第3話

「全員班ごとに並べー。ハンターの人に迷惑かけんなよ」


子供の肉体の弊害か。昨日は眠気にすぐ負けて寝てしまい、朝早くから起きて武器と防具の確認をしていた。緊張してるのか?と父さんには揶揄われたが、ぶっちゃけ緊張している。なんとなく得意げな顔にムカついたからつい全然余裕って答えてしまったが、俺も精神が肉体に引っ張られているのだろうか。


「ハンターのソーヤだ。武器はこの槍」


「ユウタロウです!武器は大太刀!」


「ケンゴです、武器は槍です」


「ハルキです。武器はこの刀になります」


引率のハンターが一人に、生徒が3人。ハンターのグループは最大4人1組で行動するのが基本だ。今回は生徒の引率に雇われたハンターが1人と、クラスメイト2人が仲間という事になる。


「班ごとに、順に引率のハンターさんに着いてけよ。ないと思うがハンターさんがやられるような事があった場合はとにかく叫べ。他の班も近いから」


ハンターの人も苦笑している。あくまで念のためという事だろう。

ソーヤさんに着いて行く形で、3人並ぶようにして森の奥へと入って行く。


「よーし、まずは餓鬼を探す。小鬼を見つけてもそんな強さは変わらんが、怪我しそうなら俺がやる。いいな?」


「「「はい」」」


「よし、じゃあ……こっちだな」


卒業の森と村の人間に呼ばれている場所を、ゆっくりと歩いて行く。

何の卒業かは、当然モンスター討伐童貞だ。

この世界のほぼ全ての人間は、独り立ちの前に誰かに手伝ってもらい弱いモンスターを討伐する。演習の告知前にそう先生が言っていた。

この卒業の森はそれに打ってつけと言うわけだ。俺の村だけでなく、近くのいくつかの村と合同で定期的に間引きをして、最弱の部類のモンスターしか出ないように調整しているそうだ。

流石に最奥に行けば多少モンスターの強さは上がるだろうが、それでも引率のソーヤさんがいる以上倒せる相手になる筈だ。


「おっ……いたぞ。全員ゆっくりと観察しろ。気付かれていない今がチャンスだ」


格上のハンターに護衛されながら、モンスターを観察する機会なんて滅多にない。

そう言われ、じっと今回の目標「餓鬼」を見る。


餓鬼。東大陸では雑魚の代名詞として有名だ。転生前の知識では……確か地獄に関係する、餓鬼道とかなんか、そんな感じの妖怪だった筈だ。

東大陸はアジア風味の、西大陸はヨーロッパ風のモンスターが多いらしいが、ぶっちゃけ転生前にそんな詳しく妖怪の伝承を漁っていたわけではない。名前を知っていても、どこかで情報収集をするようにしよう。


父さんに聞いた話では確か……。

餓鬼はでっぷりと膨らんだ腹が特徴のモンスター。脅威度は★1。特殊な攻撃方法はなく、大きさも子供である自分達とさほど変わらない。


「まずは……ハルキ君か、君から行こう。奇襲するといい」


クラスメイトの槍や大太刀に比べてややリーチが不利と判断したのだろう、奇襲できる相手を譲ってくれた。ユウタロウ達には悪いが、ここはそれに甘えよう。


静かに頷いて、後ろに周りゆっくりと歩き出す。

流石に遮蔽物のない所で近づいていけば気付かれる。距離が10mほどになった所でガキもこちらに気付き、威嚇する様に両手を広げるが……それを無視して足を早め、全力で走る!


「おおっ!」


「ゲゲッ!」


お互いに叫び声をあげて、攻撃をする。ガキの引っかくような攻撃を避けながら、不恰好な一撃を膨らんだ腹に見舞う。


「ゲッ!?」


血が噴き出すが、致命傷には程遠い。

しかしこの一撃で明らかに動揺し、体勢を崩した相手と違い、こちらはしっかりと構える余裕がある。

スキルの感覚に従って構え……


そして、振り下ろす!


「ゲーッ!?」


今度こそ断末魔の声と共に、餓鬼が倒れる。

粒子と共に散り、その肉体が素材と魔石に変わった所でほっと息をつく。


「よし、よくできたな。一人でやれてえらいぞ」


「あ、ありがとうございます」


ソーヤさんもどこか安心したような声だ。実力的には問題ない相手との戦いだが、100%安全とは言い切れない。俺よりはむしろ護衛であるソーヤさんの方が緊張してこの戦いを見ていたのかもしれない。


寺子屋でも学んだが、素材と魔石は倒した人間のもの、という事を改めてソーヤさんから聞き、持っておく。正式にギルドのメンバーになれば素材と魔石回収用のアイテムポーチが貰えるらしい。それまではかさばるが普通に背負っているリュックに入れよう。

同じようにソーヤさんがガキを1匹ずつ見つけ、ユウタロウとケンゴにも倒させる。


演習はそうして危なげなく終わった。


「お前らみんな無事か?いやあ今年も何事もなくて何よりだ。ハンターの皆さんもありがとうございます」


アシハラ先生がハンターの人にお礼を言い、寺子屋に俺たちを連れて帰る。

そして寺子屋にあるスキルボードを触るよう指示する。


俺がスキルボードに触れた途端、一瞬自分の体の中の何かが脈動したような感覚を覚える。

モンスターを倒すと、その生命力を倒した人間が吸収して力を得られるというのがこの世界の常識だ。

具体的にレベルだったり物差しだったりがあるわけではないのだが、モンスターを狩っていくうちに、騎士やハンターは身体強化なしで身のこなしが変わって行くそうだ。また、新しいスキルを入手したり、スキルのレベルが上がる可能性もある。多分ガキを100匹倒しても変わらないと思うけど。

5人以上のパーティーで戦うと、これを一気に吸収しにくくなるらしく、だからハンターのパーティーは4人までというのが鉄則になっている。


クラスメイト達もガキを倒した興奮のままスキルボードに触れ、そして落胆したような顔をする。

手持ちのスキルが2になったり、新しいスキルが増えてたりする事を妄想していたのだろう。ユウタロウなんて露骨に凹んでいる。


「ユウタロウ、今日はかっこよかったよ!俺なんて倒すのに時間かかってさあ、やっぱ大太刀スキルって強いな!」


「お!だろだろ!?ふふっ、俺の伝説の始まりだぜ……!」


チョロい。

そうして家に帰り、父さんに成果を報告する。


「ま、餓鬼なんて雑魚だからな。これで調子に乗るなよ」


なんて父さんは言っていたが、表情はとても嬉しそうで。中身は子供なんて歳じゃないけど、俺は今世の親に最初の親孝行ができた気がして嬉しくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る