第9話

5月に入ってしまった。

4月からの授業だが、まず、知識をとにかく叩き込む所から始まった。

具体的にはスキルの知識。そしてモンスターの知識。狩場の知識。

といってもどれか一つを極めるだけで恐ろしく時間がかかる。スキルは簡単な区分と、生徒達が興味を抱きそうなものを少しずつ。モンスターと狩場はハチマンの町近辺の狩場とモンスターについて習っている。

例えば妖怪の森では、頂上付近では天狗や鬼と言った凶悪な個体が少数ながらいるらしい。まれに中層付近でも目撃される事があるらしく、今皆さんが向かっても何もできず死ぬだけですからね〜とはツェルニ先生の談。


一方宿題。

これに関しては両極端。

もう既にクリアしている生徒もいるらしい。何人か自慢をしていたり、余裕そうにしているクラスメイトがいるが、終わっていないクラスメイト達は大抵授業後すぐ狩りに行くなりメンテナンスをするなりしているためあんまり広まっていない。

逆に噂になっているのが、授業中もぽっかり空いた1つの席。

なんでも狩りで無茶をして大怪我をしたらしい。


★2の狩りは、当然ながら難易度が高い。

★1までは戦闘スキルなしでも狩れるが★2以上は不可能。よく言われるが、正確には戦闘スキルを持って初めて勝つ見込みが生まれる、だ。


★2のモンスターに1:1で戦って完勝するとなると……相性のいい相手と仮定しても、合計でレベル3つ分くらいの戦闘スキルは持っていないと厳しいだろう。

実際俺は火鳥戦で武器を失いかけたし、投擲ができなければ逃げるしかなかった。


怪我をした彼も戦闘スキルを2つ持っていたようだが、残念な事に敗北。他のハンターに助けてもらったが全治3ヶ月の大怪我となった。

この世界、回復魔法も回復薬もあるが大怪我を治すとなると高位の術者が必要になるし、回復薬は最低級でも結構な金額する。コネも金もない場合は退学を免れるために……とかの段階ではなく、治療費を返すために働いてもらうという話になっていくんではないだろうか。


パーティーを組んで、無理なく実力をつけていこうという普通の判断では上位ハンターにはなれない、ついてこれないなら置いていくと言わんばかりの学校の態度。そりゃあ卒業できたハンターが周りから一目置かれるのも当然だ……。


クラスメイト達も互いに名前と前衛か、後衛かなんて情報は把握しあって、食堂だったり教室だったりで雑談する程度の仲にはなった。お互いゆるく情報提供し合って、出来るだけ脱落者が減るといいね、というやつだ。


「んで、ゴウはどうなのさ」


食堂でチャーハンを食べながら話すのはクラスメイトのゴウ。

ユウタロウの大太刀術……に似たスキル、大剣術2にナイフ術1を持っている。明らかに武器のリーチが合わずナイフが死んでいるのでは?と思ったが、毒を塗ったナイフを数本持ち歩いてピンポイントで投擲していくらしい。毒がモンスター由来のもので購入しなければ手に入らないため、滅多に使わないそうだが……。


「俺か?俺は2匹やったぜ。あと1匹だ」


「早いな……ちなみに相手は?」


「一つ目小僧と、大蜘蛛。一つ目の方は毒が効いたし、大蜘蛛はなんか傷付いてたんだよな。他のモンスターと争ってたのかありゃ?」


「えぇ……いいなそれ、俺もないかなー楽な相手」


「ないだろ……ってかお前はサモナーをどうにかしてやれよ。結構なレアスキルなのに泣いてるぞ」


「いやだって、俺にも分かんないよモンスターの説得なんて」


だよなあ……?と首を傾けるゴウから目を逸らし、ギルドカードをそっと見る。「刀術2」「サモナー2」の文字が目を惹く。


そう。あれからちまちまと★1モンスターを狩り、あわよくば上がらないかと思っていたスキルが上がった。


サモナーが。


まあこうなるのは分かっていた。スキルレベルは低い方が上がりやすいと聞く。刀術を上げるには、ゲーム風に言うなら経験値が足りないのだろう。


サモナーさえ使えれば、★2討伐もかなり楽になるはずだ。なんせ頭数が増える。サモナーやテイマー等はスキルの力だから、怒られる事もない。


「なんかさあ……いい感じのモンスター情報とかない?ゴウは」


「ないない。そんなもんあったら俺が狩りに行くか、諦めてる」


俺よりちょっと強いくらいのゴウが諦めるレベル=俺も無理となる。


「俺とお前でユニークでも狙うか?」


「無理じゃないかな……」


「4人でも無理だろうな」


お互いに実力不足を感じ、ため息をつく。

とはいえ俺もゴウも悲壮感はない。

大体のクラスメイトは既に1匹★2モンスターを倒している。1回倒せれば他の2回もその応用だ。初回より楽な狩りになるだろう。そういう意味で、宿題に対する緊張はだいぶほぐれた。


だが……これ以降も絶対に宿題はある。全員が直感している。だからこそ、ノルマが終わった者も鍛え続けている。




「と、いうわけで!いい加減サモナーを何とかしたいんだ」


「はあ……そういうわけでしたの」


数日後。改めて呼び出し、説明をしたのはミユキさん。大蝦蟇との戦闘以降、軽く一度連携訓練をしたきりだったが、彼女は大蝦蟇の油を使った高火力の砲弾を用いてノルマを終えている。

サモナーのスキルは強い。聞く限りかなりの強さなのだが、何度も言うように契約の難しさがネックになる。


「だからツェルニ先生とか、ダメもとで購買のお姉さんとか鍛冶屋のお兄さんに聞いてみたんだ」


「はあ……」


以下、それぞれのお言葉である。


「先生も〜そこまでは〜……あ〜、でもボコボコにした後に〜、命乞いというか、降参をする個体がいるらしくて〜。それを狙うとかですか〜?」


「えぇ……?さすがに分かりませんね」


「うーん、交渉できるか話しかけてみるとかどうでしょうか?モンスター相手にそれは危険ですかねえ?」


といった感じである。


「何かをピンポイントで狙うわけじゃないんだけど、一緒に行けるペースで★2あたりの依頼をこなしてくれないかな。取り分に希望があれば優先するから……そこで行けそうな個体があったら捕まえたいんだ」


「そうですね、ハルキ君との呼吸も掴めましたし、砲弾と陰陽術の素材を優先していただけるならむしろお願いしたいくらいですわ」


というわけで、話し合いはうまくまとまった。休日ということで早速2人で出かける。


★2 髪切りの討伐

髪切りというモンスターは両手が刃物、顔には鋭い嘴がついた危険な相手だ。特に森では奇襲を行うらしく、要注意の相手として知られる。

★2の中でも上位の相手だが、狩場ではなく街から出た所にある廃墟に現れ、通行人を襲っているらしく奇襲の恐れはない。まだモンスターが出てからあまり日数が経っていないため他のモンスターが増えている事もないだろうという事で、挑戦する事にした。


「ハルキ君の刀と髪切りの刃物は合うと思います。いかにも切れそうですから」


「それは……ありがとう」


気を遣ってこの依頼を選んでくれたミユキさんにも感謝の言葉を述べて、2人で目撃場所へと歩いて行く。

4月はあんまり見る余裕がなかったが、結構面白そうなお店とか、色々あるな……。


「珍しいですか?この街が」


微笑ましそうにミユキさんに見られ、少し恥ずかしくなる。今のは完全におのぼりさんだ……。


「私はここの街から出た事があまりないので、むしろ外で暮らしていたハルキ君がちょっと羨ましいんですけど。でも色々見れるかなと思ってハンターになったんです!」


「じゃあ、将来はどこ行きたいとかあるの?」


「そうですね!東の果て、境界とか……西大陸はモンスターも文化も全然違うって……海が……」


変なスイッチを踏んだのか、しばし彼女の夢を聞いて、相槌を打ち続けた。


「恥ずかしい……」


「まあまあ」


逆に照れた彼女を宥めつつ髪切りのいる廃墟に向かう。

探すまでもなく、相手はこちらを捕捉し……火鳥の急降下に匹敵するスピードで走ってくる!


「ミユキさん!」


「はい!」


髪切りの右刃を刀でいなし、続けて襲い掛かる左刃を受け止める。

メインの刀だ、多少欠けても壊れるレベルにはならない筈……!


「隙有り!遅延札!」


動きが遅くなった髪切りの腹を蹴り、少しだけ下がる。当然追いかけて来る髪切りに、頭を見せつける。


「!」


髪切りは一瞬硬直する。

これが髪切りの弱点。目の前に髪があると、そちらに注意力が行ってしまう。髪切りの名の通り髪だけ切って命を取らない個体すらいるらしい。


しかし好機!

体勢をなんとか整えて、受けの構えを取る。一撃が恐ろしく痛い事、速い事がこの敵の強みだ。

うち速さはミユキさんが潰してくれたんだから、あとは気合い!


右!嘴!右!左!

髪切りの攻撃を丁寧に受けて行く。

こいつの攻撃箇所は両手の刃物、嘴!そこさえ意識すればいいだけなのだから、もはや流れ作業で……。


「できた!ハルキ君!」


「オッケー!」


攻撃をいなし、全力で左に逃げる。

攻撃の直後、手を振り下ろした状態の髪切りは動く事ができず、ミユキさんの砲弾が直撃。

息も絶え絶えとなっていた髪切りの首を落とした事で、依頼は終了となった。


「今日もありがとうね、ミユキさん」


「いえ……魔石と依頼料を全ていただいてしまって、本当にいいのですか?」


「その分お金かけてもらってるから、ね」


ぺこりと頭を下げてミユキさんが去って行く。

髪切りの刃。ドロップは2種類で、そのうち欲しい方を引けたのだからラッキーだ。

ミユキさんは綺麗系の美人なので、ちょっとカッコつけたいというのもあるが、刃以外の全部を譲っても需要的にはお釣りが来ると思っている。


「こんにちは」


「こんにちはハルキ君。また刀壊したのかい?」


「今日は壊してないですって!ほんとです!」


刀を何本も粉砕してきたため、お兄さんにはすっかり顔を覚えられてしまった。名札もなく本人も名乗っていないため鍛冶屋のお兄さんとしか呼んでないが、鍛冶屋4のスキルを持つとか。4なら充分店を出せるレベルだが、お兄さんは鍛冶屋に有用なスキルや技術を身につけて一流の領域に足を踏み入れたい、らしい。


「これ、見てくださいよ!髪切りの刃!」


「ちょっと見せてくれよ……ほんとだ、いいね!これで新しい刀を作るんだね?」


「えっ、合成……」


「うーん……」


出た!出たよ!またなんか言うんだ!

ちょっと身構える俺の事を気にも留めず、お兄さんは言う。


「いや、この髪切りの刃はいい素材だ。君の刀に使えば鋭さと耐久性が上がる。よほど硬い敵を相手にしなければ、★3中級くらいまでは行けると思う」


「え、じゃあそれでいいんじゃ」


「難しい話で悪いんだけど、髪切りの刃の力をその刀じゃ上手く引き出せないんだ。見たところ素材の核は★1のものだし…………それなら、いっそ髪切りの刃で刀を作って、他の★2素材で合成したほうがいいと思うよ」


お兄さん曰く、それでも性能自体にあまり変わりはないらしい。

問題は……。


「あの……ちなみにいくらくらいで?」


「うーん、これくらいかな?★2の魔石を取り寄せるから……」


卒倒するような金額だった。先月の儲けのほぼ全てじゃん!待てよ……!


「★2!大蝦蟇の魔石あります!」


「じゃあその分割引で……これくらいでどうかな?」


絶妙に許せる金額なのが腹立つ……。


結局、大蝦蟇の魔石と髪切りの刃を素材に刀を作る事になった。

入学して2ヶ月で父さんにもらったお金に手をつけるのはなんだか負けた気がしたため、火鳥の羽は全て生活費になってしまった。

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