第5話

突然だが、この世界と俺について改めて説明したい。


この世界は……世界の名前とかは特にないのだが、転生前の神は「遊戯場」なんて呼んでいたか。モンスターが日常の脅威、そして恵みとなっている世界だ。

家具は大体モンスターの魔石で動くし、生活雑貨から武器防具までそうだ。そんな世界の花形といえば、当然騎士かハンターだ。その中でも成り上がりを目指すなら、10人が10人ハンターを勧めるだろう。

ハンター。要するにモンスター関連の何でも屋なのだが、高ランクになれば富と名誉を手にする事ができるし、領主になったものもいると言う。力が尊ばれる世界だからか、日本よりは支配層になりやすい。

騎士は家や領土に仕え続けるのが基本だし、内職系のスキルや職業もあるが、地球で調べた事のあるマヨネーズの作り方なんてのはとっくに広まっているし、生活を変えるような発明も思いつかない。

食糧にも生活にも困らないようになっているのは、神の「戦いに専念しろ」という俺たちへのメッセージなのかもしれない。


閑話休題。

だから俺は、この世界で名を上げるためにとりあえず上位のハンターを目指すつもりだ。

手始めに数ヶ月後、4月からオウミ領のハンター養成校に通う。刀術とサモナーのスキルはどちらも戦闘向きだし(今の所サモナーは役に立っていないが)、まず間違いなく入学許可は降りるだろう。領地ごとに設置されているハンター養成校は、基本的にその領地の才能ある子供達を集めて訓練する。いわばハンターのエリートコースだ。ここを卒業できればそれだけで一目置かれるようになるし、周りは才能ある同級生ばかりだから是非とも通っておきたい。

カラカサを倒したその日に父さんに相談し、養成校の入学手続きはしてもらっている。

父さんにはかなり喜ばれて、一流のハンターになったら俺を養ってくれと笑われた。元ハンター、現自警団の父さんからすれば、さながら俺は県一の進学校に入学できた感じだろうか。それともスポーツの強化選手としていい学校に進学した感じかな?そりゃ嬉しそうにするわけだ。


「にしてもオウミの中心地ハチマンに留学とはなあ!父さんも昔は養成校に憧れたもんだ」


「はいはい、でも父さん強いじゃん」


「そりゃあエリートって言ってもまだ子供だからだよ。うまく育った養成校のハンターは強いぜ」


「ふーん……」


そう笑う父さんも、さっき言った通りかなり強い。本人は語りたがらないが、刀術5と格闘術5を持っていてオニを倒した事もあるとかなんとか。見た目優男なのに……。これでも村の主力として現役を張っている。

奥さん(俺の今世の母さん)を10年前に亡くしてからは、新しい奥さんも探さずに俺を育ててくれた。前世の両親も良い人たちだったが、今世も家族に関しては恵まれた環境にあると思う。


「ま、俺はこれで一人前だからさ、父さんも奥さんとか探していいんだよ?」


「馬鹿野郎。お前が一流のハンターになるまではアイツに顔向けできねえんだよ」


ほんとにい?ニヒルに笑う目の前の男を半目で見る。

新しい奥さんは娶っていないが、ユウタロウのお父さんがたまに遠出して娼館に行ってるって道端で話してたよ?別にいいけど……譲れないラインがあるのだろうか、それとも息子に対する見栄か。


「ああ、そうだ。オウミには母さんの実家がある。学校の授業が落ち着いたらでいいから、夏休みとかに顔出してやってくれ」


「うん。……そういえば父さんの実家は?」


「潰れたよ」


事もなげに肩をすくめる父さん。

モンスターの襲撃が多いこの世界ではそこまで珍しいわけではないが、でもホラ吹きの父さんだしな……まあいいか。


「じゃあ折角だ、一目置かれるために修行でもするか!」


「え?」


というわけで卒業の森。

今回はその中でも浅いエリアを、一人で探索している。


1匹でいる餓鬼を見つけては切る。

浅めのこのエリアでは、前回と違って単独で行動するモンスターが多い。

モンスターが人の群れを避けてるとか、奥の方が過ごしやすいからとか色々な説があるものの、未だはっきりとは分かっていない。


「ふっ!」


「ゲッ!?」


刀で餓鬼を切り裂き、倒れた所にとどめをさす。

父さんに言われたのは、なるべく沢山のモンスターを倒す事。スキルレベルは低ければ低いほど上がりやすいから、餓鬼を狩りまくって刀術(およびサモナーの)レベルを1から2に上げる事は不可能ではないらしい。


俺の今の実力ではかなり厳しい事をさせられているが、父さん曰く刀術1だけで学園に行ったらすぐに中退させられかねないとか。どういう事なの……?


「仮に間に合わなくても、その分の経験は蓄積する。すぐに上がるさ」


「うん……それで、どれだけ倒せばいいの?」


「ソロでガキとして……最低100かな。希望的観測だから目標として250くらい狙っていこう」


「え?」


「え?」


というわけだった。

体力より先に、対モンスター用とはいえ最下級の刀では何十匹も切ることはできない。

1日10匹ほど狩った所で家に帰るのを続けていた。


結局17日後……170匹ほど狩った所で刀術が2になった。刀もダメになってしまったから、ガキの牙とコオニの角で新しく刀を作ってもらった。肝心の性能は全然変わらないどころか下がりそうだったので、魔石を売ってその金で多少マシな素材も入れてもらった。これで訓練用よりはマシになったか。


自らのステータスを確認するように、スキルボードに触れる。


ココノエ ハルキ

●転生者

刀術2

サモナー1


うん。刀術2に思わずにやけてしまったが、準備は充分。

一番の友達だったユウタロウにもしばしの別れは告げてきた。寂しそうな、悔しそうな顔をしていたが、それでも俺の進学を祝ってくれた。12歳なんだから、嫉妬丸出しでもおかしくないのに。だから猪突猛進なおバカでも嫌いになれなかったのかも。


父さんはいつも通り。大きな休みくらいは顔見せに行くと言ったら、年1でも0でもいいと……そんな心配するより養成校についていけるか心配しろなんて笑ってたが、そんなに大変なのだろうか?怖くなってきた。


12年間、この世界を把握する事、そして生きるだけで精一杯だったが、なんとか躍進の芽が出てきた。目指せ金!女!権力!


……字面が悪すぎるしこんなん考える12歳嫌だな……ま、まあ神様の期待通りに動くなら、全部自然に着いてきそうなものだしセーフって事で……。

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