第65話 手がかり
竜人族の村長が、俺にこんなことを言ってきた。
「実は、手がかりはないのですが、遺跡ならあります」
「遺跡……?」
「始龍の遺跡と呼ばれるものがあり、そこには碑文などもあります。私たちには読めないのですが、もしかすると竜王様なら……。行ってみるのもありかと」
「なるほど、ありがとう」
ということで、俺は村長に教わった遺跡へやってきた。
遺跡は竜人族の里のすぐ近くにあった。
そこには巨大な岩に、文字がたくさん刻まれていた。
サテナが興奮して、碑文を解読しようと駆け寄る。
「す、すごいよこれ……! 何が書いてあるんだろう……気になる」
俺も、その碑文を読んでみようと試みる。
すると――、
「読める……読めるぞ……!」
「レルギア、それほんと……!?」
「ああ、これは龍の文字だ。アイリから習ったことがある」
そこにはこんなことが書かれていた。
この世界の始まりに、始龍が4体生まれた。
そして始龍は、二つの派閥に分かれた。
ひとつは、混沌、もうひとつは調和。
混沌の始龍たちは、人間を恐れ、憎んだ。
そんな混沌の始龍たちは、人間を滅ぼそうとしたのだ。
反対に、調和の始龍は人間との共存を選んだ。
だが、調和の始龍は1体だけで、3体の混沌龍と戦わねばならなかった。
大きな戦いが起こった。
しかし、調和の龍は敗れ、深く傷を負ってしまったのだった。
このままでは人類もろとも、調和の始龍は殺されてしまう。
だから、調和の始龍は別の場所に移動した。
フォスフォフィライト湖の中に浮かぶ、巨大な島に、人間を連れて移住したのだった。
そして、自らの場所に危害がおよばぬよう、結界を張った。
結界は、大きな断崖を作り出した。
俺は、そこまで読んで思った。
「この断崖っていうのは……あのここまでくるときに通った、断崖のことか……?」
それに、おそらくこの調和の始龍というのは、アイリのことだろう。
アイリが、大昔に人間を連れて、暗黒大陸から独立したんだ。
続きを読もう。
大陸に移住し、調和の始龍は、その大陸を人間たちが住みやすいように作り替えた。
だが、自分の暮らす場所だけはかつての暗黒大陸の植生を残した。
「つまり、それが大魔境……」
調和の始龍は誓った。
その場所で療養し、力を蓄える。
そしていつか、また暗黒大陸に戻り、混沌の始龍たちを倒すと。
そして、いつか暗黒大陸を取り戻すと、そう誓ったのだ。
調和の始龍は、人間たちとともに、反逆の機会をうかがっている。
「ってことは……アイリは、暗黒大陸を取り戻すために、暗黒大陸に戻ってきたのか……?」
だとすると、今アイリは混沌の始龍たちと戦っているってことか……?
だけど、混沌の始龍ってのは、それぞれがアイリと同じくらい強いんだろ……?
それに、3体もいるっていうんだろ……?
だったら――
「アイリが危ない……!」
俺は、なんとしてもアイリを救い出す。
なんだったら、その混沌の始龍とやらは、俺が倒す……!
俺は心にそう誓った。
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