第12話

「おはよう、ミユキさん……大丈夫?」


「おはようございます、ハルキ君」


校門の前で、ミユキさんと待ち合わせする。

本来なら今日も適当な依頼を……という事だったのだが、昨日の通り夕方までに白鳥花を手に入れなければならない。


「あの後、色々調べてみましたが……白鳥花は解熱作用のある花だそうで。加工するのか、直で使うのかは分かりませんが、薬草程度ではどうにもならない高熱なのでしょう」


真剣な表情で彼女は言う。それだけ逼迫した状況だということだろう。


「じゃあ、なんとかしてあげないとね……でも最優先は俺たちの命だよ」


「はい……流石に判断は間違えません!」


決意を込めた表情で頷くミユキさん。

実際、俺もミユキさんもいつもに比べて重装備だ。

俺は刀が3本。髪切りの、故郷で作ったやつ、安物。防具も勿論新調している。ベースは牛革に★1モンスターを加えたものらしいが、外側に河童の甲羅を使っている。籠手や膝当てもあり、そう簡単にはダメージを受けない……と信じたい。一番高かったんだよな、これ……。

ミユキさんも、背中に背負った小筒こそ1つだが、修理用のパーツを用意してきたとか。何かしら整備スキルがあるわけではないが、多少の詰まり程度なら直せるらしい。


ミユキさんと情報を交換しながら獄門街に向かう。

明け方という事もあり、前世風に言うなら始発の馬車だ。獄門街の停留所には、夜通し狩りを行ったと思われるベテランのハンター達が並んでいた。


「おう、坊主達装備からして学園のか?気を付けろよ」


「はい、ありがとうございます」


一目で装備を見抜く辺り、間違いなく格上……というか夜通し狩りをする様なハンター、大体格上か。

彼らと行き交う様にして、獄門街の浅層に入っていく。

ミユキさんの情報通り、浅層は霧の立ち込めた草原だ。時折卒塔婆が刺さっているのが分かる。


時間的には夜明けで、一応太陽は差し込んでいるのだが、死体風の敵はやたら出てくる。


「ぐおおおおお……」


「しつこいって!」


切り捨てたのは動死体。ゾンビらしい見た目通り、首を切るなり頭を潰すなりしないと動き続ける。

魔石と粉の様なものが落ち、それを拾う。


ここが嫌われる理由の一つがこの粉だとか。死体粉と言うらしいが、染料や建築の一部に使われるくらいで、あまり武器防具などに使い道はないらしい。となると当然売値は下がる。……お分かりだろうか。しかもここで出る他の★1、骨系の化け骨と死体系の死体犬も死体粉のみ落とす。嫌がらせにも程がある。

……人っぽいモンスターも、全て元は人じゃないと確定していることだけはマシか。


化け骨を砕き、動死体の首を飛ばす。

基本的に浅層は俺が先頭に立って、雑魚を蹴散らし……。


「ハルキ君!右!」


右に体を大きくずらし、射線を作る。

コンシーと呼ばれる、武道着を着たゾンビに砲弾が直撃し、肩を抉り取る。

追撃で首を刎ねると動かなくなったそれを見て、ほぅと一息つく。


コンシーは★2の死体型モンスターで、なんと武術を駆使してくる。と言ってもそのレベルはスキルレベルで言うと1相当だから俺達には決して対処できないレベルではない。単体では★2の中でもかなり弱い部類だろう。

だが問題は、こいつらが他の★1モンスターにまぎれて襲い掛かってくる事だ。それもどいつもこいつも四肢を一つ壊した程度では止まらない。不人気な事とは別に、危険なのだ。他の浅層と比べて……!


更に進んで行くと、塊の様なものが近づいて来る。


「ハルキ君!モンスターの群れが!」


剣を持ったコンシーが1、無手のコンシーが1、動死体が1に化け骨が3、死体犬が1……!


「あそこに砲弾を!」


「はい!」


砲弾が炸裂し、モンスター達を吹き飛ばす。直撃したやつは倒したか……?残念ながらコンシーは2匹とも健在。なら突っ込んで1匹でも始末しなきゃ!


全力で走り抜け、砲撃の衝撃から立ち直れていないコンシー、剣持ちを狙う。突き出した様な刀は頭部を守る様にして腕で防がれる。死体系モンスターにとってはさほどのダメージにはならないだろう……。


「と、思ったか!?」


刀に魔力を通し、放つイメージを行う。瞬間、コンシーの体が燃え上がり、叫び声が上がる。


炎を消そうともがくコンシーの首を刎ねて倒す。

ミユキさんは砲撃を更にもう1発撃つと、囮になりつつも遅延札を用いて相手をしてくれている。

★1モンスターを全て始末すれば、残りのコンシーを倒すのにさほど時間は掛からなかった。


「……ちょっと増えてきましたね」


やや険しい表情でミユキさんが言う。


「うん、鬼火の発火も使っちゃったし」


先ほどのコンシーを発火させた技、あれは鍛冶屋で頼んだ合成の力だ。

鬼火の力を瞬間的に解放して、敵を燃やす。刀とある程度接触していなければ効果はないため、基本突き刺して使うんだろうけど。

魔力をほぼ使わないためコスパはいいのだが、問題はクールタイムがある事だ。先ほどの火力で1時間に1回、全力で燃やせば数日は使えなくなる。全力の火力で★2モンスターが倒せるかどうかなので、全力にする意味もあまりない……。


朝、眠そうな鍛冶屋のお兄さんに説明してもらったが、元と合成素材のランクによっては常に発火する刀なども作れるらしい。しばらくはお目にかかれないだろうけども。


ただ、それこそ今くらいの群れならしばらくは連戦しても捌く事ができる。モンスターはあまり大規模な群れを作らないというルールもある(例外ももちろんいくらでもある)。


「とりあえずあと少しで浅層は終わり?」


「もう半分は絶対に超えているので……あと少しかと」


5分ほど周りを警戒しつつ休息し、更に先に進む。

獄門街はその名の通り、中層から街の様な見た目になる。なんとなく奥の方に建造物らしきものが見えるから、そこまで遠くはない……はず。


「っと、死体犬か」


「右に動死体1です」


「了解」


死体犬の顔を切り、動死体の首を刎ねる。

動死体も化け骨も動きはのろいし、死体犬も本物の犬よりは格段に遅い。斥候や偵察系統のスキルがないミユキさんの警戒でも、今のところなんとかなっている。


かなりのペースで奥に進んで行った事もあり、目の前には大きな錆びた門が。明らかに中層の入り口だ。


「ここが……」


「やっとですね……!中層……!」


門の先から見えるのは寂れた街。煉瓦造りの家々。白鳥花はあの先にある……!意を決して踏み出そうとすると、門の先から何かが現れる。


「コンシー……4体!?」


「特別なのを撃ちます!ハルキ君下がって!」


一瞬気圧されたが、瞬時に気持ちを切り替えて左に大きく回りながらコンシー達に向かっていく。


砲弾に対してコンシー達は2匹が防御、2匹が回避を試みる。

その2匹に対して砲弾が当たり、それは衝撃ではなく火炎をコンシー達に撒き散らした。


これがミユキさんの用意した切り札の一つ。火炎弾。炎属性を付与したそれは、コンシーを倒し切ることはないにしろ、しばらく行動不能にする程度の威力はある。俺の鬼火もだが、元々死体系モンスターには火炎が効きやすいのだ。


コンシーと1:1なら特に苦戦する要素はない。拳をいなし、蹴り上げが来た瞬間に身を沈めて上を切り上げる。

足を切り落とされたコンシーは動くと言っても片足。なおも反抗するコンシーの首を落とし、止めを刺す。

火炎から復帰したボロボロのコンシー2体がミユキさんの方に行っているのを確認して、援護に向かおうとして……。


凄まじい寒気を感じ、咄嗟に顔を守る様に腕を構える。

何がと思う間もなく、その腕に衝撃を感じ、分からないまま地面を転がる。


「い、一体何が……?」


痛みを堪えて、顔を上げる。

そこに居たのは……。

青い肌。

高級感すら感じる、赤い華服。

突き出す様な両手。

その髪型は、帽子によって見えず。

表情は、口元を除き「特」と書かれたお札によって伺う事はできない。


ああ、こいつは前世でも聞いた事がある。間違いない。


「キョンシー……!」


その言葉に、そいつは答える事なく俺をじっと見つめていた。

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