第7話

そんな感じで2週間ほどが経った。今日は学校も休日。朝から白米をかき込み、急いで学校を出る。

休日。2年制の学校であるここで、上級生達は余裕そうに寛いでいるが、俺を含めた新入生達は軒並み狩場に向かっている。


なにせ★2モンスターの討伐だ。殆どの新入生は体験した事がないだろうし、そもそも狩場も知らない場所になる。混乱するのも当然だ。

先週★2を倒した人間もちらほらいるらしいが……そろそろ1体狙っていきたいということだ。


向かったのは妖怪の山。ツェルニ先生にテイムのおすすめをされた妖怪……が目当てというわけではないのだが、いずれ目指すのならば慣れた方がいいだろうと言うことだ。


妖怪の山に向かう馬車……ハンターらしき姿が多いが、その中でも養成校の新入生らしい姿は俺以外に2人か。


「おはよう、2人共妖怪の山?」


「当たり前でしょ、ここから他の狩場になんて行かないわよ」


「ああ、お前もだろ?」


つっけんどんな態度の赤毛の子。

気さくな様子の体格のいい男子。


「確かナツミさんとゴウ君だったよね、お互い狩れるといいね、★2」


「今日は厳しいかもだけど、今月中には行けるわ。そっちも怪我とかヘマしちゃダメよ」


「おう!俺は今日を狙っててな……まあ見てなって、帰ったら自慢してやるよ」


なんやかんやで2人とも優しい。

ハンターにとって同業者はライバルだが、殺し合ったり成果を奪う事は決して起こらない。それはこの世界独特のある現象が理由だと思うが……っと、馬車が到着したようだ。


「おっと、着いたみたいだな。じゃあいい狩りを!」


「ふんっ」


各々奥に向かっていくのを見て、気を引き締める。

ここには先週、一度偵察に来ている。浅層に出てくるモンスターに限れば、大体は目にしたし、弱いとされるモンスターには何回か挑んでみた。


刀を差したまま、早歩きで進んで行く。

妖怪の山なんて言われるこの狩場だが、入ってすぐ、麓のエリアは岩の点在する自然公園のような景色になっている。もちろん油断はできないが、


「いたっ!」


全力で走り、旧鼠(キュウソ)と言われる大きな鼠のようなモンスターを切る。

少なくとも、開けた地形が多い以上森よりは警戒がしやすいはずだ。


このエリアは動物系のモンスターが多い。刀術が2になった後、★1のモンスターならば一撃で断ち切れる様になった。技術の向上と、取り込んだモンスターの力だろう。


問題は★2だが……狙っているモンスターは何匹かいる。どれに会えるかは運だが、やっていくしかない。

また出てきた旧鼠を切り捨て、餓鬼と小鬼の混成小隊を蹂躙する。


池の前に出たあたりで、河童を捕捉し……これは勝てるか怪しいので、気付かれる前に逃げる。


河童から逃げる途中に単独でいたガキを狩り、一息ついたところで上空からいななきが聞こえ……急いで右に避ける!


何かが左をかすめ、ついで暖かい空気が肌を撫でる。

それはもう一度ふわりと浮き上がり、また猛烈な勢いでこちらに急降下してくる……!


視線をそれ……火鳥(カチョウ)に合わせる。あれは★2のモンスター。スピードだけなら俺より上だし、ここで倒すしかない。


それに……絶対倒せない相手ではないはずだ。

森まで行ってなんとか撒くよりは、倒してしまう方がいい。


タイミングを見計らって、突進してくる火鳥に向かって刀を振る。

……惜しい!回避しながらだと態勢が崩れてしまう。

相手はそんな事意にも介さず空中でこちらに照準を合わせ、もう一度突進してくる。


「ああもう……!オラッ!」


回避だけなら容易だが、こちらに近づいた一瞬を狙って攻撃するのはやっぱり厳しい。弓術や魔法のような遠距離攻撃を取っておくべきだったか……?


「仕方ない……アレを試すか」


周りに他のモンスターがいない事をしっかりと確認して、火鳥がこちらに向かって突き進んで来ているのを正面から見つめ返す。

刀を持ち、槍投げの様な体勢で構え……。


「これでも刀術は乗るんだよお!」


飛んでくる相手に投げる!

刀さえ使えば刀術スキルが乗るのは確認済み。その補正もあって、綺麗に火鳥に刀が突き刺さる。


断末魔の叫び声をあげて火鳥が墜落していく。死体が素材と魔石になったのを確認して、ほっと息をつく。


「ふぅ……なんとかなったか。ってうわ、刀にヒビ入ってるし」


モンスター素材で強化しているといえど、餓鬼や小鬼の素材ではこうなるのも仕方ない。

……刀を投擲した後、高いところから火鳥諸共落ちたのが原因な気がするが、深く考えない様にしよう。素材とか売ればまだ黒字だし……。


帰りも旧鼠や角兎に会うくらいで、どうしても避けられそうにない相手だけ刀で始末していった。幸い完全に刀が壊れる事はなかったが、少しヒヤッとした。


やや早めの馬車に乗ると、そこには朝一緒した女の子、ナツミさんがいた。


「あ、お疲れナツミさん。そっちも帰り?」


「そっちも?お疲れ様……ナツミでいいわよ」


「あ、じゃあ俺もハルキでいいよ」


お互いやや疲れたような表情から、狩りの後だという事は分かる。


「……で、アンタどうなのよ。今日の成果は」


「ああ、火鳥を倒したよ。これで1/3かな」


「へえ……」


スッと彼女の目が細まり、好戦的な顔つきになる。普通に怖い。


「……まあいいわ。アタシは今日は偵察。火鳥か大蜘蛛でもいればと思ったけど。あんまりいないものね」


「やっぱり弓だと火鳥は相性いいの?」


朝から気になっていたが、背中に見えるのは弓と矢。弓術がレベル1か2。他に隠し球があるのかないのか。


「アイツら、突っ込む以外の攻撃方法がないでしょ?1対1でも倒せそうな相手だと、あとは動き自体はのろい大蜘蛛かなって」


「それで、火鳥はどうだった?」


こっちに身を乗り出して聞いてくるナツミ。つり目の美人って感じで、可愛い……じゃなくて。


「俺は刀が武器なんだけど、相手飛んでるじゃん?だからこう……刀をぶん投げて倒した」


「工夫してるのね、そんな倒し方があったんだ」


「まあ刀にヒビ入ったんだけど」


「バカじゃない」


「仕方ないだろ、逃げ切れそうになかったんだからさ……」


そんな感じだった。故郷でユウタロウと話していた時は俺が突っ込みがちだったが、周りの精神年齢が高くなったのか俺が突っ込まれる側に回ってしまった……!?


学校で魔石を納品した後、ナツミと別れて購買部に向かう。


学校の鍛冶屋さんに刀を見せて、修理を頼む。


「これを直してほしいんですけど……強度を上げる事ってできますか?」


「少し見せてくださいね」


彼は刀をじっと見ると、ひびを触り頷く。


「大丈夫です。直すだけならこれくらいに、強度を上げる場合は、素材かお金どっちで?」


「素材で……火鳥の羽が1羽分あるので、合成に使えないかなと」


「うーん……」


合成は本当にゲームのそれをイメージしてくれれば分かりやすい。ただし組み合わせの正解は武器や素材によるらしく、鍛冶屋のスキルか他の該当スキルを持っていない限りは判断が難しい。


「できなくもないですが、羽を全部使っても微量ですかねえ。火属性も火鳥のそれじゃ全然でしょうし、強化限界も既に近いです」


「そうですか……」


「見たところ新入生さんですよね。使い捨てのつもりで予備の安い武器を買っておくのがいいと思いますよ。その素材は取っておくか、せめて防具に使うかですね」


「なるほど……ありがとうございます」


購買や鍛冶屋といった職員は、他の鍛冶屋ギルドや商業ギルドから派遣されて来ていることが多い。大体は見習い……の中でも有望株が送られる。ハンター達も見習いながら優秀なものが多い。交流させつつ、彼らには貴重な経験を積まそうという訳だ。

目の前の鍛冶屋さんも、多分俺より5〜6歳上なくらいだ。


「いえいえ、でどうします?」


「これの修理と、もう一本安い刀をください」


「毎度あり!先に購入分だけ渡しときますね。数打ちですが★2相手でも多少は持ちますよ。メインが壊れた時点で撤退した方がいいですけど」


「ありがとうございます」


刀を受け取り、鍛冶コーナーのカタログを見る。高級品のカタログを興味本位で見てみるが、値段を見てそっと閉じた。


「俺も欲しいな……せめて属性付与とかかっこいいのに……」


ぼやきながら今度は安めの商品を見てみる。武器も防具も、確かに★2素材のものなら大枚はたけば買えなくもない。がこれはこれで問題がある。


武器防具頼りのゴリ押しをしていけば、いつか格上の素材が買えなくなった時、武器防具が壊れた時、何処かで終わりが来るだろう。それに何より、「転生者」のスキルが格上と戦うことを指示しているのだ。逃げられるとは思えない。

これがスキルを増やす「スクロール」とかなら全財産はたいても買うが、そんなもの今の有り金で買えるわけがないし、簡単に売り場に並ばないし。


悩んでいると、見かねたのか購買部のお姉さんが声をかけてくれた。


「君、新入生でしょ。どうかしたの?」


「えっと……」


折角だ。向こうから話しかけてくれたのだし、遠慮なく聞いてみよう。


「……というわけで、素材とお金を効率的に集められればと思ったんですけど」


「そっかそっか。まだ新入生だからそうなるよね……いいお話があります!」


すごくあやしい。

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