第10話
改めて、自分自身の実力について整理してみる。
ココノエ ハルキ
★1
刀術2
サモナー2
うん。合計スキルレベルが4あるのは、12歳にしては抜きん出ている方ではなかろうか。
刀術2、サモナー2。スキルレベル=それで倒せるモンスターの危険度となる。この倒せるも相性次第だし、安定して倒せるようになるならそれだけでは到底足りないんだけど。
俺の場合刀術2・サモナー2がどちらも機能すれば危険度2の相手は楽に狩れるようになる筈だ。餓鬼の様に流れ作業で倒していくにはそれでも足りないが。
あの時、運命変転で魔法をとればよかったか……?でもモンスターをテイムして戦うってかっこいいし……。
もといスキルの考察だ。
刀術2
現メインウェポンにして唯一の命綱。
刀術1より格段に動きが良くなっていて、前世の一般人以下の動きしかできないような餓鬼くらいなら3〜4匹は同時に相手をしても傷ひとつ付かないだろう。
問題は★2。なんだが、これも武器が良くなったため、ある程度やりあえるようになったのではなかろうか。一度確認に行きたい。
サモナー2
契約数2、同時召喚数1となっている。
契約数が増えたところで契約相手が……おらん……!
スキルに関しては念じれば詳細が分かるが、これに関しては契約に応じたモンスターを従える事ができる以上に教えてくれない。逆に言えば、何か決まった方法があるわけでもない……と思う。
美少女モンスターをテイムして癒しにしたりイチャイチャしたりしたい。そんな気持ちもあったが、もう何でもいいからテイムさせてほしい……切実な願いだ。
武器と防具。
武器はついさっき受け取りに行った。
大蝦蟇の魔石に髪切りの刃。これで作った魔石は折れにくく、鋭い。さらに魔石となった大蝦蟇と同格のモンスターの素材ならば、合成で力を100%引き出せる。
ミユキさんと★2を狩って、その時の戦利品を何か使ってもいいし、この刀ならそれこそ大蝦蟇くらいなら1:1でも倒せる気がする。あれは単体でいる事があまりないらしいからまずないが。
防具はなんとかしたい。父さんがくれた防具だが、初心者用のものを若干改善した程度のものだ。父さんからも「変えられるなら遠慮せずにさっさと良いのにしろよ」と言われてはいる。
あとは装飾品か。これはもう少し上の素材を手に入れないと何も始まらないそうだから、まだまだ先の話だ。
……よし!防具の素材を集めに行くか!
というわけでやってきたのはオウミ湿原。ハチマン周りには7もの狩場があるが、その中でも2番目に人気のない場所だ。
なんせ湿地。ぬかるみが酷く、足を取られやすい。移動がしにくいだけで狩りの難易度は上がってしまう。
俺も多少ギルドによって整理されている道を中心に歩いて探索をする事にする。
時折現れる餓鬼を切り捨てながら進んでいく。本当に餓鬼はどこにでも出るな……。もはやあまり価値のないものだが、売れるものは少しでも確保しておきたいので素材と魔石を拾っておく。途中黄色い花を見つけ、依頼のそれだと顔を綻ばせる。
「浅層にあるって聞いたけど、この調子で見つかると良いな」
回復薬か何かの材料になるとかで、依頼の張り出しがあった。
道具を作るスキルはいくつかあり、同じものを作ろうとしてもスキルによって別の素材を要求される事がある。
例えば回復薬なら、薬師のスキルで作った方が錬金術のスキルで作るより素材が簡単なものなんだとか。
ただ……こうして狩人達が薬草や素材を、それも簡単な草を探す事はあまりない。この草単体で見れば安いため、依頼で早急に必要にならない限り利益が……モンスターを狩った方が割がいいのだ。
その上まともに回復効果のある回復薬は結構な値段になってしまう。俺も1個、擦り傷レベルの怪我を治す回復丸を持っているだけ。
いつか回復薬くらいは買おうと思っているけど……閑話休題。
そうしているうちに、大きな湖にたどり着く。浅層の中でも真ん中あたりに位置する場所らしく、目印になるそうだ。
黄色い花を何本か見つけ、摘み取っていく。
同時に湖の中に★1のモンスター、化け魚がいる事に気付き軽く水面を揺らす。途端に何匹かが近寄って来るので、狩って素材と魔石を手に入れる。
こいつの鱗は今よりマシな防具の素材になる。狙いのモンスターがいなかったら、とりあえず妥協しようかと思っているが……。
「いた……!けど……」
目標とするモンスターと、少し離れてもう1匹のモンスター。どちらも★2。
一つ目小僧と岩魚坊主。
前者はスピード型で舌を使った攻撃をする。後者は★2の中でも弱い方だが、水中にいる以上それだけで注意すべきで……何より臆病な性格だと聞く。
若干悩んだ後、方針を決める。
石を投げ、まずそちらに注意を向かせる。
一つ目小僧の目線が石に行った時点で走り抜け、一撃を見舞う!
近付いた所で気付かれ迎撃の舌を伸ばされる。それを避けて、返す刀で今度こそ切りつける。
「アギャッ!?」
浅い……!代わりに舌は切り落とせたようで、悶えながら口を押さえている。
「隙だらけ!」
狼狽する一つ目小僧を、袈裟懸けに切り捨てた。
素材に変わる一つ目小僧を確認して、湖面を見にいく。
「あー……やっぱ逃げられたか」
水中の岩魚坊主は十中八九逃げるだろうと思って一つ目小僧に専念したが、それでも本命はこちらだったのだ、なんというか惜しい。
それにしても。
予想以上に新しい刀の切れ味がいい。
前までの刀なら、一撃で綺麗に一つ目小僧の舌を断ち切る事は不可能だったろう。手傷を負いつつもしばらく一つ目小僧との距離を詰めるのに苦戦していただろう。
「武器を変えただけでこれだから、防具もなんとかならないかな……」
溜息をついて、魔石と素材を回収する。
その帰りの事だった。叫び声が聞こえ、身構える。間違いなく他の狩人だろうが……様子を見てみるべきか?
ここは馬車が停まる入り口にも比較的近い。何かあれば逃げられるし、浅層の敵なら倒せずとも逃げる事はできる……と思う。
そうして見てみれば、そこにいたのは10匹近くの餓鬼。そして両手に包丁を持ち、赤い帽子を被った緑肌の怪物。
対するは3人組らしきパーティーのようだが、なんとか凌ぐので精一杯の様だ。
「嘘だろ……なんでここに……」
あれは……多分、レッドキャップだ。
ゴブリンの上位種。危険度★2だが、執念深く街の中までハンターを追ってきた事もあるとされる。
しかし、明らかに西洋由来のモンスター。
俺の今いる東大陸では、基本的に西洋由来のモンスターは出ない。神がわざわざ大陸ごとに西洋と東洋で分けたのだろう。
前世の、それもサブカルの知識でもなければ隣の大陸にしか出ないモンスターなんてわざわざ調べないからな……突然現れたら恐慌状態になるのも仕方ない。
覚悟を決めて走り出し、レッドキャップに不意打ちをかける。
ザッ!
「ギィ!」
攻撃が当たる寸前、突然こちらを振り向き攻撃を返される。
運良く当たらなかったものの、ヒヤリとした汗が頬を伝う。
土壇場で気付かれた……!
これ以上踏み込んでいたら一撃もらっていたかもしれない。緊張と共に刀を構えつつも、呆けている3人に指示を出す。
「餓鬼をやれ!俺はこいつをやる!」
「は、はい!」
リーダーらしき子が返事をして、餓鬼に魔法の様なものを打ち込んでいく。
とりあえずは大丈夫。なら……。
「ギィ!」
両手に包丁を持って飛び掛かるレッドキャップの攻撃を右に避け、着地後払いに変えてきた包丁も余裕を持って避ける。レッドキャップ自体は今まで戦ってきたどの相手よりも早いが、髪切りとの戦いが経験として生きている……!
「行ける!ハッ!」
包丁の連撃を避け、一撃を刀で見舞う。
右腕を二の腕まで切断し、相手が叫び声をあげる。最後の賭けだったのか、体当たり気味に左腕の包丁をこちらに突き出して来るレッドキャップにとどめの一撃を見舞う。
なんとかなったか?餓鬼と戦っていたパーティーも、残り2匹まで餓鬼を減らしていた。さほど待たずして殲滅し終わり、3人でお礼を言いにきた。
レッドの素材を物欲しげには見ていたものの、お礼とパーティー勧誘だけされた。勧誘には他にメンバーがいるからと断り、彼らと別れて入口に向かう。
……クラスメイト達ばっかり見ているから感覚がおかしくなっているんだが、本来ギルドカードを得てすぐの段階で★2を単独で狩る様な真似はしない。
大体は餓鬼を引率込みで倒した経験のみ。そこからデビューして俺達と同じ★1になっても、しばらくは★1レベルの依頼を行って生計を立てる。
……ぶっちゃけこの段階で利益を出すのは難しく、大体は実家暮らしをしながらやるか、本当に安い宿を取っていく。
★2のモンスターをパーティーで安定して狩れる様になると、一人前。4人パーティーだったり、ミユキさんの様な金を消費しがちなスキル持ちだとまだ厳しい感じはあるが、それも多少★2に挑戦する頻度を上げるなり、依頼をこなしながらやっていくなりすれば回っていくレベルだとか。
で、パーティー単位でも★2に勝てる様になるのに、半年から1年はかかるのが一般的らしい。それ以上かかる場合ももちろんあるが、やはり★1の依頼では限界がある。ソロの場合は★1でも生活できるが……。
翻って、俺達養成校の生徒達は既に殆どが★2をソロで討伐している。えぇ……?ペースが明らかにおかしい……。実際脱落者がまだ数名な辺り、おかしくても乗り切れてはいるけど。
学校に戻り納品を行う。一つ目小僧の魔石を渡し、受け取ってくれた男の先生にレッドキャップについて聞いてみる。
「ほう?レッドキャップをかい?オウミ湿原で?」
「はい。これはギルドに報告した方がいいんですか?」
そう告げると、気にしなくていいと笑われた。
彼曰く、稀にではあるが起きる現象らしい。
「この辺りだと、2年前に1度エンジェルが出たらしい。討伐されてしまったが……」
「え!エンジェル……」
いいな……テイムしたかった……。確か★2か★3だった気がするので、勝てるか怪しいけど。
「レッドキャップの魔石と素材はあるかい?やや珍しいから、売れば結構な値段になるだろうし、交換とかに使えるかもね」
「ありがとうございます」
どのみちレッドキャップの魔石は1人で倒したにギリ引っかかりそうだったのでやめておくつもりだった。
今の素材は……★1のは置いておいて。
レッドキャップの魔石
レッドキャップの帽子
一つ目小僧の舌
魔石は武器の核にも、電気水道ガスのエネルギー源にもなる。いらなければ納品するくらいでいいがとりあえず保留。
他2つもなあ……鍛冶屋のお兄さんに聞いたところ、どちらも君の装備には微妙ですね、とのこと。
一つ目小僧の舌は魔法系の素材適性が高く、レッドキャップの帽子はコレクターズアイテムとしての価値が高く、とりあえず取っておいた方がいいらしい。
「防具……どうしような?」
首を捻りながら、帰路に着くのだった。
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