第27話
キャサリンが会場のホールを出ていくのを見送ると、伯爵様がわたしの手をとる。
そこで自分がやった行動を顧みて、「申し訳ございませんでした。伯爵様」と謝罪。
ほんとごめんなさい。
勝手に動いて、悪目立ちしちゃったよ。
でも、これで注目浴びたからなのか、エイダがこちらに来るのが見えた。
「ごきげんよう、グレース。ロックウェル卿」
「エイダ」
「もうっ! ひやひやしたわ。で、どうだった? 本人だった?」
エイダさん好奇心隠さずわたしに詰め寄る。
「何が本人?」
伯爵様の言葉に、わたしとエイダは顔を見合わせる。
この場所は注目が集まりやすいな。
エイダとアイコンタクトを交わし、当たり障りない会話――友人とこの会場で会ったわよ的な雰囲気で場所を移動する。
ちょっと出入口に近いテラスの近くまで移動して、周囲の聞き耳が届かないかを確認した。
「ロックウェル卿は、グレースが婚約を破棄されたのをご存知ですよね? その元婚約者、グレースを振る時に、自分が付き合っている令嬢をその場に伴っていたお話はご存知ですか?」
エイダの発言を聞いた伯爵様はわたしを見る。
「ああ、相手の女性まで伴って、グレースに婚約の解消を申し出たと」
驚きはごもっとも。
伯爵様のお言葉からしても、やっぱり、あの場で相手を連れてくるっておかしいよねー。
婚約者よりも素敵な女性を見つけた。この人と結婚する! とか喚かれて、納得する女がいるとは思えないし、人によっては逆上するんじゃないの?
前世でだってリアルでお目にかかってないわ。
……まあ、わたしの場合は、対人関係がアレだったから、二次元でしかお目にかかってません。
もしも、そんな真実の愛だか運命の女だかを伴っていて、わたしが攻撃的な感じで詰め寄ったらどうすんだろ。
エキセントリックな性格の人なら、その場で大乱闘だよね? もしかしてそれを期待してたのか?
今でもそれは疑問に思う。
でも三年前、元婚約者はそれをやったんだよね。
「それで、その場に連れてきていたのが、キャサリンっていう名のご令嬢だったんです」
わたしがそう言うと、伯爵様は考え込む。
「わたしはエイダに頼んでキャサリン嬢のことを調べてもらおうと思って……。名前と外見的特徴が一致するからと言って、三年前のご令嬢ではないかもしれませんから」
「それで先ほどの対応だったわけか……それで、どうだった?」
エイダも伯爵様と同様に、どうだった? と目線で問いかけてくる。
「同一人物でした」
二人とも考え込んだ感じ?
うん、わたしもこの場合は、どうしていいやら。
「そ、それで。キャサリン嬢はグレースのことを覚えている感じだった?」
エイダは尋ねてくる。
「全然。子爵家の令嬢だったわたしのことなんて記憶になさそうな感じではあった。わたしは覚えてるのに。それよりも、なんか変な感じがしたの」
「変な感じ?」
「王太子殿下に大切にされているんだろうって、自覚してもおかしくないはずなのに、無反応というか、周囲全般に、怒りをぶつけたいのを抑えているというか、敵意を隠しているというか……でも彼女自身からはそういう言葉はないから、わたしの個人的な主観なんだけど」
変じゃない?
シンデレラストーリーの主役になれる子だよ?
乙女ゲーでいうならヒロイン枠だよ?
もっと婚約者であるアンドレア様を貶めても脅かしてもおかしくはないのに。
攻略対象者である王太子や側近たちにも媚びてもいいはずなのに、そんな仕草も様子も見えない。
あと元下位貴族だったという印象もない。
ジェシカを見てるとわかるように、下位貴族の若い令嬢だったら、もっとはっちゃけててもとは思う。
ちやほやされている状況は揃ってるからね。
なのに、暗い雰囲気。
性格か?
「ここだけの話なんだけど――……」
エイダは声を潜める。
「キャサリン嬢は元は平民だったらしいわ。男爵家の養女になって、そこからあれよあれよと公爵家養女にね。最初の男爵家がブロックルバング公爵の寄り子だったの」
「おかしくない? 本当に平民だったのかしら?」
わたしがエイダにそう呟く。
だっておかしい。
なんで平民の子を養子に迎えるの?
ブロックルバング公爵家が養子に迎えるならば、寄り子の貴族の中から、見目いい女子を養女にするでしょ。
「何故、キャサリン嬢だったのかしらね」
わたしの呟きに伯爵様は告げる。
「グレース、エインズワーズ嬢もそこまでだ。私の方で調べる。エインズワースの方でもそう言われてるはずだ」
まるで、子供を窘めるような感じで。
わたしはエイダの顔を見ると、どうやら親にも言われたらしいな……そんな感じがするわ。
仕方ない。
相手は公爵家だもんねえ。エイダに何かあったらわたしも嫌だし。
もやもやするけれど、ここまでか……。
養女になった高位貴族のご令嬢の過去なんて……調べられないか……。
ちょっと嫌だけど、クロードに話を聞くって手段もあるんだよねえ。
問題はアレと会話が通じる気がしないということと、婚約決まったのに元婚約者に会おうなんて外聞悪いってところなんだろうな……。
わたしは伯爵様を見上げると、伯爵様はにっこりと笑ってる。
はあ……いうこと聞かないとダメってことか。
やっぱり怒られたくないもんね……。最初から好感度ある人から好感度下がるの怖いし。
そーゆーところ、わたしの……ずるいところだな。
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