第25話


 わたしと伯爵様はすぐにユーバシャールに向かった。

 元ブロックルバング領からこっちになだれ込んでくる魔獣はスレイプニルだという……。

 いるのよ……あの、ファンタジー小説やゲームに出てくる八本脚の馬。

 軍では軍馬と同じ扱いで、王都ではそうそうお目にかからないけど。


「伯爵様、スレイプニルに乗ったことがありますか?」

「うん。一般の人は扱いにくいかもね」


 魔獣だから魔力を持つ人との相性がいいって言われているから、多分そうじゃないかと思っていたけどやっぱりそうなのか……。


「ダーク・クロコダイルと比較すると、気性の荒い魔獣ではないとみていたのですが……」

「基本はね。人に慣らしているのは普通の馬と変わらないよ。速度とパワーが段違いだけど。でも元ブロックルバング領にいたというのが気になる」


 ブロックルバング公爵は王位簒奪をもくろんでいた。

 武力の行使も視野においてね。領地でスレイプニル育てていたりしてたんじゃないのかな。


「スレイプニルって繁殖できます?」

「話はきいたことがあるね……軍馬みたいにはいかないらしいよ。アカデミーか魔獣討伐ギルドの方が詳しいだろうな」


 わたしもウィルコックス領でホーンラビットの育成を試みたことがあるけど、うまくいかなかった。

 やっぱり魔獣って、こっちのいうこと全然きかないというか、人に慣れることがあまりないから。

 魔獣対策で建てた城壁を蹴り破ってきたらどうしようか……。

 群れをなしてるっていうのがね……。

 村はどうなってるだろう。採掘現場の村を拡張してるはずのブレイクリー卿も気になるよ。無事でいればいいけど。

 ミルテラ駅から、伯爵様とわたし、そして迎えにきていた伯爵様の部下、一個小隊ぐらいの人数だと思う。

 早馬を使って、道中馬を乗り換えることもして、スレイプニルの大群にあうことなく無事にユーバシャールに到着。

 いつもよりも早いぐらいだ。

 村――もう街って言ってもいいかもしれない規模だけど、ここを守る外壁は、正面からみたら傷もなくて、とりあえず領民は無事なんだと安心した。

 村長や、王都からの行政官が伯爵様の御戻りを知って、集まってくる。

 伯爵様の部下である軍の人も。


「元ブロックルバング公爵領からスレイプニルの大群がユーバシャールに侵入したのは間違いないのですが、この辺境領は広く、群れが分散したのもあり、いま追跡をさせています」

「分散……」


 というのも、この新たに作られた村を覆う外壁は、結構厚めにつくられていて、なおかつ外壁の芯には採掘現場で採掘された魔鉱石を入れてるらしい。

 群れの分散はもしかしてこの魔鉱石に反応してのことかも。

 ラズライト王国鉄道のレールや車体なんかもこれを使用しているから……。

 スカイウォーク社、よくやってくれたわ!


「問題は採掘現場の村です。あそこは外壁はまだなので……」


 ううん……。

 この領主館が建築されるユーバシャール村の外壁を先にとりかかったのか。

 人口密度はこの地で一番だから優先し、採掘現場の方は霊峰リスト山脈の麓、魔鉱石も採掘してるし、外壁は後回しにしたと。


「ブレイクリー卿はまだ採掘現場の村にいるのか?」

「はい」

「採掘現場の村へ向かう」


 伯爵様はわたしを見る。

 いやいや、ここまできてわたしをここに留めるとかはしませんよね? わたしも行きますよ。


「グレースの馬に来た時と同様の軍用のはみをとりつけてくれ」


 伯爵様の指示に軍の人が厩舎に向かう。

 この軍用の馬のはみは魔鋼を使用している。これは魔導アカデミーが開発し、軍に供給してる馬具なの。

 魔獣を寄せ付けない為に開発されたもので、お値段は普通の馬具の5倍はするのよ。


「よろしいのですか?」


 副官と思われる方がわたしを案じるように視線を向ける。


「伯爵様と共に参ります」


 ジェシカの結婚披露宴を途中退席してここまできたの。

 この地の領民は伯爵様の家族も同様だし、血は繋がらなくとも、兄にあたる方だってそこにいるのだから。

 彼等の安全が確保されるまでは、伯爵様と一緒にどこまでも行きますよ!


 ユーバシャールの村がオレンジに染まる。

 そのオレンジと濃い闇のはざまの空に向かって、私と伯爵様、そして小隊は再び馬を駆る。

 日が沈んで、星と月が辺境の空を覆い闇に包まれた。

 その闇の中、馬を駆る伯爵様の後をわたしは必死でついていくのだった。



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 短いけど! 短いけどUP!


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