第67話 始龍の力
「お前みたいなやつが現れるのを、ずっと待っておったのだ」
目の前の最初の始龍は、俺にそんなことを言った。
いったいどういう意味なのだろうか。
「それは、どういうことだ……?」
「お前に、始龍の力を継いでもらいたい」
「俺に……?」
「お前はアイリの眷属だ。竜王であるお前は、我から始龍を継ぐことができる。そうすれば、我は死ぬことができる……。そして、お前は始龍の力を手にする。どうだ、悪い話じゃないだろう。お前には、力が必要なのだろう……?」
「なるほどな……そういうことか」
たしかに、悪い話ではない。
俺は死ねなくなってしまうわけだが、その代わりに力が手に入る。
今の俺にはもっと力が必要だ。
混沌の始龍を倒すための、力が――。
「いいだろう……! 結ぶぞ、その契約!」
「よろしい」
俺はベルグボルムから始龍の力を受け継いだ。
すると、ベルグは一瞬のうちに灰となって消え去った。
「ふぅ……でも、これで、アイリを助けることができるぞ……!」
俺は始龍の力を持って、遺跡をあとにした。
◆
俺が遺跡から戻ると、カンナが俺のもとによってきた。
「おおう、見違えたなレルギアよ。とてつもないパワーじゃ」
「やっぱ、わかるのか? 俺、始龍になったんだ」
俺がそう言うと、サテナが興奮して俺の身体を触ってきた。
「なに!? キミ始龍になったの!? その身体詳しく調べさせて! はぁはぁ……」
「おいおい落ち着け……。それはまた今度な。俺は今は、アイリを助けにいかなくちゃ……」
俺は二人をその場に残し、空中へ飛び去った。
始龍の力を受け継いだことで、俺は完全なドラゴンの身体に変身できるようになっていた。
空中から、アイリを探す。
最初はこんな広大な暗黒大陸でアイリを探すなんて無謀なことだと思っていた。
しかし、この始龍の力さえあれば、アイリを探し出すことも可能だと思う。
なにせ、視力が段違いにいい。
それだけじゃない。
同じ始龍だからだろうか、自然と力の方角が分かるのだ。
遠くのほうに、似たような強大なパワー同士がぶつかっているのが感じ取れる。
あれが、たぶんアイリだろう。
俺は力の方にめいいっぱいの速度で向かった。
「アイリ……!!!!」
暗黒の空に、三体の龍が浮かんでいた。
そして、そのうちの一体は俺のよく知るアイリそのものだった。
三体は今も戦っていて、戦況は膠着している。
若干アイリが押されているようだったが、無事のようだ。
始龍からすれば、数十年の戦いなど、ほんの一瞬のことなのだろう。
このまま、数百年戦っていてもおかしくない。
だがこのままだと、おそらくアイリが負けてしまう。
俺はアイリのもとに駆け寄った。
「アイリ……!!!!」
「その声は……!? レル……!? レルなのか……!?」
アイリは俺に気づくと、戦いの手を緩めて振り向いた。
その隙を、相手の混沌の始龍たちは見逃さない。
「アイリ……! 危ない……!」
アイリに襲い掛かった攻撃を、俺が羽根で防ぐ。
今までの俺だとこんな始龍の攻撃を受け止めることはできなかっただろう。
だが、同じく始龍となった今の俺にとって、このくらいのことは朝飯前だ。
「レル……その力は……!?」
「ああ、俺は始龍になった」
「ばか……っ!」
アイリは涙をにじませながら、俺のことを罵倒した。
「一度始龍になったら、戻れないんじゃぞ……!? 死ねない身体になるんじゃぞ……!? ベルグが死ねない身体にどれだけ苦しんでおったか、見なかったのか……!?」
「大丈夫だ。俺は始龍になっても。死ねない身体になっても、そこにアイリがいるのなら、俺は大丈夫!」
「レル……」
そんなことをいいあっているあいだにも、敵は眼前に迫っている。
「さあ、再会を喜ぶ前にだ。まずはこのトカゲどもを成敗しないとな……!」
「そうじゃな……レルよ……ともに戦ってくれるか……?」
「もちろん。俺はそのために来たんだから」
アイリとの初めての共闘だ。
相手は強力な混沌の始龍。
だが、俺とアイリの二人なら負ける気がしない!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます