ローゼンベルク 編

第35話 親フラ


 ローゼンベルク城に、とある夫婦が尋ねてきた。

 もちろん、王城へは、どこぞの一般人が、簡単に立ち入れるようなものではない。

 最初こそ兵士たちに追い返されそうになったが、彼らがある人物について言及したことで、謁見が許された。

 彼らは、ローゼンベルクの姫が大魔境から連れ帰った、あの・・大賢者レルギアの両親だというのだ。

 夫婦は、王との謁見の間に通された。


「お願いです、信じてください。あの大賢者様は、きっと私たちの子供なのです」


 二人は、王を説得しようと、頭を下げて懇願した。


「ふぅむ、ではその根拠は?」

「ちょうど17年ほど前のことです。我々の、生まれたばかりの子供が、攫われたのです」

「それは……にわかには信じられぬ話だな。大賢者殿からきいている話とも食い違う。だが、あなたたちはたしかに、あの大賢者殿と瓜二つだ。なので、とりあえずは大賢者殿が学校から戻ってくるのを待つのはいかがかな? 今、兵士を迎えに出させているから。それで、本人と話をするというのは」

「それは……! ありがとうございます。きっと大賢者様も、一目見れば我々が両親だとわかるはずです……!」


 夫婦は城で、大賢者を待つことになった。




◆◆◆




 なぜ、今更になって、レルギアの両親を名乗る者たちが現れたのか――。

 二人は元貴族であったが、落ちぶれて、困窮した生活を送っていた。

 そこに、ちょうど、ローゼンベルクの大賢者の話をきいたのだ。

 ローゼンベルクのライゼ姫が、大魔境から大賢者を連れ帰り、世界を救ったと。

 その噂は、世界を駆け巡り、隣の国である夫婦の元まで届いた。

 二人は考えた。大賢者の親であるとなれば、好待遇が受けられると。

 自分たちの落ちぶれた生活を、なんとか立て直せるのではないかと。

 だが、レルギアが学校から戻ってきて、その期待はあっさりと裏切られることになる――。




◆◆◆




「なに? 俺の両親だと名乗る人物が城に来ているだと?」

「そうなのです! レルギア様……! ぜひ一度、城を訪ねてはもらえないでしょうか……?」

「まあ、そうだな……」


 ある日の放課後、俺のもとに、ローゼンベルクの兵士がやってきた。

 そして、そんなことを言うのだった。

 俺の両親といえば、赤子のころに、俺をあの森に捨てたやつらということになる。

 そんな奴らが今更なんの用なのだろうか……。

 それか、単に俺が大賢者だから、甘い汁を吸おうとした誰かが、親を名乗ってるだけか?

 まあ、どっちにしろ、ろくでもない奴なのは確かだな。

 とりあえず、城に一度戻ってみるか。城のメイドさんたちにも久しぶりに会いたいしな。

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