第27話
避難場所となった採掘場は――一番初めに、ここに視察に来た時よりも規模が大きくなっていた。
業者の人達が開発開始時にここを拡張したのだろう。
採掘する魔石、魔鉱石やコンクリート、他にも硝石やらとにかくいろいろとこの山から採掘されるので、今後さらなる拡張が予想される。
わたしも一番最初に視察の時には、宝石とか金とか銀とか採掘されないかなーなんて思ったものだ。
採掘した物資を一時置く場所のところにスペースを作って、わたしは炊き出しを始めた。
これは護衛としてわたしについてきたスミスさんや、ヘンリーも傍にいて手伝ってくれて、その様子を見て、村の女性陣達も率先して手伝ってくれる。
ユーバシャールを出る時に、料理人のテッドに言って、いろいろと食材を詰めてもらっていたのよ。それを伯爵様を始め同行した部隊の方々にも小分けにして持ってもらったので、ここにいる人達のスープぐらいはなんとか作れる。
テッド……ミンチの肉をもたせてくれたのね。早速肉団子スープにでもするか、根菜類を食べやすい大きさにカットして……気持ち小さめの方がいいかな。いや、あえて大きさランダムで、小さくカットしたのは溶けだして風味になるかもしれない。味付けは塩とあとスパイスの袋も用意してくれたのね! ありがたいわ。
炊き出し用の大鍋は、ヘンリーが作ってくれたのを使用。
皿なんかも各家庭で持ち出しが可能だったら軍の人に頼んで持ってきてもらったり、ヘンリーがなんか即席で作ったりで……(この場合は器に熱が伝わりやすいので注意してもらう)
フォンドボーやコンソメはないけど、スパイスと塩の調節だけでなんとかする。
ハーブもあったはず。
手伝ってもらった女性陣と一緒に味見をして、みんな互いに顔を見合わせる。
避難してた人達もおなかがすいてる様子。
こちらへの視線が痛いわー。
もう、湯気と匂いで食欲を刺激し始めてるからね。
わかったから、そんなに睨むように見るなー! みんなにあげるから! その為に作ってるんだから!!
よおし、野菜とミンチ肉からのうま味でイケると思う。
伯爵様の副官のゴードンさんにお願いして、ここに避難してきた人達に行き渡るように、そして哨戒してもらってる部隊や、村の被害状況を確認してる部隊の人にも、順番に炊き出しを受け取ってもらう。
「ウィルコックス様、大佐がお戻りになりました」
伯爵様が!?
わたしはヘンリーにその場を任せて、ゴードンさんの案内に従って村に入る。
「伯爵様! ヴィンセント様!!」
無事なお姿を見て安心した。
よかった。哨戒は別部隊と交代したのか。
「グレース!」
わたしは小さな子供みたいに、伯爵様に抱き着いた。
よかった! ケガもしてないみたい。
ご無事だった!!
「傍にいられなかったけど、グレースは大丈夫だった?」
伯爵様の声は幾分嬉しそうな響き、一瞬だけ力強く抱きすくめられる。
それはほんの一瞬で、普通のハグの強さに戻る。
「わたしのことはどうでもいいのです。無理を言ってついてきたのはわたしですから」
「炊き出しをしたんだって? それを聞いて慌てて戻って来た!」
わたし、伯爵様の胃袋を落とした!?
たった二回の手料理で!?
「いろいろと目途が立ったのもあるけどね」
ぼそりと小さく呟く言葉に、尋ね返したい気持ちがある。
でも、それは悪いコトではないはず。
伯爵様のお顔を見上げると額に温かい感触。
人前でデコチューですか!?
婚約者だからいいのか⁉ いいの?
まあ、とにかく、伯爵様もお疲れですよ、多分誰よりも疲れているはず。
いろいろと詳細を聞くのはお食事しながらでも問題ないはずだ。
たいしたものは作れなかったけれど、空腹は最高のスパイスって言うし、召し上がってくださいね。
炊き出しの場所に――伯爵様をはじめとする軍の人達が姿を現すとみんな注目する。それまで避難民を取りまとめていた副官のゴードンさんが伯爵様の傍にいくので、住民も「領主様だ!」とわかったらしく、女性陣達は部隊の人達に炊き出しを振舞いはじめた。
わたしも、炊き出しの肉団子と根菜のスープを伯爵様にお渡しして、二人で落ち着いて食事ができるスペースに座り込む。
スープを一口、口にすると、伯爵様はほうってため息をつく。
「うっま……」
その呟きは思いっきり素だった。爵位とか階級とかそういった肩書はどこかに置いた普通の青年の呟き。
人間の三大欲求の一つだもんねー、わたしもそうだったけど、伯爵様もおなかすいてるはずだと思ったの! よかった。おかわりもありますからね! 慌てないで、よく噛んで食べてください。
「で、どうなったんだ。ヴィンセント」
「状況は?」
わたしもお尋ねしたかったことをブレイクリー卿とゴードンさんが尋ねる。
「見つけたよ。多分、襲撃したと思われる群れ」
「それで? 討伐したのか?」
「いや。生かしてる」
生かしてる?
「だって、スレイプニルだよ? 軍馬を超える馬力と速度を誇る魔獣。人に慣れるか慣れないかで言えば、慣れる部類だ。それを討伐? そんなもったいないこと誰がする」
「何頭捕縛されましたか?」
ゴードンさんが尋ねる。
「17頭だ」
馬は――十数頭ぐらいで群れをなす。
それはスレイプニルも同様だ。17頭は多いだろう。
多分、元ブロックルバング領からやってきたというスレイプニルの大群はそういった群れが集合していたんじゃないかしら。
それらの群れはユーバシャール辺境領に入った時点で分散し、一番の脅威である村を襲撃した群れを伯爵様が捕縛したのか。
周囲の警戒はまだまだ必要だけど、とりあえず一安心なのかな……?
「グレース、美味しいこのスープ」
「おかわりありますよ」
「欲しいな」
わたしはいそいそとお代わりをよそってもらって、伯爵様にお渡しした。
「でも、結構魔力使ったから、疲れた――もう一回やれと言われたら、万全のコンディションで望まないと無理……」
伯爵様はお代わりを食べながら、うとうとし始める。
これは……子供が食事をしながらうとうとするアレの状態に近い。
それだけ魔力を使用したってことか。
二杯のスープで事足りるとは思えないけど、疲労がピークで食欲は満足したから眠気がきたんだな。
わたしは空になった器を伯爵様の手からそうっと取り上げる。
「グレース」
「はい」
「一時間でいいから膝貸して?」
何時間でもお貸ししますよ!!
ちょっと誰か毛布持ってきて! 伯爵様におかけしてあげて!!
村の危機は去ったのよ、この人、功労者で領主なのよー!!
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金曜日に発売されました。こちらの書籍! 背表紙分厚いよ!!
書影も口絵も挿絵も神ってるのよ!
もし、書店、電子ストアでおみかけしたらお迎えしてください‼
そして、ジャンル1位ありがとうございます!
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誤字脱字報告もありがとうございます!!m(__)m
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