第4話

「行ってきまーす」


誰もいない家を出て、足早に寺子屋に向かう。

今日は寺子屋が休みの日だが、置いてあるスキルボードは自由に使えるし、貸出表に書いておけば武器防具も借りられる。数日前の演習でモンスターを倒せる事を知った血気盛んなクラスメイト達が、もっと餓鬼を倒そうと準備に来るのだ。


そういうわけで、友達のユウタロウと約束してここに来たというわけだ。俺はスキルボードに用事があるし、ユウタロウの家は大太刀に金をかけすぎて防具を借りている。


「おはよ、ユウタロウ」


「おはようハルキ!今日こそ餓鬼100匹倒すぞ!」


「森の餓鬼が全滅しない?それ」


ユウタロウが防具をチェックするのを尻目に、スキルボードに触れて内容を見る。


ココノエ ハルキ

●転生者(1)

刀術1


これだ。ガキを倒した後生えたこの(1)という数字、これが俺のチートスキル、転生者の真骨頂!

……と、言えたらいいのだが。とりあえず「転生者」の所に意識を集中すれば、効果はなんとなく分かる。


●転生者

戦闘耐性特

現代日本で身につけてしまった戦闘に対する恐怖を無効化する。


成長率微増

僅かに成長率が上がる。強敵と戦う事で成長率がさらに上がる。


運命変転(1)

特定のタイミングでスキルポイントを手に入れる。全5回。

スキルポイントの使用期限はポイント入手を知ってから3日、習得条件を満たしたスキルを1つ選んで手に入れられる。


特というのは特殊の特だ。大抵はレベルアップがないもので、才能や素質に依存する。ただし、戦闘耐性を見れば分かるように別に全てが強いわけではない。成長率もなんか……微妙じゃないか?生前読んでいたその手のネット小説だと100倍とか1億倍とかだった気がするんだけど。


そしておそらく一番大事なのがこの運命変転なのだろう。スキル取得!……制限だらけ、しかもレベル1で。


このスキルを知った時、チートだと狂喜乱舞しながら他の騎士やハンターを調べて……そして俺は後悔した。

スキルを選んで入手となると実際強そうに聞こえるが、例えばチート能力ぽい「空間魔法」「無詠唱」などは他の条件が必要らしく取れない。制限時間3日は、多分ポイントを貯めさせないようにしているのだろう。

さらに一流どころは20〜30個スキルを持っていてもおかしくはないし、2〜3個のスキルでも8〜9レベルならば歴戦だと聞く。逆に言うと、数を大量に増やせる訳ではない、高レベルで入手できるわけではないこのスキルは、悪くはないが微妙だ。


かと言って全くの産廃かというと……そんな事も間違いなく、ない。

俺たち来年13歳になる子供は、寺子屋を卒業する。卒業後はハンターの養成学校に通うつもりなのだが、そこの条件が「戦闘に役立つスキルを合計2レベル分所持」なのだ。養成学校に行きたくない場合も「料理」を取って調理学校に行ったり、将来を考えるとスタートダッシュに強烈なバフがかかるものかもしれない。


……まあ、これは餓鬼を倒した後に増えたポイントを見て考えた事だが。


「じゃあ今日は……数やりたいし、誰か2人くらい誘ってみない?」


「いいぜ!空いてそうで2人なのは……アユミ!ケンゴ!お前ら空いてる?今日一緒に狩らねえ?」


「よろしくね」「いいよ」


先生にも4人を超えない範囲内でパーティーを組むよう言われているし、余っていたアユミという子は確か「水魔法1」の使い手だったはずだ。今日の戦闘で聞いてみよう。




「ハルキ!」


「オッケー!左行く!」


ユウタロウと左右に分かれて、餓鬼を誘き寄せながら1匹ずつ仕留める。

5匹から3匹になった餓鬼達は一番大きな得物を持っているユウタロウに突っ込んでいくが……。


「う、ウォーターボール!」


横っ面から放たれた水球に止まり、そちらに注意が行く。


「スキあり!オラ!」


そこに近かったユウタロウと、アユミの護衛をしていたケンゴが反撃し、戦闘は簡単に終わった。


「やっぱチョロいな!俺って最強!」


「俺2匹仕留めたから俺のが強くね?なあ二人とも」


「もう……」


「まあまあ」


ユウタロウとケンゴは年相応。アユミもこれだから男は!という雰囲気を出しつつも満足げだ。

実際危なげなく勝ててはいるが、簡単に立てておいた作戦は思いっきり無視されまくっている。アユミの護衛をしていたケンゴが途中で突っ込んだりとか。

この世界基準でもまだ子供なのだから仕方ないといえば仕方ない。


「なあなあ、折角なら小鬼とか……唐笠倒そうぜ!」


「いいな!」


「ちょっと、小鬼ならともかく唐笠なんて1日探したっていないわよ!」


小鬼は餓鬼よりやや強いが群れにくい。ぶっちゃけガキを倒せる俺なら1対1でも楽勝とはいかないものの、まず負けない。皆も同じだろう。

この卒業の森は餓鬼と小鬼しか出ないよう定期的に間引きされているが、自警団だって完璧じゃない。稀に上位のモンスターが出るが、その中でも逃げ足が速いため生き残りやすいのが唐笠だ。


唐笠。日本では唐傘お化けなんて言われてたか。

その名の通り傘の見た目に目と足が生えたようなモンスターだが、奇襲をしてくる事があるとか。突然死角から飛びかかってきて針を放ってくるらしい。針はさほど痛くないし他の攻撃方法も体当たりくらいだが、麻痺効果があるらしく、他のモンスターと戦っている時にそうなった場合一気に危険度が上がる。


「……あのさ、これ、秘密なんだけどさ」


ケンゴが息を潜めて俺たちの方を見る。絶対に言うなよと念押しされて告げられたのは……。


「自警団の親父が昨日ここで唐笠見たらしいんだよ!逃げられたらしくてさ……この辺りにいるかも」


なんで先にそれを言わないんだ馬鹿野郎。さっきの戦闘で乱入されてたら怪我人が出てたぞ。


「……帰った方が良くね?」


一応、消極的な案を出してみるがアユミにすら反対される。

確かにユウタロウ達の言う事にも一理ある。唐笠単体の力や防御力は餓鬼や小鬼に毛が生えたレベルの強さだ。昨日は慣れなかったが、多少戦闘の雰囲気を掴めた今、レベル1のスキル1つあるだけで餓鬼数体なら相手できる以上、狙うのはアリなんだが……まあいいか。

結局賛成して、唐笠を探す。

数匹の餓鬼の群れが多く、その程度ならやる気満々のユウタロウとケンゴの二人で十分だ。

途中交代しながら、探している時だった。


「あっ!」


小さくユウタロウが声を上げて、前方を指差す。

そこには直立した和傘のようなものが、ゆらゆらと揺れていた。

正面は確認できないが、おそらく唐笠だ……!


「よし、ゆっくりゆっくり……」


少しずつ少しずつ、4人で近づいて行く。

唐笠はしばらくは気付かなかったものの……ぐるりとこちらに振り向き、その視線が合う!


「あっ、待て!」


4対1だ、不利を感じたのか逃げて行くカラカサを、俺以外の3人は全力で追って行ってしまう。

俺は一番後ろ。ケンゴとユウタロウが突っ込みがちな分、俺がアユミの護衛に回った方が良さそうだ……。


「あっ!」


カラカサを追って開けた所に出ると、そこには二体の角を生やした、腹の膨らんでいない餓鬼のようなモンスターが……。


「小鬼!?」


驚愕し、止まったユウタロウにカラカサは針を投げつけ……そしてそれが足に命中する!


「!?…………」


目を見開いたままユウタロウが動かなくなり、おどけた表情で震える唐笠。ケンゴが怒りの表情で斬りかかるが倒しきる事はできず、そのまま二人で戦闘を続ける。


「あーもう!アユミ!小鬼2匹をやっつけよう!」


「うん!」


まずは1匹!近い方のコオニ、その首を綺麗に切り落とす。

麻痺して動けなくなっていたユウタロウを嬲ってやろうとしていたせいか、こちらへの意識は皆無だった。

その隙をついてなんとか倒せたが、もう1匹はそうもいくまい。


「ゲェッ!」


両手で引っ掻いてくるのを避け、次の噛みつきもかわす。餓鬼は余裕なのだ。1対1なら問題なくやり合えるし、後ろには……。


「ウォーターボール!」


アユミの放った魔法が動体に着弾し、よろめく小鬼。多分あと1〜2発当てればアユミだけでも倒せそうだが、唐笠もいるのだ。


「これで終わり!」


2匹目の小鬼を倒したところでケンゴの勝ち鬨が聞こえ、俺はほっと息をついた。


「カラカサ倒したの自慢しようぜ!」


と笑いながら言うケンゴに、すごいすごいと感心するユウタロウとアユミ。

そんな3人と別れて寺子屋に戻り、俺はスキルボードの前で考え込んでいた。


あの3人に限らず、同年代は12歳ということもあってややアホな所がある。餓鬼や小鬼程度ならそれでも問題なかったが、唐笠レベルで怪我人が出そうになった。


むしろ12歳なんだから、それが普通なのかもしれないが……。

来年から通うつもりのハンター養成校でもこんな可能性がある。なら、自分が強くなるか、ソロでもいけるようになるしかない。


「となるとやっぱり運命変転……」


ポイントの使用期限もあまりない。この際適当に取ってもいいかもしれない。


「転生者」のスキルを念じながら、運命変転について考える。

スキルは大きく分けて3種類。刀術などの物理系。水魔法などの魔術系。その他の特殊系。

運命変転では知っているスキルしか選択肢に出ないらしく、ギルドや騎士団で資料が見れない今選択肢も少ない。


……その中でも選ぼうか悩んでいるのが「魔法」「サモナー」だ。

魔法はアユミが使った水魔法をはじめとして、身体の中にある魔力を通して呪文を使うスキルだ。この魔力もモンスターを倒していけば増えるらしい。

今俺が選べるのは「火魔法」「水魔法」「風魔法」「土魔法」。

「サモナー」はテイム……モンスターを従えて仲間にするスキルの一種だ。

「シーラー」「テイマー」「サモナー」の3種類があり、前者の方が契約が簡単で、その分他の部分でデメリットがある。モンスターもパーティーの数にカウントされるとか、一度呼び出した個体は二度と使えなくなるとか……。シーラーは質より量、サモナーは逆、テイマーは中間。


「……やっぱサモナーかな」


俺はサモナーを選び、レベル1で取得する。

多分魔法の方が即戦力になると思う。が、数年後を見据えるなら悪くない選択じゃないだろうか。わりかし珍しいスキルらしいし。あと折角異世界に来た以上可愛かったり、綺麗なモンスターを従えて自慢したい欲求がある。8割それだ。

折角だからね、俺も異世界を満喫したいし……。結構レアなスキルらしいし……。


ココノエ ハルキ

●転生者

刀術1

サモナー1


「……ヨシ!」


俺は二つ目のスキル取得に達成感を覚えるのだった。

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