第40話
ブロックルバング公爵、王位簒奪未遂事件が解決して、わたしの周りではいろいろあった。
まず、爵位をパーシバルに譲るため、ジェシカとパーシバルが結婚した。
ジェシカの嬉しそうな笑顔が眩しいぐらいに輝いていて、メイフィールド家もウィルコックス家も未来は明るい感じを思わせる挙式が行われた。
元々身体が弱い子だったから、跡取りができるかちょっと心配だけど、なんとかなるだろう。
跡取りといえば、パトリシアお姉様はジェシカの挙式時にはすでに懐妊してて、ラッセルズ商会は盛り上がっていた。
どのぐらいのフィーバーぶりかというと、王都商業エリアにデパート建てやがりましたよ。
ラッセルズ商会。
前世でいうところのハロッズか。
いやいやそれぐらいの財力はある商会ですけれどね。
実際、結婚して三年しても子宝に恵まれなかったパトリシアお姉様……、実はちょっぴり悩んでいたみたいで、パトリシアお姉様が結婚してもウィルコックス家にちょくちょく訪れていたのは、それもあったからだと、ジェシカの挙式の前に聞いた。
若旦那もそういうプレッシャーはよくないからって、パトリシアお姉様をわりと自由に実家に行き来させていたんだそうな。
「トレバーは全然、気にしないって言ってくれたけれど、わたしは気になってて、でもこれで一安心だわ」
「もう、本当に大事にしてくださいお姉様、あんまりあちこち移動しないで」
「ええ、今日はジェシカの結婚式だから特別よ」
ジェシカの挙式の時にはまだおなかは目立っていなかったけれど、嬉しそうだった。
ジェシカもパーシバルもパトリシアお姉様の懐妊を知って笑顔の新郎新婦。
「ジェシカ! 子供服のデザインを考えよう!」
「もちろんよ! 可愛いの考える!」
そんな二人にわたしも声をかける。
「パーシバル、素材は柔らかいのを厳選して。赤ちゃんの肌はデリケートだよ」
「了解です! グレース義姉上!」
わたしもすごく楽しみで仕方がなかった。
この時、わたしは、すでに伯爵様の家にいたんだよね。「ウィルコックス元子爵は、婚約時に相手の家に入るとか、相手の家風に合わせる為なのか、意外と古風だな」と商会連中は囁き合っていたようだけど……普通に居場所がないからだよ。
古風どころか、結婚前のお試し同棲みたいなもんだよ。
そして笑えるのが、ジェシカとバージンロードを歩いて、パーシバルに渡す父親役を誰がやるかと軽く揉めたことだ。おめでたいお祝い事だからね、幸せのおすそ分けって感じでね。
立候補が三人もいたのよ。
パーシバルのお兄様のメイフィールド子爵。(今は伯爵)
ラッセルズ商会の若旦那。
そして伯爵様。
この三人が名乗りを上げてくれて、ジェシカがくじを作ってその場で決定したのが、若旦那だった。
没落直前までいったこの子爵家にしては豪華メンバーを招いての挙式だった。
その後、パトリシアお姉様の出産もあって。
わたしも、伯爵様が所有している領地開拓に乗り出しつつ年を越して――……。
この日を迎えた。
そう、今日、わたしは伯爵様と結婚する。
「素敵! グレースお姉様!!」
ジェシカが両手を組んでそう声を上げる。
わたしのウェディングドレスは、ジェシカが着ていたドレスとは違うデザインだ。
この世界ではあまり見ないデザインだろうけど、着てみたかった。
この今世の身長なら着れるはずだと思って、ドレスデザインは自分でやってみたよ。
ジェシカにもナイショで。
タイプはマーメードラインだ。
膝下から裾が広がり、トレーンも長くしている。
「ジェシカが考えたの?」
「違うわ、グレースお姉様が考えたの! わたしにも教えてくれなくて、やきもきしたんだけど、これは素敵! 流行る! 絶対流行る!!」
「あたしもこれなら着てみたいと思うね」
アビゲイルお姉様の言葉にパトリシアお姉様も頷く。
「デビュタント終了して即結婚の場合や、小柄な人なら、わたしの時みたいなデザインのほうがいいけど、お姉様達だと絶対こっちの方が素敵よ!」
よかった~女子には受けた。ちょっと心配していたんだよね。
胸から腰のラインがしっかり出るから、ちょっと恥ずかしいとか言われるかと思ったんだけど……。いや、実際恥ずかしいけどさ。
でも客観的視点で鏡を見たら、イケる。
「スタイルの良さがわかるわね、これは」
今日は跡取り息子のベイビー、ランディ君を預けて、わたしの式に出席してくれるパトリシアお姉様が呟く。
ランディ君、会いたかった~連れてきてくれても良かったのに。
ラッセルズ商会のじいじとばあばが、「ランディはみてるから」と言って離さなかったそうな。お姉様と若旦那のいいとこどりの孫が可愛くて仕方ないようだ。
「このデザイン、もう少しトレーンの長さ抑えたら夜会服でもいけそうよね。デザイン料渡すので、このドレスデザインでいろいろ作りたい~」
「はいはい、ではその為にも一枚いきまーす。お願いね」
ジェシカの言葉を受けて、友人のエイダがカメラマンを引き連れて、バシャっとわたしのドレス姿をカメラに収めてくれた。
結婚式にカメラマンとか前世では当たり前だったけど、今世のこの世界ではあまりないことだ。エイダがおめでたいことだからと父親にねだったらしい。
「ウェディングフォトとか絶対商売になると思うんだけど。ちょっとお父様にも提案してみるわ」
「それは商売になると思う」
エイダの言葉にわたしが同意する。
「初回の新郎新婦のモデルがいいもんね~。すごく素敵よ、グレース。おめでとう」
「うん、ありがとう」
エイダはもう一つ、ニュースをくれた。王太子殿下と第二王子も無事に快方へと向かってるらしい。エイダはちらっとアビゲイルお姉様を見て囁く。
「魔導伯爵の主導で回復されたってお話よ。さすがグレースのお姉様ね」
そしてそんなお姉様は、第二王子にやたら懐かれてるそうな。
なにそのおねショタ……妄想が捗るんですけれど。
エイダも頷いている。エイダはあの事件であまりちょろちょろしないようにと、親から謹慎を言い渡されている間、小説を書いていたらしく、それを出版したら、若い女の子から圧倒的に支持されている。
「王子様の呪いを払う魔女とか、イイ題材よね」
アビゲイルお姉様モデルになんか書く気か。でもわたし、そういうの好き。
「出来たら読みたい」
「グレースって仕事一辺倒って見えるけど、そういうことにも興味があるのが、嬉しいわ」
だって元オタク喪女ですもの。
そんなことを言っていたら、式場へ移動するように、指示される。
ジェシカの時も花婿に引き渡す父親役で軽く揉めたけど、わたしの時も同様だ。
ウィルコックス家から出るんだから現当主のパーシバルがその役をやると立候補し、前回くじで外れたパーシバルのお兄様も、弟では若いから、私がやるといい、若旦那も愛妻の妹ならば自分が父親役をと譲らなかった。
しかし、今回はその三すくみを打破する人物が、父親役をやると言い出したので、くじ引きもなく決定した。
レッドグライブ公爵閣下ですよ。
伯爵様は有能で、上層部の覚えもめでたいから、閣下が自ら……と伝えると。立候補した三人は「そんなすごい人も出席するのか⁉」と絶句していた。
公爵閣下がそんな父親役をやりたいとか……わたしも「ええぇ……」だったけど、アンジェリーナ様が言うには「閣下は~ヴィンセントを息子として迎えたかったのに、当の本人に断られてるから、随分ショックだったのよ、これを機に親子っぽくなりたいんじゃないのかな?」とのことで……。
ちゃんとそういうこと、本人と話し合ってください。
お義父様。
式自体は普通に順当に行われた。
前世で有名な映画『卒業』のラストシーンみたいに、花婿(映画では花嫁)強奪とかはもちろんなくて、つつがなく……終わるはずだった。
そう、最後の最後で伯爵様のやらかしがね……。
誓いのキスがやたら長くてね。
神父様と公爵閣下の咳払いもスルーしやがったよこの人。
「ヴィンセント、このあと記念写真も撮るからこの辺で」
わたしがそう言うと、伯爵様は止めてくれた。
名前呼びは効くなあ……。
ブーケトスの代わりにブーケ贈呈をアビゲイルお姉様にしたら、とっても眉間に皺を寄せていた。
「これを受け取ったら、よくないことが起きそうな予感がする」
なんて記念撮影前にアビゲイルお姉様は呟いていたけど、ジェシカが綺麗に二つに分けて、エイダとアビゲイルお姉様にブーケを渡してた。
カメラマンの人が声をかける。
「では撮りまーす!」
カメラを前に、これからの未来は――魔導具と魔法でこの世界は前世のようになってくのかなとぼんやり思う。
でも、この青空の下、緑が眩しくて、わたしが愛する伯爵様と、わたしが愛する人々に囲まれてる一枚、この瞬間は永遠なんだ。
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