第39話
キャサリン嬢は、閣下の護衛と魔導アカデミー職員と一緒にレッドクライブ公爵邸から辞した。
明日のガサ入れはブロックルバング公にも告知されたから、その時にキャサリンは自首みたいな形で身柄を確保されたんだとか。
前世の刑事ものドラマでよくある、捕まった犯人がちょっと会いたい人がいるって、感じだったみたい。
キャサリンからすると王族の庶子っていう立場は共感だものね。
彼女は魔導アカデミーの預かりになるそうだ。
処刑もそこで行われるとか。
そりゃ王家簒奪の主犯といってもいいので、死罪は確定だと閣下は言っていた。
そして明日、陛下との会見で、ブロックルバング公爵はキャサリンと同じ沙汰が下されるはずだ。
そうなると忙しくなるからと、レッドグライブ公爵邸でアンジェリーナ様と閣下と伯爵様と晩餐を頂いて、サロンで食後のお茶を薦められた。
「でも、グレース様。よくわかったわねえ。ヴィンセントが閣下の子だって」
「伯爵様は目が、王族の色ですから。あと、耳の形は閣下と似てます」
「私なんて、閣下と結婚してしばらくはわからなかったのにな」
アンジェリーナ様は後妻なんだよね。
美魔女とか心の中で言っててごめんなさい。
正真正銘のばりばり20代でしたよ!
伯爵様と同い年とか。
閣下!! 犯罪!! 犯罪ですよ!
しかも結婚したのがアンジェリーナ様が15の時ってどーゆーことよ。
何歳差? 公爵閣下は王族だから結婚を若い時にしてて、伯爵様のお父様ならえっと、えっと。
「まあ、女だてらに子爵位を持つグレース様なのに堅いわ! 13の時にはわたし、結婚するなら閣下と結婚するって思ったんだもん。一目惚れです!」
「アンジェリーナ様はおしかけ女房だから」
「だって、閣下かっこよかったんだもん。今もかっこいいです!」
アンジェリーナ様……。
そのノリ、うちの妹に似てますわ。
それにしても、思いきり良すぎではないですか?
レッドグライブ公爵閣下の初婚は、さる侯爵家のご令嬢。
結婚したんだけど、逃げられたんだよね。
ここだけの話で聞かされた。
自分の家の庭師と恋仲で、閣下と結婚して翌日には庭師と手に手をとって駆け落ちしたんだって。
そりゃ、外聞悪いよね。閣下から事態を告げられて、ご実家の侯爵家はもう平謝りよ。
結婚後すぐに体調崩し、領地で療養という名目でカモフラージュするのにも全面協力して、駆け落ちしたご令嬢を探したらしい。
で、庭師との間に子ができたんだけど、侯爵令嬢は産後の肥立ちが悪くて亡くなって、庭師もほどなく流行病で亡くなって、公爵閣下はとりあえず、籍はいれたままだったから、そのお子さんをひきとった。
これが伯爵様のお兄様に当たる人。
結婚して初日で、そんな状態になった閣下に同情して励ましたりしたのが伯爵様の実のお母様。
レッドグライブ公爵家に仕える侍女だったんだけど、伯爵様を身ごもってそのまま公爵邸から姿を消したとか。
公爵様は結婚も考えたぐらいだったのにね。
伯爵様のお母さまは、やっぱり身分が高すぎる相手だから気後れしたらしい。一人で貴族の乳母係を生業にして、伯爵様を育てて、働きすぎて亡くなったらしい。
公爵様はずっと伯爵様のお母様をお探ししていたけれど、見つかったのは亡くなった後だった。
伯爵様は、当時、士官学校に入っていて、天涯孤独なんだなと思っていたら、父親がレッドグライブ公爵だとお母様の葬儀の時に知ったんだとか。
閣下は当時、伯爵様を引き取ろうとしたけれど、伯爵様は言ったそうだ。
「母が、貴方の名を言わなかったのは、やはりその身に合わなかったからだと思います」
そう言って、レッドグライブ公爵家に入らなかった。
でも成人の時にね、閣下がお持ちの伯爵位を譲られたんだって。
それだけ聞くと、伯爵様だけではなく、閣下もご苦労されたんだな……いや最終的には若い嫁をもらって(しかもめっちゃ惚れられてる)現在勝ち組なんだろうけど。
「……グレース?」
「聞きたくないですけれど、聞かないとアレなんで。伯爵様の王位継承順位、もしかして一桁台ではないですか?」
伯爵様は閣下と視線を合わせる。
「暫定なんだよね。王太子殿下と第二王子殿下が、キャサリンの魅了から解かれたら、元に戻るけど、治療が長引いたり何かあったりしたら、そうなるってだけで……」
伯爵様はVサインを作ってわたしに見せる。
「閣下についで二位かな」
殿下! 頼む! 早く快癒して!! 早く良くなって!!
いやまて……。
「アンジェリーナ様」
「はい?」
「頑張ってください」
「何を?」
わかんないならいいです。ごめんなさい。
まだまだ全然若いし、イケるはず。閣下も頑張って下さい。
お二人にお子が生まれたら、伯爵様の継承順位下がるでしょ。
殿下の快癒と一緒に祈っておこう。
タウンハウスに戻ったら、教会に行こう。
マジで神様お願いします。
そんなわたしを見て伯爵様はクスクス笑う。
「さて、明日の夕方には帰宅できますよね」
「えー帰っちゃうの?」
「はい、お世話になりました」
「もっといてほしいー……そうよ、ヴィンセントがここに住めばー」
ぱんと掌を叩いて、アンジェリーナ様がさもいいことを思いついた! っていう感じで話し出す言葉を伯爵様は素早く遮る。
「却下です」
伯爵様の言葉にわたしも頷く。
「えっと、じゃあ、その、お茶会とかには来てほしいな……。夜会の時は声をかけてね」
「ヴィンセントが結婚すれば、そういうのはなくても大丈夫だろう」
黙っていた閣下がアンジェリーナ様にそう言うと、アンジェリーナ様は嬉しそうに閣下に微笑みかけた。
「そうね、ヴィンセント、はやく結婚してね! 遊びに行くわ!」
突撃は勘弁してくださいね、アンジェリーナ様。
きっとわたしは伯爵様の領地経営のお手伝いをしてると思いますよ。
そして翌日――。
ブロックルバング公爵は王位簒奪の首謀者として捕まり、この事件は収束した。
ラズライト王国内、特に王都ではエインズワース新聞の号外が飛び交い、わたしはウィルコックス子爵家のタウンハウスに帰宅することができたのだった。
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