第8話
翌日の授業(スキルの種別についてと、細かい各スキルの概要についてツェルニ先生が教えてくれた)を終えると、武器を鍛冶屋で回収して、とある場所に向かう。学校からそう遠くない場所にある大きな建物が狩人ギルドだ。
要するに、ギルドで依頼を受けながらの方が身入りがいいと。狩りのついでに依頼をこなせばいいし、討伐依頼も中々悪くない。宿題と並行してギルドの依頼を受ける分には問題がないそうだ。気付かれない限り先生達からは何も言わないようだが、まあ店員さんはセーフということで。
中に入れば左側に受付スペース、右側に依頼・談話スペースだ。一応食事スペースもあるが、あまりにも騒ぐやつは怒られるとかで近辺の居酒屋に行く事が多いらしい。
お姉さんが正しければ、依頼は……っと。
見れば確かにいくつかの依頼が貼られている。
大体は討伐。もしくは素材納品。
この辺りに張り出してある依頼だけでも相当数あるが、特に大事だったり危険な依頼は受付に聞かないとダメらしい。合いそうなものを選んで……ん?
依頼板の前で、じっと依頼を見つめて動かない着物の少女がいる。着物といっても足にスリットが入っており、動けるようになっているのが分かる。彼女はクラスメイトだったはずだ。名前は確か……。
「あれ、君はイリエさん……だよね?」
「あら……こんにちは。ミユキでいいですよ。同じクラスメイトなのですから」
イリエ ミユキ。
彼女の言う通りクラスメイトだ。物静かな印象だったが、確か砲術とかを持っていたような……?自己紹介で言っていた気がする。
「ミユキさんも依頼を受けに?」
「ええ……私のスキルはどちらもその……お恥ずかしい事に、かなりの金食い虫で……」
「なるほど、俺も金策を兼ねていい依頼がないかって見に来た感じなんだ」
依頼を見る。
確かに見てみれば悪くない依頼もある。
★1餓鬼の駆除……これは常時貼られている依頼だろう。
★2河童の甲羅2個の納品……河童は今の俺では厳しい気がする。
そうしてむむむと見ていると、ミユキさんがこちらに近づき、一枚の紙を手に取って見せてきた。
「よろしければ……こちらの依頼を、手伝っていただけませんか?」
「★2大蝦蟇2匹の討伐」。依頼書によると、町の外にある釣り池に2匹出たらしく、討伐をお願いしたいとの事。確かに……ミユキさんが後衛で俺が前衛で当たれば、行けそうな気もするけど。
「いいの?宿題は1人でやらないと……」
「ええ。禁じられているのは複数人で倒したものを納品する事。要するに、魔石を宿題分として提出しなければ問題ありませんの。ツェルニ先生にも確認しましたわ」
「抜け道が多いな……」
あの先生もあの先生で、授業は丁寧だし質問に対してもすごく優しく答えてくれる。が来るものに優しく来ないものに厳しいと言うか。
「本当は、今日は簡単な依頼をこなして着実にと思ったのですけど……大蝦蟇は妖怪の山浅層から中層に群れでいる事が多く、普段は手が届きにくいのです。だからどうしても向かいたかったのですが……」
「ってことは、素材がいるの?」
「はい。蝦蟇の油はいい弾薬の材料になりますから……皮の方も、グリップに使えると聞きました」
そう言って、彼女は背中を向けて自らの得物を見せてくれる。
火縄銃が見た目としては近いだろう。ただ口径部分が銃にしてはなんとなく大きいように見える。
「小筒ですわ。私の砲術が作用する一番小さなサイズの銃がこれで……どうでしょう?弾は少ない分一度当てれば★2でも相当なダメージになりますわ」
「確かに、それなら……ちなみに取り分は?そっちの希望は素材って事だよね?」
「はい。依頼料や魔石は要りませんが、2:1でココノエさんと私でどうでしょうか?それか何か依頼の希望があれば、似たような条件でお手伝いしますが……」
お手伝い……?これだ!
「手伝いでお願い!取り分も素材は全部そっちで、魔石と報酬は1:1でいいから!」
「あ、あの……無理な依頼は手伝えませんわよ……?」
いかん、少し引かせてしまった。
「あ、ごめんごめん。後で説明するけど、無理だと思ったら断ってくれていいよ。あと……俺もハルキでいいよ」
「それでいいのでしたら……よろしくお願いしますわ、ハルキ君」
「うん、よろしくミユキさん」
依頼票を手に取り、2人で受付に行ってお互いのギルドカードを見せ合う。
イリエ ミユキ
砲術1
陰陽術1
「陰陽術!珍しいスキルだね、詳しくはまだ授業で学んでないけど……」
「それが砲術の弾薬がただでさえかかるのに、陰陽術も素材を用いてアイテムを支度しますの……その分魔力の消費が少ないというメリットはあるのですが、はっきり言って砲術との相性は最悪で……はぁ」
心底疲れたような溜息を漏らすミユキさん。本当にお嬢様らしい所作と口調なのに、苦学生やってるのか……?
「でもハルキ君、助かりますわ。自己紹介の時に刀術と話されていたから、前衛がいるとかなり安定しますの。それもレベル2……」
「もう1つのサモナーが使えないままだから、1だと周りより役立たずになっちゃうし……」
「いえいえ、でも頼りにしてますわ」
「こちらこそ」
互いの手を握り合い、俺達は依頼の成功を目指す事を誓った。
今回の依頼の場所は町からすぐの釣り池。モンスターが異様に出現しやすい場所を狩場と呼んでハンター達は集うが、他の場所にも出ないわけではない。人の住んでいる密度が高ければ高いほど出現しにくいとか……0になるかは不明だ。
「小鬼もいますわね……2匹」
池付近の茂みに隠れて、2人で相談する。互いの手札に関しては明かした。……というかまだ俺達は隠し切り札とか持ってる実力でもなく、そんなものあっても隠してられるような段階ではない。
「小鬼2匹、離れてなければ10秒でいける」
「……今は群れですわね。問題は大蝦蟇。多分2発弾が当たれば倒し切れると思いますの。初弾は必ず当てますわ。2発目は……攻撃する余裕はありませんが、凌ぎますので小鬼をお願いします」
「わかった。すぐ戻るから」
小鬼が近くに来て、大蝦蟇が離れた所を狙って……ミユキさんが小筒をいじり……撃つ。
銃弾に比べて明らかに大きな砲弾。
それが大蝦蟇の右半身に衝突し、轟音と共に2m超の巨体をよろめかせる!
「ゲェゴ!?」
叫び声と衝突音に他のモンスター達も気付き、特に同種の大蝦蟇は音の方向、すなわちミユキさんの方に向かっていく。
すれ違いざまに一撃切りつけるが、浅かったのかそのまま走り去られる。
内心舌打ちして小鬼に駆けていく。
大蝦蟇2匹、小鬼2匹に波状攻撃されては前衛の俺が持たなくなるという判断は確かに正しいし、ありがたいが……。
「これはこれで!そっちの負担がさあ!」
走りながら小鬼を即座に切り捨て、180度方向転換をしながら戻る。
スピードが上がる魔法もスキルもないが、相当数モンスターを狩ってきた事もあって、悪くない速さだ。
近付けば、2匹の大蝦蟇相手にミユキさんが立ち回っているのが分かる。
回避に専念とはいえ、集中的に攻撃されているにも関わらずミユキさんに傷一つない。
スキル陰陽術で用意していた「遅延札」のおかげだ。相手の動きをやや鈍らせる効果は、回避だけでなく、攻撃にも有効だ。このように!
「オラッ!」
火鳥の時にもやった剣の投擲。本当に最低限のスペア剣(激安)は、強く投げすぎた事もあり、無傷の個体の目の上辺りで刺さりかけ、砕ける。刃の破片が目に入ったのか悶える大蝦蟇を見て、ミユキさんに叫ぶ。
「ミユキさん!今!」
「はい!」
その言葉を聞いて、俺は傷を負った個体と戦う。
すかさず間を置いて、跳ねて暴れている個体に弾を撃ち込む。
俺が傷ついた個体の舌を切り捨て、頭に刀を突き刺してトドメを刺すのと、ミユキさんが2発目の砲弾を大蝦蟇にぶち込むのはほぼ同時だった。
「ありがとうございます。そしてすみません、刀を1本駄目にしてしまったみたいで……やはりその、分け前は修正したほうが」
「大丈夫だって!ほら、この刀じつは購買部で買った一番安いやつだから、使い捨てにするつもりで投げたの!遅延札みたいなもの!」
「は、はぁ……そうなのですね、刀術にもそのようなものが……」
ないけど。でもこの戦法、なんやかんやで強敵と戦うたびに使っている気がする。この戦い方からも卒業したいよ……。
その後素材を分配し、学校の鍛冶屋コーナーに向かう。昨日の今日で刀を粉砕した事を告げると馬鹿を見る目で見られたが、その辺りは許して欲しい。
「大蝦蟇の魔石1つと小鬼の角1つ、小鬼の魔石が1つ増えたんですけど、これでなんとかなりませんかね……」
「大蝦蟇かあ。せめて油があれば刀の、皮があれば防具の強化になるんだけど、素材はないんだよね。じゃあ昨日と変わらないかな、あまり」
それでもこうして丁寧に答えてくれる辺り本当に頭が下がる。
すみません……次の刀は大事にします……!
購買でなんとなく申し訳なさを感じながら、3本目の刀(最低品質)を買っておいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます