第2章 最初の宿題編

第6話

「うん、着いたかな」


乗合の馬車(この世界には普通の動物もいる)に乗って半日と少し。故郷から微妙な遠さのここがオウミ領の中心地、ハチマンのはずだ。


「ハチマンだよ〜、お客さん達、降りてください」


「あっ、ありがとうございます」


「坊ちゃんその歳でハチマンに来るって事は進学かい?どこの学校かい?」


「はい、ハンター養成校です」


「ほう!エリート様じゃねえか!頑張ってなあ。学校はあっちだよ」


御者の人にお礼を言って学校への道を歩く。オウミ領の中心というだけあって、人の賑わいや町の大きさは今まで暮らしてきた町の比ではない。日本の大都市と比べても(高層ビルはないが)遜色はないかもしれない。


治安も良く、特にトラブルもなく学校の前に着く。


「こんにちは。来年から入学するココノエです」


「ココノエ君ね……ココノエハルキ。うん、確かに。書類はあるかな?」


「はい、これです」


「うん。入学証も確認できました。ようこそオウミハンター養成校へ。君の部屋は男子寮106号室だね」


「はい!ありがとうございます!」


書類を渡されて、部屋に行く。

部屋には最低限の机と椅子、ベッドしかないが、これからモンスターを狩って増設していけばいいだけだ。俄然テンションが上がってくる……!


ギリギリまで父さんに教わっていたため明後日が授業初日になる。今日は早めに寝てしまおう。



……昨日も結局準備でいっぱいいっぱいで、授業当日になってしまった。

朝から食堂でご飯をかき込みつつ教室に向かう。


教室の席は全て1人席で、生徒同士が離れている。そこに優しそうな、ぽわぽわとした女の人がやってくる。


「は〜い、みなさんおはようございます。私は、みなさんの担任の先生で~す。ツェルニって言います〜よろしくお願いしますね?」


この辺りでは珍しい緑髪にほんわかとした笑顔。そして胸が……デカい!

男子生徒達の顔が僅かに緩み、女生徒達の顔が僅かに侮蔑のそれになる。


ツェルニ先生はそんな事意にも介さず、生徒達にカードとプリントを回して行く。大体の人間は寺子屋で読み書きができるようになっているから問題はない。


「はい、じゃあカードに魔力を通してください〜」


言われるがままに魔力を通すと、そこに浮かんだのは己の名前、そしてスキル。さらに★マーク……。


ココノエ ハルキ

★1

刀術2

サモナー1


これを渡されたという事は、俺たちはギルドの正式なハンターになったという事だ。

人に見せるためのギルドカードでは、やはり「転生者」のスキルは出てこないな。


「は〜い、皆さんはこれをもちまして★1ランクのハンターです〜、おめでとうございます〜!」


パチパチという拍手に嬉しそうな声。

さらに素材と魔石を相当量収納できるアイテムポーチも配られる。これで狩りの効率が上がるだろう!

なんとなく緊張感が解けた所で、ツェルニ先生は爆弾をぶちかました。


「では皆さんには宿題を出します〜。今学期の終わりまでに、自分で倒したモンスターの魔石を50……うち3個は★2以上のモンスターのものを学校に納品してくださいね〜、学費代わりになりますから〜」


きょとんとする生徒達に、ツェルニ先生は当たり前じゃないですか〜、と告げる。


「餓鬼なんて戦闘スキルがない人だって倒せるような相手なんですから〜、エリートハンターになりたいなら入学数ヶ月でそれ以上の相手を狩れるようになってほしいってやつです〜」


「つまり、これができなければ退学ですね〜」


「詳しい内容はプリントに書きましたから、わかんない事とか聞きたい事があったら私か、他の先生に聞くか〜、図書室で調べてくださいね〜」


その後初日という事で生徒達の自己紹介があったが……ぶっちゃけ突然の退学可能性に、俺だけじゃなく全員が動揺していた。多分まともに話せてたのは数人だと思う。


部屋に戻ってベッドに倒れ込み、書類を詳しく見る。


「うーん……」


大体3ヶ月半で、魔石を50個。うち3個は必ず★2以上……。

この手の異世界ではありがちだが、この世界も例に漏れずモンスターがランク分けされている。

★1だと餓鬼や小鬼、唐笠もこれに入るか。これらは基本的にスキルも何もない人間が、1:1で倒せる相手として考えられている。あくまで倒せる相手だから、100%勝てる相手ではないのだが……。

ともあれこれらのモンスターは、ハンターの元締め、組合でも買い取ってはもらえるが微々たるものだ。

当然といえば当然の話で、非戦闘員だろうが子供だろうが倒せるような相手に予算を割く理由もないし、毎日山ほど狩られるモンスターなのだから、魔石や素材不足を心配する事もない。

★2の、戦闘スキル持ちでないとまず勝てない相手を倒して、初めてハンターとして一人前とされるのだ。初心者ハンターとしてのだが。

ちなみに父さんが倒したと言われているオニは★5。俺たちはエリートハンター候補ではあるが、そういった大人たちと比べれば天と地ほどの差があるという事だ。


詳しい条件を読んでいく。

ソロで行う事。パーティーの結成は禁止。外部の手を借りるのも禁止。

元々持っている武器防具は使用可能。


「うーん……どう頑張っても刀術でなんとかするしかないか」


1日目はそうして、頭を悩ませる所から始まった。


そして翌日。

今度こそ授業前だ。席はどこに誰、と決まっているものの、いまいちクラスの会話は乏しい。席が一人一人離れているのもあるだろうし、昨日の衝撃から抜け出せないのもあるが……。


「は〜い、皆さんおはようございます〜」


なんでもなさそうにツェルニ先生が言う。


「授業についてですが〜、座学は私、実践は〜、いろいろな先生がいるのでその都度教えますが〜、よっぽど同じスキルでもないと参考にならないと思います〜、なので実践は、先生を選んで何か教えてもらうか、好きな狩場に行って経験を積んでいいですからね〜」


「みなさんはもうハンターギルドの一員なので〜、依頼を受けるのも自由です〜。でもそれで魔石を納品しちゃって、学費分を納品できなければ退学ですからね〜」


じゃあそろそろ今日の内容を〜、との言葉と共にツェルニ先生の授業が始まる。

内容はハンターの基本、ギルドのルールを守ろうという内容だったが、後半はハチマンの周りの狩場の特徴、そして出現しやすいモンスターについて教えてくれた。生徒達が退屈そうになってきたところで面白い話をしてくれるあたり、とてもありがたい先生かもしれない……。


今日の授業はこんな感じでと教室から出て行く先生の後を追って、声をかける。


「ツェルニ先生!」


「あら〜、ココノエくんでしたね〜?どうしたんですか〜?」


ゆっくり振り向く先生に、スキルの事で相談が、と告げると相談室に連れて行かれた。


「ここならプライベートな話も大丈夫ですので〜」


スキルの話と言った時点で誰かに聞こえないように配慮してくれるあたり、やはりいい先生だ。ちょっとスパルタな所は……多分学校の方針だろうし。


「俺のスキルなんですけど、サモナーのスキルがありまして……モンスターを従えたいんですけど、おすすめとかがあればなって」


「サモナーですか〜。テイマーやシーラーより珍しいですね〜、それなら余計悩むでしょうし〜」


サモナーはモンスターを従え、共に成長できるのが特徴のスキルだ。モンスターはサモナーが死なない限り、致命傷を受けても時間を置いて復活する事ができる。またモンスターを成長させ、別のモンスターに進化させたり、能力を伸ばす事もできる。他の2スキルにはない特徴であり、質に関しては追随を許さない。


ではデメリットとは。

モンスターと互いに同意して、主従関係を結ばなければいけない所だ。

ガキの様なモンスターは何をしてもこちらを殺す事しか考えていないし、知恵の回るモンスターはこちらを騙そうとする。

倒せばいいシーラー、体力を瀕死まで削り無理やり従わせるテイマーに比べ、一気に難易度が上がるのだ。

その他レベル分のモンスターまでとしか契約できないという縛りもあるが、これはテイマーもそうだしな……。


「ちなみに他のスキルは〜?」


「刀術2です」


「2は中々いいですね〜、刀術1のみだと〜、選択肢がほぼ無くなっちゃいますから〜」


「あ、あはは……」


父さんの勧めで刀術のスキル上げを頑張って良かった……下手したら1学期終わりに退学していたかもしれないと考え、ちょっと冷や汗が出た。


「じゃあ、3つ候補を言ってみますね〜。私はテイマー系統のスキルを持っていないので、的外れかもしれませんが〜」


「お願いします」


「1つ目が猫股です〜、人語を解す事の多いモンスターですので、契約ができそうで、スピードは★2モンスターの中でも上位に入りますね〜。欠点は魔法に対する適正のなさと決定力のなさでしょうか〜?」


「ふむふむ」


「2つ目が鬼火です〜、火の魔石を好み集まるので〜、交渉できそうかなって〜……火属性の魔法以外の攻撃手段がない分、本領を発揮させてあげれば強いですよ〜」


「うーん」


「3つ目は木の葉天狗です〜、ランクアップができるサモナーなら、最下級でも天狗系と契約できるとラッキーかもですし〜、上の2種類よりは弱いですが、将来性はこっちの方が上ですかね〜」


「へえ……ありがとうございます」


「いえいえ〜、猫股と木の葉天狗は同じ妖怪の山にいますが〜……あのあたりはココノエくんの実力だとギリギリだと思うので、行くなら浅いところを探索してくださいね〜」


「はい……ありがとうございます!」


「いえいえ〜、これが西大陸だったらおバカで説得が楽そうで〜、魔法が使えるフェアリーがいたんですが〜……」


えっ何それ、絶対可愛いやつじゃん…………。


「まあ無理せず〜、刀術を先に伸ばすのもいいかもですね〜」


「ありがとうございます」


ニコニコと手を振るツェルニ先生に頭を下げて、相談室を出る。

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