第3話

 伯爵様の有するユーバシャール領。

 魔石や魔鉱石が出土されるから宝石産出しないかなーって思った。金とか? 銀とか?まだそういう記録はなかったから今のところは魔石、魔鉱石がメインで国預かり資源になる。だから王家直轄領だったんだけど……。

 その魔石、魔鉱石も、近年産出量が減って、北隣の領地――ブロックルバング元公爵領のほうが産出量が多いから、ユーバシャールは誰かに下賜しようってのが王家のご意向だったらしい。

 まあ、あれよ、元ブロックルバング公爵が、採掘に金かけてごりごりやっていたからそういう結果になっただけで、わりと原始的な採掘しているユーバシャールの採掘量が少なく見えたのは当たり前なんだけどね。

 ちなみに、元ブロックルバング公爵領は、当主が王家簒奪の謀反をし、現在ここが王家直轄領になってます。


 ま、それはおいておいて。


 社交シーズンオフ中に、伯爵様の領地に視察に行きました。

 これまた遠い。馬車だけで行くと一月はかかる。

 でもね、この異世界ラズライト王国。

 王都中心に東西南北の四線に鉄道がある程度まで走っているのよ。

 魔獣が存在するのに鉄道があるのって、不思議~、さすがファンタジー異世界って思った。

 レールから機関から車両から、魔力と魔導素材を集約させたラズライト王国が誇る国営交通機関。魔導と科学の粋を極め、魔獣を寄せ付けない夢の列車。

 ラズライト王国魔導列車。

 こいつで行ってきましたよ! これを使うと、移動の日程は半分ほど短縮できるの。

 普通車両の乗車だって結構な金額ですが、コンパートメント(個室)でね!

 でも途中下車して目的地まで、一週間は馬車旅だったけど。

 そのくらい遠い。


「伯爵様にお願いして、領地の視察をしたのは確かですけれど……採掘場の視察では、魔石、魔鉱石以外にも建築資材も採掘できることがわかりました。当面は商品化の為に村の防壁とか交易路――あとは国からの依頼で建設予定である施設でテストをしてみようかと。軍の上層部から新兵の訓練所、魔導アカデミーからは研究施設が、建設予定になっています」


 辺境だけあって、何を建設予定してもスペースだけはある。

 魔石、魔鉱石の採掘場が近いんだから、魔導アカデミーにとっちゃ、研究施設の一つぐらいは欲しいでしょ。

 あと軍部も。

 リスト山脈は国境だし、数年前までその隣国とバチバチにやりあってたから、(伯爵様曰く、軽くひねった程度だから、懲りないと思うとか)この土地に新兵訓練所と要塞都市の一つぐらいは建てたいっていうのが、お上のご意向だと思うのよ。

 なにより領主である伯爵様は軍人だし、要地としてはありでしょ。

 ただこの王都と行き来するにはやっぱり距離がある。

 国からお金を引っ張れたとしても、普通に行政箱物建設にはお金がかかる。

 とにかく領地で手早く金になりそうなものを――物品なり産業なり目途をたてたい。


「元王家直轄領だから、そういった施設建設は、陛下が下賜された時点でお考えはあったのだろうな」

「しかし、ユーバシャール辺境領、魔獣が多そうだな。その対策からして開発が難しいのでは?」


 そうなのよ、魔獣が多いの。


 特にユーバシャール村に近い湖には、ワニ型の魔獣、ダーク・クロコダイルがいる。

 これがまた凶悪で、村の方でも住居の方までやってきて人を捕食するとか、そういう被害もあるわけ。

 わたしも、視察した時にも遭遇して、あわや捕食されるかの状態になったわ。

 ワニってさ……水中や浅瀬でのパワーや敏捷性とかは想像できてたけど、陸にあがったらあがったで、想像の五倍ぐらいは速い動きで捕食対象にむかってくるのを目の前にした時は「あ、これはわたし、ここで死ぬな」と思ったね。

 だけど、一緒に視察をしていた伯爵様が助けてくださった……まさに命の恩人。

 わたしを庇うようにダーク・クロコダイルの正面にたって、布で魔獣の視界を奪った瞬間、氷魔法を魔獣に叩き込み氷漬けにした。

 アビゲイルお姉様の魔法をみたいだ――って、感動したのを覚えてる。

 わたしには魔力がないので、間近でそれを見た時思ったよ。

 異世界、魔法ファンタジーやっぱりスゲー。


 で、ことなきを得たんだけど、ロックウェル伯爵家から辺境に駐在している案内役の人が、この魔獣ダーク・クロコダイルが、領民を脅かしていることも教えてくれたの。

 ……あわや捕食されそうになったわたしは、伯爵様のおかげで助かったけど、そうでない領民もこれまでにはいたと聞いて決めた。

 この魔獣。

 狩って狩って狩って狩りつくしてやる。

 乱獲? 上等。

 食われる前に食らいつくしてやる。

 とりあえず、コイツで何ができるか、討伐した一体をまるまる伯爵様から買い取ったのよ。

 領民も、被害にあうばっかりではなく、ちゃんと討伐できるときは討伐し、解体し、肉も食料としているとか。

 わたしも食べてみました。

 悪くなかったです。あっさりなお肉のお味。

 ガツンとしたタレと絶対に合うので、タレの開発は現在個人でいろいろ試してる。

 直轄領だった時は、こういった討伐した魔獣の持ち込みなんかは、魔獣の討伐や育成、解体等々を行っている冒険者ギルド組合に卸していたらしいけれど、この辺境領から一番近い組合は隣の領の駅のある街なんだそうで……遠い……。

 これも絶対誘致したい、組合に掛け合いたい!

 この社交シーズン中に、本部にかけあって、ユーバシャールに支部誘致をしたい。

 その前にはやっぱりお金!

 もう、お金! 必要!

 貴族向け商品は、この牙のアクセサリーはほんの手始め、まだまだ作ってるからね。

 この社交シーズンに開発試作した商品を見せつけて、ラッセルズ商会経由でガンガン売る!

 わたしを食らおうとしたダーク・クロコダイルは、絶対に赦さんっ……。


「そういった危険もありますが、捕らえてしまえばいいのです。例えば牙なんかはごらんのとおり、真珠には及びませんけれど、わたしにはいいアクセサリになりましてよ? お肉も美味しいですし、余すところなく活用したいですわね」


 わたしがそう言うと、紳士諸君は一瞬黙りその後、爆笑する。


「さすが豪胆というか蛮勇というか」

「ウィルコックス卿らしい!」

「ダーク・クロコダイルの平和もこれまでのようだな」


 よし、イイ感じ。

 本日のメインスピーチは、今、ここがチャンス。


「そんなわけで、ユーバシャール開発に、興味のありそうな会社をお持ちの方、ご紹介いただけません? 早急に必要なのは土木建築系なんですけれど、これも新たな素材を発見したので、辺境開発で試験的に使用して、そちらの会社に優先的に降ろして、国内にも流通させたいと思ってますの。他にもいい素材が見つかるかもしれませんわね……。何と言っても、リスト山脈を有する元王家直轄領ですから、採掘のしがいがありますでしょ?」


 普通の領地持ち貴族でもちょっと興味あるでしょ、この場所は。


 ちょいと腕のいい職人とか、誰か抱えていないかしら?

 ええ、ええ、もちろんヘッドハンティングですよ。

 急募、飽くなきフロンティア・スピリッツの持ち主ってところかしらね。


 紹介してくれたなら、今後の事業にいっちょ噛みさせてやってもいいわよ?



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