第34話



 挙式の二週間ぐらい前から前日にかけて、頭の先から足の先までぴっかぴかのつやつやにいろいろされた。

 ユーバシャールから王都に戻って来た時以上に時間も手間もかけてね。

 メンタルは疲れるが、フィジカルは整えられているという感じでした。

 まあ、専属メイドさん達の力の入り具合はわかる。

 だってね、あの伯爵様の花嫁がわたしなんですよ!

 そんなわけで、花嫁の控室は戦場だった。

 何故かって? だって、相手はそんじょそこらの花嫁よりも華やかな花婿様。

 花婿のフロックコート、この世界、この国の社交界じゃ白って相場が決まってるのよ。

 前世も今世も、白のフロックコートが似合う人ってなかなかお目にかかったことがない。

 若旦那もパーシバルも、無難に着こなしてましたよ? でもね、本日の花婿ほどではないと思ってる。

 わたしは断言する。前世においても今世においても、白のフロックコートが似合う男性なんて、うちの伯爵様以外にいる!? いないでしょ!!

 そんな人の横に並び立つのがわたしなわけよ。

 わたし付きの侍女達はそこのところ、よく理解している。

 あの花婿に見劣りしないように、なんとかしたいと、そういうことでしょ!?

 だから大人しく、されるがままに髪とか顔とか盛られるままの状態。

 その最終段階。

 ラッセルズ商会服飾部門、お抱え有名ドレスメーカーのマダム・リリーをはじめとする、お針子さん達もわたしにウェディング・ドレスを着せて、最終チェックに余念がない。


「夫人用の小物をデザインしていたグレース様ですから、ドレスのデザインもされるだろうとは思っていました。これはお似合いですね、ご自身の魅力をわかってらっしゃる」


 マダム・リリーからの太鼓判を貰った。


「仮縫いの時、ちょっとだけ席を外して、下の部分をチェックしてなかったけど、スカートの部分そう言うヤツ!? パニエで広がってなかった!? え、どうなってるのこれ? なにこれ!?」

「最初からこういうデザインでと、グレース様の指示でした」

「わたしにもナイショで!? 似合うけど!!」


 ちょっとパニックになってるのはうちの末っ子だった。

 まあ、うちの末っ子はマーメードラインのドレスとか見たことなかったか。

 近くで見たり、ちょっと離れて見たり、横や後ろのラインなんかも見る為、ジェシカはわたしの周りをぐるぐるとする。


「うそぉ……やられた、さすがグレースお姉様……」


 斬新すぎてダメだろうか? 

 前世ではスタイル良くなきゃ着こなせないから憧れていたんだけどな、このライン。

 お姉様達も準備室に入室してきて、わたしのドレス姿を見て驚いた表情だ。


「ジェシカが考えたの?」

「違うわ、グレースお姉様が考えたの! わたしも仮縫いの時、ちょっと見逃して、このスカート部分はどうだったかって、いろいろ想像してたんだけど、でもこれは素敵! 流行る! 絶対流行る!!」

「あたしもこれなら着てみたいと思うね」

 アビゲイルお姉様の言葉にパトリシアお姉様も頷く。

「わかる!! デビュタント終了して即結婚の場合や、小柄な人なら、わたしの時みたいなデザインのほうがいいけど、うちのお姉様達だと絶対こっちの方が素敵よ! 大人の花嫁様って感じだわ!!」

「スタイルの良さがわかるわねえ」

「このデザイン、もう少しトレーンの長さ抑えたら夜会服でもいけそうよね。デザイン料渡すので、このドレスデザインでいろいろ作りたい~」

「作ったら買うわ」


 デザイン魂に火のついた妹に、アビゲイルお姉様がそう言う。

 ジェシカとアビゲイルお姉様がとにかく気に入ったらしい。

 アビゲイルお姉様も似合うと思うのよ、このラインのドレス。


「キャー! グレース綺麗! 素敵!! 新作!!」


 入室してきたのは親友のエイダ。


「カメラマン……?」


 カメラマン連れでやってきたエイダにアビゲイルお姉様は首を傾げる。


「今回グレースの個人的な依頼で、同行させてます。プライベート写真との依頼なのでエインズワース新聞にはこのあとの披露パーティーの写真だけを厳選して掲載させますわ」


 エインズワース新聞のカメラとカメラマンだけをプライベートで貸してほしいとエイダに頼んだの。

 カメラマンの人は花嫁の控室に入るとか、前代未聞に違いない。おどおどしていて、「いいのか? ここに入っていていいのか?」な表情だった。


「はいはい、今後流行するだろうドレスデザインの為にも一枚いきまーす。お願いね」


 エイダが彼にそういうと、そこはさすがプロ、カメラを構えると、おどおどした態度も表情も霧散し、採光の具合を考えつつ、縦長の窓を背後にしたわたしの正面やサイド、見返りのショットをカメラにおさめはじめる。

 結婚式にカメラマンとか前世では当たり前だったけど、今世のこの世界ではあまりないことだ。わたしの案にエイダがおめでたいことだからと父親にねだったらしい。


「ねえ、グレース発案だけど、こういうウェディングフォトとか絶対商売になると思うんだけど。ちょっとお父様にも提案してみるわ」

「それは商売になると思う」


 控室にいるうちの姉妹を撮って貰っている時に、エイダとわたしはそんな話をする。


「初回の新郎新婦のモデルがいいもんね~。すごく素敵よ、グレース。おめでとう」

「うん、ありがとう」


 エイダはもう一つ、ニュースをくれた。王太子殿下と第二王子も無事に快方へと向かってるらしい。エイダはちらっとアビゲイルお姉様を見て囁く。

「魔導伯爵の主導で回復されたってお話よ。さすがグレースのお姉様ね」

 そしてそんなお姉様は、第二王子にやたら懐かれてるそうな。

 なにそのおねショタ……妄想が捗るんですけれど。

 エイダも頷いている。エイダはあの事件であまりちょろちょろしないようにと、親から謹慎を言い渡されている間、小説を書いていたらしく、それを出版したら、若い女の子から圧倒的に支持されている。

「王子様の呪いを払う魔女とか、イイ題材よね」

 アビゲイルお姉様モデルになんか書く気か。でもわたし、そういうの好き。

「出来たら読みたい」

「グレースって仕事一辺倒って見えるけど、そういうことにも興味があるのが、嬉しいわ」

 だって元オタク喪女ですもの。


「話は戻るけど、グレースの指示どおり、大聖堂外観だけの撮影もしたらしいけど、なんで?」

「ここで式を挙げましたってわかるでしょ、写真を何もない冊子に張り付けて、記念にするのよ」

「なるほどねえ……そういうのをまとめてセットにしてクライアントにも提示するのね?」

「オプションで売り込めるでしょ? 写真立ても、いろいろデザインして、執務デスクに飾っておきたいの」

「あー、それ、いい!! ねえちょっと、それの具体的なアイデアとか、価格とか、そういうのあとで相談に乗ってね!」

「うん」

 わたしと姉妹、エイダだけの写真を撮ってもらったところで、ドアノックの音がしてシスターが入ってくる。


「花嫁様、御親族及び関係者様はそろそろ聖堂の方へ」


 シスターの言葉で、みんなは控室から聖堂に移動し始めた。



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あと1話で最終話です。

1章39話直後から40話の内容の補完にお付き合いありがとうございます。

作品フォロー、レビュー、いいね、励みになります。

ありがとうございます。

また、1章をもりもり盛った書籍が現在発売中。

書店及び電子ストアでみかけたら、お迎えしてくださると嬉しいです。m(__)m

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