第11話

6月に入ったが学園は平和だ。

なんというか、ようやくハチマンの町について分かってきたというか。

宿題にも目処がつきそうで、周りを見る余裕ができたというか。


このハチマンの町は、領主の一族が住むオウミ城を中心にできた城塞都市だ。

円状になった町を、囲む様にして柵や木レベルであるが壁が建てられている。一部危険度の高いエリアに関しては石もある。

主な建物は、まず中心のオウミ城。観光地にもなっていて、騎士の本拠地でもある。

俺たちの学校や、ハンターギルドもここにある。金持ちだからとかではなく、ハチマンの狩場がどの方角にも点在しているため、アクセスの良さを取ったらしい。

あとは中心地から離れれば離れるほど治安が悪く、貧相な家になっていくとか……。入るだけで囲まれたり、スリが出たりするような想像する異世界のスラムほど酷いものではないが、観光で行く様な場所でもないとか。


「ふむふむ……」


「あら?こんにちは、ハルキ君。今日はどうされたんですか?」


「あっ、ミユキさん」


図書室で声をかけてくれたのはミユキさん。なんやかんやで週末も一緒に狩りに行っているが、前回はミユキさんの素材集めを手伝った。次回はハルキ君の番ですね、という事らしい。


「これ読んでて……そういえば、ハチマンに来てからずっと狩りだったなあって」


「あら……じゃあ、今から案内しましょうか?私でよろしければ……」


いいの?と聞くと何故かすごく食い気味にはい!と答えられてしまった。せっかくなのでお願いしよう。




「ここがオウミ城……本丸は観光地で、奥の方に住居があります」


「へえ……」




「ここは美味しいお団子があるんですよ、なんでもわざわざ植物系モンスターの素材を使っているとかで」


「それはすごい……けど高くない!?」


「あはは、極・特選団子だけ他の団子の20倍のお値段がしますから……1本だけ買ってみてください。本当に美味しいですから」


「じゃあせっかくだし……むむ!んー!ん〜!おいしい!」


「ですよね!これ私も大好きで……」




「ここは遊戯場です!魚釣りもできますし、卓球とか、囲碁将棋もありますよ」


「なんかごっちゃな……あれはモンスター!?」


「あっ、化け魚をハンターの人に依頼して生捕りにしてもらってるんです。領主様の許可もあるみたいで」


「すごいことするんだな……!?」




「このあたりは演劇場が多いんです。演技とか演劇のスキルを持った方、変装のスキルを持った方ですとか……」


「地元ではなかったな……こんな大きなさあ……」


「ハチマンはオウミ領だけでなく、他の地方に比べても演劇場の数が多いそうですよ。前代領主様の趣味だとかで」


「それでここまでねえ……」




と、主に町の中心部を案内してもらい。すっかり夕方になってしまった。


「そろそろ帰りますか?」


「そうだね、明日は授業休みだし……朝から依頼だね」


「ええ、じゃあ……」


そんな話をしている時の事だった。


「お願いします!お願いします!」


「ちょっと!本当に無理なんだって!」


「そこをなんとか……何でもしますから!」


「悪いが俺らには荷が重いんだって」


ハンター達のグループに、縋る様にして声を荒げる少女がいた。

ハンター達も子供相手だからか叱るわけにもいかず、しかし苛立ちが溜まってきている様だった。


「妹が死んじゃうんです!私に出来る事なら何でもします!お願いします!」


「だから……!」


「あの……あなた?」


ミユキさんが、優しそうな声で聞いてくる。

どうしたの?と声をかけられると、少女は今度はミユキさんに縋り付く。


「あの、あの……妹が倒れちゃって、治すための薬草が、あの……」


「うん、どこの薬草なの?」


「お医者さんが、白鳥花がいるって……」


「……いつまでに?」


「明日の夜……」


白鳥花……?記憶にないが、ミユキさんには心当たりがあるみたいで、やや厳しい表情になる。それでも。


「やれるだけのことはやるけど、期待しないで。明日の夕方、ここにいて」


「! あ、ありがとう!」


ミユキさんは微笑むと、行きましょうと言って学校の方へ歩いて行く。

その背中に、声をかける。


「明日、何時に、どこ集合?」


その肩が僅かに震え、驚いた様にこちらを見るミユキさん。


「あ、あのハルキ君。さっきのは私のわがままで、だからハルキ君は気にしなくても……」


「明日一緒に依頼って言ったでしょ?依頼主がギルド経由じゃなくなっただけ」


「で、でも」


「それに、相棒だろ?」


「!」


使い古された文句だけど、なんというか……初めてだったのだ。地元のユウタロウ達との狩りは、彼らの暴走を止める事も出来ずにやきもきしていた。あいつらは友達だけど。でも相棒だと思ったのは、一緒にハンターやって楽しいと思った相手は彼女が初なんだ。


「ハルキ君……!ありがとう!大好き!」


感極まったミユキさんに、抱きしめられる。え?硬直した脳みそで、何か言おうとして、出てくるのは一言。

あったかい。やわらかい。混乱したまままともな返事ができない。


「え…………えっ?!」


「あっ違、違くなくて、えっと、学校に戻りましょ!食堂で打ち合わせ!」


すごい勢いで駆けていくミユキさん。

うん、なんというか、なんというか………。


「胸、ちょっとあったな……」


将来が楽しみ、もとい当たってしまったのはもう仕方ないというか、これ俺は悪くないよね?

前報酬という事で納得して、ゆっくり学校に戻っていく。





「問題の白鳥花は獄門街の中層に中部にあります」


学食で向かい合いながら、厳しい表情でミユキさんは告げる。

獄門街といえば……。


「確か浅層の難易度が若干高めで、それに人気がなかった場所だったっけ」


死体系のモンスターが中心の場所だった覚えがある。


「はい。それでも浅層は私とハルキ君なら問題ない……と思います。逆に言うと」


「中層かあ……」


大体の狩場を、ハンターは浅層・中層・深層で分けている。層ごとにモンスターの強さが1〜2ランクずつ変わる……とされているが、この層というのもハンターが勝手に決めているだけだ。当然、浅層に深層のモンスターが出没する事もあるらしい。

とはいえかなり層毎の差は歴然としているらしく、ハンターの死亡率ベスト3に、不用意に奥の層に踏み込むがあるほどだ。


「恐らく、中層なので★3、最悪★4のモンスターが出るでしょうね……」


「うーん……★3は出るよね、間違いなく」


「……やはり、私が一人で行った方が……」


「いや良いって。中層の詳しい内容はまだなんだよね?悪いけど、ミユキさん明日までに獄門街を調べてもらっても良い?」


「え、ええ、それくらいなら全然……」


「俺は装備をね……なんとかしてくるから」


ミユキさんに別れを告げ、目指すは購買部。


「ははあ……なるほど?それで相談に」


「はい、こんな時間に申し訳ないんですけど……」


鍛冶屋のお兄さんと購買のお姉さん。

俺は頼れる大人である二人に相談に来ていた。


「あの、ハルキ君には悪いんだけど多分それ、死ぬか大怪我よ?新入生には厳しいから……」


お姉さん、真っ当な意見をありがとうございます……。


「いや、でも良い話じゃないですか。友達のためってのは……私も反対だけど」


お兄さん!?


素直に心配してくれる大人2人に頭を下げ、アドバイスを貰う。

ここでどうにかすべきは刀、防具、そしてアイテム。


「まずはその防具。中層では重さ分邪魔かもしれないね。刀を強化するなら素材が魔石だけど、前の一つ目小僧とレッドキャップの素材じゃ微妙だからなあ」


それにお姉さんが合いの手を入れる。


「本来なら上級生さんがやる事が多いんだけど、うちの在庫を使っちゃう?割高だから新入生さんにはおすすめできないんだけど、レッドキャップの素材が比較的高いはずだから……」


もうこの際出し惜しみしたら死ぬ。父さんからもらったお金を除いた大半の素材と魔石を金に変えて購入を進めていく。


「獄門街の中層って言われても分かんないわね……でも死体系なら物理かしら」


「それならこの素材が……いやこれも良いかも……」


本人を置いて盛り上がる2人に疎外感を覚えてしまうが、今のうちにアイテムを揃えよう。


「回復薬!………高い!」


いや、でも買っといたほうがいいか……?


悩む背中に、お兄さんの声がかけられる。


「ハルキ君、これでどうですか?」


提示されたのは、★2、鬼火の魔石。そして★2河童の甲羅。


「明日ですよね?防具はあり合わせのものに補強するので、革鎧を一つ買ってもらいます」


「鬼火の魔石は火属性が強いから、死体には効くんじゃないかしら?」


2人にお礼を言って、金額を見る。

そして硬直する。

え?嘘……え?


「あ、このお金は明日までに仕上げるための特約料金も入ってるからね」


なるほど……一気に素寒貧になってしまった。

悲しいが残りの金で最下級の回復薬と、これを買っておこう。使うかは分からないけどここでケチったら死ぬし……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る