第34話 クエスト演習【ざまぁ!】


 フェリスをいじめていた男子生徒の名前は、ガイアルというらしい。

 ガイアルは所謂不良タイプの傲慢な人間だった。

 あれでも一応、名家の出身らしく、そのせいでプライドだけ肥え太ったのかもしれない。

 とにかく、俺はフェリスをいじめるガイアルには腹を据えかねていた。

 だがどうやら、腹を立てていたのは俺だけではないようだ。

 ガイアルのほうも、先日の一件で俺に対して悪感情を抱いているらしい。

 ある日の授業で、クエスト演習が行われることになった。

 クエスト演習を知って、ガイアルは仲間とひそひそ話を始めた。

 視線は、俺のことをにらんでいる。


「クエスト演習か……ちょうどいい。あのレルギアとかいういけ好かねえ奴にわからせるいい機会だ」


 まあ、全部きこえているんだがな。

 ガイアルはクエスト演習にかこつけて、俺になにか仕掛けてくるつもりらしい。

 それならちょうどいい、帰り打ちにしてやるまでだ。




◆◆◆




 クエスト演習はシンプルなものだった。

 任意のクエストを選び、それをクリアするというもの。

 クエストといっても冒険者ギルドなどに行くわけではなく、教師が設定したものの中から選ぶ形式となっている。

 俺はダンジョンに行ってモンスター15匹を狩るというクエストを選んだ。

 ライゼたちに危険が及ぶといけないので、俺はソロでダンジョンに入る。

 ガイアルたちも俺と同じクエストを選んだようで、後ろから、見つからないようについて来た。

 まあ、後付けてきてるのバレバレなんだけどな……。

 俺は常に魔力を、自分を中心に円状に薄く延ばして展開している。

 もちろんごく微小な量なので、人体に影響はないし、気づかれもしない。

 俺は一方的に、その円の中に入った者を察知することが可能なのだ。


「さて、ここらでいいかな……」


 ある程度までダンジョンを進んだところで、俺は立ち止まった。

 ここまで奥にくれば、邪魔をする教師もいない。

 他の生徒に危害が及ぶ心配もないだろう。

 それは相手も同じ考えのようで――。

 ガイアルたちは物陰から、ぞろぞろと姿を現した。

 相手は4人。


「っち、気づいていやがったか。それで立ち止まるとは馬鹿な野郎だ。こっちは4人なのにな」


 ガイアルたちが俺を取り囲む。

 まったく、馬鹿なのはどっちだ……。

 俺はあきれて、ため息をつく。


「はぁ……。ここから先は慎重に言葉を選べよ?」

「あん……?」

「今ならまだ謝罪を受け入れると言っているんだ。もうフェリスをいじめないと約束しろ」

「はぁ……? 誰が亜人女なんかに謝罪するかよ! この前は油断しただけだ。ここでお前に吠え面かかせてやる!」

「いいだろう。もうフェリスをいじめる気がしないようにしてやる」


 戦いの火ぶたが落とされた。

 といっても、俺からはなにもしない。

 あくまで正当防衛にしたいからな。

 それに、こちらからなにかするほどの相手でもない。


「くらえ! ギガサンダー!!!!」


 ガイアルが魔法を放ってくる。

 わざわざ詠唱をしてくるとは、余裕だな。


 ――バリバリバリィ!!!!


 俺に向かって雷が飛来する――が。

 俺は突っ立ったまま、なにもしない。

 そのまま雷は俺に衝突すると、消滅してしまった。


「な……!? お、俺のギガサンダーが……弾かれただと……!? 防御結界の魔法か……!? しかも無詠唱……!?」


 いや、俺は別に防御魔法なんてわざわざ使っていないんだがな……。

 ただ俺の素の魔力を、奴の魔法が超えられなかっただけだ。

 俺は防御すらすることなく、無傷でその場に突っ立っていた。

 それにしても――。


「今のがギガサンダーってのはなんの冗談だ? あれじゃせいぜいサンダーの出来損ないってところだぞ?」

「っく……吠えやがって……」

「いや、マジで……」


 ギガサンダーの魔法は、アイリも使っていたからよく知っている。

 あれは喰らったらそこそこ痛い。

 本物のギガサンダーなら、こんなもんじゃないはずだ。


「本物のギガサンダーってのを見せてやろうか?」

「なに……!?」


 俺は魔力を雷に変化させた。

 そしてそれをガイアルたちの後方に向けて放つ。

 さすがに、俺もクラスメイトを殺す気はないから、当てはしない。

 念のため、ガイアルたちの頭上に防御結界の魔法を張ってやる。死なれたら困るしな。


 ――バリバリバリバリバリィ!!!!

 ――ズドーン!!!!


 ガイアルたちの後方の壁が大きく崩れる。

 ガイアルたちはあまりにもの威力に驚いたのか、腰を抜かして倒れこんだ。


「な、なななななな……なんだ今の威力は……!? 神話級の、第5界魔法か……!?」

「し、しかも……今俺たちを守った……!?」

「そんな馬鹿な……攻撃をしながら防御魔法だと……!? 無詠唱での二重魔法なんて……ありえない……」


 まったく大げさな奴らだ。

 俺があきれていると、彼らの後方から、なにやら巨大な影が迫ってきているのが見えた。


「ガルルルルル……」


 どうやらさっきの魔法で、モンスターをおびき寄せてしまったらしい。

 おそらくあれがこのダンジョンのボスモンスターだろう。

 かなり巨大な、猫のようなモンスターだ。


「な、なんだこいつはあああああああああああ……!!!!」


 ガイアルたちはモンスターに驚いて、急いで立ち上がった。

 そして敵であるはずの俺の方に走って逃げてくる。

 俺を追い越して、どんどん逃げる。

 よほどこのモンスターに恐れを抱いているらしい。

 まったく、転んだり逃げたり、忙しい連中だ。

 ある程度逃げたところで、ガイアルは俺の方を振り返り、言った。


「おい、お前! なにをぼーっとしてるんだ……!? はやく逃げないと、食われてしまうぞ……!? こいつはさすがにシャレになんねぇって! 今は一時休戦だ。逃げるぞ……!」


 などと、血相を変えて俺にそう叫ぶ。

 しかし、俺はなにを言われてるのかわけがわからなかった。


「は……? 食われる……? こんなのにか……?」


 ただの猫に、俺が食われるはずはないだろう。

 

「は、はぁ……? 何言って……」

「ほら、こんなにかわいい。はい、お座り」


 俺は猫モンスターに近づいて行って、手を差し出した。

 すると――。


「にゃ、にゃぁーん」


 モンスターは俺に屈服し、服従のポーズをとった。

 どうやら俺の実力をちゃんとわかっているようだ。

 人間よりも、モンスターのほうが賢いな。


「ほら、もう大丈夫だ。ただの猫だ」

「う、うそだろ……一瞬で手なずけちまった……化け物め……」


 ガイアルたちはドン引きすると、そのまま、俺を避けながらダンジョンを出て行った。

 まったく、張り合いのない連中だ。

 結局、この一件以来、彼らはフェリスをかまうことはなくなった。

 俺に突っかかってくることもなくなったし、どうやらどちらがかを理解してもらえたようだ。






――つづく。



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