうのは半人前・・・のために用意されたミッション。この国の最低賃金より低い』

 

 なんか役立たずの烙印を押されたようで胸が苦しくなった。


 だが、そんな俺を見兼ねたのか、サラがダンジョンに誘ってくれた。


 サラは俺の背中をバシンと叩くと、『少しレベルを上げてからミッションを探せばいい。最初は簡単にレベルが上がる。心配するな』と言ったのだった。


 ちなみにそのサラだが、先程受けたミッションをするために近隣の村に向かった。


 期間は半日。報酬は銀貨7枚。


 酪農家の家畜を狙ってキラーウルフという魔物の群れが現れるらしく、それを討伐したり追い払ったりするのが仕事内容だ。


 やりたいミッションが見つかって良かったが、なんか複雑な気分だった。


 だって、女であるサラが働きに出ているのだ。

 男である俺が働かずに商店街をぶらぶらしているのはみっともない。

 

 俺たちは恋人同士じゃないが、ヒモになったような気分だった。


「……はー、つらい」


 俺は、誰もいない壁の前へと移動。

 レンガの壁に背をあずけた。


 気分がどんどん沈んでいく。


 こんな時こそ気分転換が必要だ。

 真っ先に思い浮かんだのは趣味の川柳を作ること。これならお金はかからないし、筋肉痛の足が痛くなることもない。


 他にいい案が思い浮かばなかったので、俺は川柳を作ることにした。


 ――――それから少し経った。

 俺は完成した句を小声で読む。




「ヒモ男、乞食となにも、変わらない」




 気分転換になってねえ! 


 心の中でそうツッコんでいると、突然、俺の太股ふとももに何かが触れた。


 といっても、遊んでいる子供がたってきたとかではない。

 物が飛んできたとかでもない。


 だが、今も触れられている感触が続いている。


「……もしかして、ポケットの中?」



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