第66話 龍の試練


 始龍の遺跡の碑文に書かれていたことから、俺はアイリが危険な目にあっているかもしれないと結論づけた。

 アイリは人間のために、3体の混沌の始龍たちと戦っているんだ。

 だが、ここにももっと手がかりがあるかもしれない。

 俺は、始龍の遺跡をもっと調べることにした。

 すると、碑文の下に、なにかあることがわかった。


「どかしてみよう……」


 碑文を横にずらすと、なんとそこには大きな穴が開いていた。

 まるでここから中に入れと言わんばかりの、人が一人すっぽり入れるほどの穴。

 穴はどこまでも深く続いていた。

 ここから、遺跡の中に入れるのかもしれない。

 俺は、さっそくその中に入ってみることにした。


「みんなはここで待っていてくれ」



 ◆



 穴の中に入ると、下までずっと続いていた。

 俺はそれをどんどん下る。

 すると、大理石でできた大広間のようなところに出た。

 なにやら儀式をするような祭壇のようなものもある。

 俺についている龍の紋章と同じものが、そこらにあしらわれている。


「ここは……?」


 俺が少し歩いて散策すると、なにやら生き物の気配がした。

 しかし、人間のものではない……。


「ドラゴン……?」


 俺は気配のするほうにいってみる。

 すると、そこには巨大なドラゴンが寝ていた。

 そう、トカゲなんかではない、本物のドラゴンだ。

 おそらくはアイリと同格。

 それは、寝むっていても、そこにあるパワーから感じ取れた。


「んん……? 我の眠りを妨げるのは誰だ……?」


 俺が近づくと、ドラゴンは目を覚ました。

 敵意はなさそうだ。

 だが、こいつが始龍だとすると、混沌の勢力だということになる。

 どういうことだ。

 混沌の始龍は、今アイリと戦っているんじゃないのか……?


「お前は……なにものだ……! 始龍の一体か……?」

「ふん……そういう貴様は……ほう、面白いな。アイリの眷属か……」


 ドラゴンは俺の龍の紋章を一目見ると、そんなことを言った。


「アイリを知っているのか……!?」

「いかにも、我は始龍の一柱。名はベルグボルムと申す」

「ベルグ……」

「まあ、そう警戒するでない。我に敵意はない」


 だが、あの碑文の内容が正しければ、こいつはアイリと対立する混沌の始龍であるはずだ。


「お前の推測は正しい。たしかに、我はアイリの仲間というわけでもない」

「どういうことだ……?」

「いわば、中立……といったところかな。人間の行く末など、そんな些末なことには我は興味を抱かんのだ」


 なるほど、たしかにそういうドラゴンもいてもおかしくないな……。

 だが、こいつはいったいこんなところでなにをしていたんだ……?


「こんなところで、のんきに昼寝か……?」

「まあ、暇を持て余しているというのはそうだな。我は、ただただ暇なのだ。それどころか、もう死にたい」

「はぁ……?」

「始龍というのはな、死ねない生き物なのだ。我は最初に生まれた始龍。もう長く生きすぎた。今はもうただ死にたい……それだけだ。だが死ねないものだから、ここでこうして数百年ほど寝ていたというわけだ」

「そ、そういうことか……」


 たしかに、死ねない身体になったら、そういうやつも出てくるだろう。


「そう、ずっと眠っていたのだ……。そして、待っていた」

「なにを……?」


「お前みたいなやつが、現れるのをな……!!!!」


「……!?」

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