第54話 暗黒大陸


「暗黒大陸……? なんなんだそれは」


 俺は義務教育も受けていないから、わからない。


「いいかい? 一般的に、この世界・・・・とされている我々人間の住むエリアは、4つの大陸とされている」

「ああ。そのくらいは、俺でも知っている」

「だが、それはあくまで人間たちにとっての世界でしかないんだ」

「つまり……?」

「この世界には、外側がある――」


 言いながら、サテナは白紙を取り出して地図を描き始めた。

 まずは中央に人間の住む4大陸。

 それからその4大陸を囲むように、円を描く。


「待て、この円はなんなんだ? 大陸の外側は、海が広がっているはずだろう?」

「それが違うんだな。まあ、表向きはそうなってるよね。暗黒大陸はタブーのような部分もあるから、教育の現場以外では誰も口にしない」

「そうなのか……?」

「この円は、大きな湖なんだ。暗黒大陸に存在する、世界最大の湖――フォスフォフィライト湖」

「なんだと……。湖……!? これが……!?」


 しかも、フォスフォフィライト……。

 俺とアイリのファミリーネームだ。もしかして、アイリはここから名前をとったのか……?

 しかしこの巨大な海が、ただの湖だなんて、信じられない。


「湖の外は……どうなってる……?」

「そこは暗黒大陸だね。暗黒大陸がどうなってるかは……それは誰にもわからない。渡航は禁止されているからね……」

「禁止……? なぜ」

「まあ、まず行って帰って来たものはいない。だから、なにがあるかはわからない。そういうことさ。おそらくは、巨大なモンスターや、凶暴なモンスターがうごめいていて、人間の住めるような場所ではないんだろうね」

「なるほどな……」


 そしてアイリたち始龍は、その暗黒大陸から来たと……。

 暗黒大陸にいけば、たしかにアイリの手掛かりがわかるかもしれないな。

 サテナはさらに情報をつづけた。


「始龍には二つの派閥があってね、光派閥と闇派閥……。その二つの派閥は今も争いを続けているという……」

「始龍は5体……ということは……」

「そう、どちらかの派閥が必ず不利になる。不利になって追いやられた光派閥のドラゴンは、このフォスフォフィライト湖の中に逃げ込んだと伝承にあるんだ。それでこの4大陸を作り上げたとか」

「そういうことか……じゃあアイリは……」

「私の想像だけど、闇派閥との戦いに決着をつけるために、暗黒大陸に戻った……とかかもね」

「だったら、アイリはピンチじゃないのか……?」


 あのアイリがピンチになるようなところ、想像もつかない。

 だけど、相手はあのアイリと同じ、始龍なんだろ……!?

 だったら、アイリが危ない……!


「よし、俺は暗黒大陸を目指す……! そして、俺がアイリを助けるぜ……!」

「まあ、暗黒大陸に行くのはさすがに無理だろうけどね……」

「なにか方法はないのか……」

「うーん、剣武祭で優勝すれば、理事長から調査の許可が降りるかも……」

「よし、なら楽勝だな」

「え……」


 いよいよ明日からは、剣武祭の本戦だ。

 俺はますます、負けるわけにはいかなくなった。

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