第31話



「で、コレが作られた経緯はジェシカ嬢から聞いたよ。言ってくれたらよかったのに」


 気に入らないって言われたら、ショックでしょう。

 服は何をお召しになっても似合うでしょうし、小物もお洒落な感じで身に着けられますけどね。香水は、好みが分かれる。しかもこれはわたし個人の好みだから。

 辺境は食糧事情が発展途上だから、胃袋落とすのは成功したけど、こういった服飾や小物は、ブレイクリー卿が目ざといし、煩いと思うのよ。

 伯爵様は小瓶の蓋を開けて、香りを確認する。


「これは……すごくさっぱりした香りだね。不思議。俺はこれ好きだな」


 よかったああ。本当ですか?

 絶対に伯爵様には合うと思っていたんだけど!

 ご本人からOKが出るとまた違うのよね。

 あとさ……これを今回の社交シーズンに着けて欲しい! それもお願いしちゃってもいいかな?

 前回の社交シーズンの時も、ダーク・クロコダイルの牙で作ったカフスとかラペルピンとかつけて頂いたし、もちろん今期の社交シーズンでもデザイン一新したカフスとラペルピンはご用意しました!!

 改めて、辺境領産の男性小物類とかもろもろ含めてのプロモーションをお願いしたいわけなんです!


「いま何もつけてないから、ちょっとつけてもいい?」

「はい!! あ、待ってください!! 同じものです、こちらを!」


 アトマイザーも作ったのだ。

 この異世界の香水瓶はあの空気を送る丸いポンプがくっついてるんだけど……わたしは現世にあった携帯できる小さい筒状のプッシュタイプを作らせた。

 硝子瓶に彫金でオシャレデザインにしたよ。


「え? これすごくない?」


 ミニマムに作る技術ってこの世界では、注目されやすい。


「これも併せて販売?」

「紳士向けで作らせたアイテムは、希少品売りにしたいので」


 ヘンリーをはじめとする職人たちが、頑張ってくれた。

 デザインとか仕様書とかを渡すと、やる気になってくれるからありがたい。

 伯爵様は蓋を外して、プッシュ部分に指をかける。

 多分、この世界ではみたことないデザインだろう。丸いゴムに似た素材のプッシュタイプが主流だから。でも、指をかけた部分がプッシュタイプだって、すぐにわかる。

 シュっと手首にちょっとだけ吹きかけて、こすると、ふわっと爽やかなオゾンノートの香りが広がった。

 伯爵様は、何をつけても似合うからな。

 下手すると女性向けのフレグランスだって似合いそうだ。


「うん。今シーズンはこれを使う。夜会に出る時にしてればいい?」

「はい……あと、その、できれば、その、結婚式の時も使ってください!!」


 やだーもー恥ずかしいぃいい!!

 絶対わたし顔が真っ赤だ。

 わたしのことを――強欲で冷酷、傲岸不遜の子爵家当主とか囁く連中には見せられない。

 何? この女とか思われるって!

 人目がなかったら、頭を抱え、もんどりうって、床に転がってしまいたいわ。


「うん。ありがとう、グレース。大事に使う」


 わたしはぎゅって伯爵様に抱きすくめられる。

 うん、よかった。伯爵様に似合う香り。


「よかった」

「?」

「今の最後の一言、効いたなー。ちゃんとグレースが『結婚式』って言ってくれたのが嬉しい。俺との結婚とか、すっかり忘れてるんじゃないかと、実は心配してしてた」


 え、そんなはずは……、そりゃ、領地の開発とかスレイプニル襲撃とかでバタバタしてたけど、こ、こ、婚約してるし、け、け、結婚もしますよ。


「ご、ごめんなさい、でも、ちゃんと考えてます」

「うん。ウェディング・ドレスも自分でデザインしていたとか初めて知ったよ。ジェシカ嬢もグレースがあらかじめマダムにデザインを託しているなんて仮縫いまで知らなかったみたいだし――」


 そうなのよ。今回わたしのウェディング・ドレスは、ジェシカには頼まずに、マダム・リリー監修の元、自分でデザインしてみたのよ。

 仮縫いの今日はジェシカも傍にいたけど、仕上がりはジェシカも当日まではわからない。

 さっきの仮縫いは上半身までで、ウェスト部分はパニエを着ていたし、普通のドレスラインだと思ってるだろう。

 ジェシカがこの香水瓶を持って、わたしの部屋を飛び出したのを幸いに、マダムがパニエを取り外して、腿から広がるスカート部分のチェックをする。

 わたしが、マダム・リリーに託したのは、マーメードタイプのデザインだ。

 上半身から腿の部分まではスリムなラインを見せて、そこから広がるタイプ。

 大人のウェディングドレスだ。

 今世のこの体型なら、是非着たいデザイン。

 それが結婚式ならなおさら!


「楽しみだな」


 わたしもです。

 もしかして、伯爵様に宝物みたいにぎゅってされてる、この瞬間が一番幸せなのかも。

 香りがなんか強く感じたなと思ったら、チュって、軽いリップ音が聞こえた。

 ぱちりと目を開けると、伯爵様の顔。

 今、チューした!? した!?


「ごめん、婚約者が綺麗で可愛かったので、味見しちゃった」


 えへっ……て伯爵様。

 そんな、わたしより年上なのに、その可愛さで、あなたさあ!

 いやいや、もったいぶる気はないですけれども、本当に本当に、手順!!




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短いけど公開……。

本当に、こちらのいいねとか、レビューとか作品フォローとか、コメントとか、背中押されてる感。

ありがとうございます。

どうかこちらの書籍も売れますように……。

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