第24話 私は魔王なのじゃが……じゃが……


「まあ、俺は余裕だったな」

「すごいですレルギア様、私はギリギリかもしれません……」

「そんなことないさ。ライゼなら絶対に合格してるさ」


 試験が終わって、俺たちはのんびり談笑していた。

 そんな俺たちの元へ、一人の他の受験生がやってきた。

 いかにもな貴族風の衣装に身を包んだ男は、俺たちに用があるようで、話しかけてくる。


「これはこれは、ライゼ・ローゼンベルク様ではありませんか」

「あ、あなたは……?」


 突然話しかけてきた男に、ライゼは首をかしげる。

 向こうはライゼのことを知っているようだが、ライゼは無関心なのか、心当たりがなさそうだ。


「……な!? ぼ、僕のことを忘れたとでもいうのか……?」

「いえ、元々知らないですけど……」

「ふ、ふふ……ならもう一度名乗りましょう……。僕の名はドマス=イデオット! イデオン王国の次期国王となる男です」

「はぁ……」


 どうやらドマスと名乗った男は、他国の王族のようだ。

 フランツァメルト貴族学院は王族や貴族が多く通う学校だから、まあ不思議はない。

 王族ということは、同じく王族であるライゼを知っていてもおかしくはないな。

 同じ王族ということで、ライゼとお近づきにでもなろうと、話しかけてきたのか?

 それにしても、俺とライゼが話しているのに、俺の目の前でライゼに話しかけるとはいい度胸だ。

 人の女にやすやすと話しかけるとどうなるか、教えてやらないとな。

 こいつはどうも気に食わない。


「おいお前。俺のことを無視するな。俺のライゼに気安く話しかけるんじゃねえ」

「な……!? なんだね君は……!」

「俺はレルギア=フォスフォフィライト。ライゼを将来孕ませる予定の男だ」

「い、意味がわからない……! なんと下品で無礼な男だ……!」


 ドマスはなおも俺を無視して、ライゼの方を向く。


「ライゼ様、こんな野蛮なチンピラは放っておいて、僕とお友達になりませんか?」


 しかし、ライゼはもちろん拒否する。


「いえ……結構です」

「な、なぜですか……!?」

「レルギア様を貶すような人は、私はちょっと……」

「な、なんだと……!? なんでこんなチンピラを……!」


 ドマスはわかりやすく悔しがり、歯噛みする。

 今にもその場で地団太を踏み出しそうな勢いだ。


「おい! レルギアとか言ったか貴様! 貴様のような平民は、ライゼ様の友達にふさわしくない! ライゼ様は僕のような王たる器と友達になるべきなんだ!」


 ドマスは俺に突っかかる。


「いやまあ、それでいうと、俺も王なんだけどな? 一応。まあ竜王だけどさ」

「なにを言っている? 貴様なんぞが王なわけないだろう!」


 俺たちがそう言いあってると、カンナが横から口を挟んだ。


「私も! 私も王だぞ! 私は魔王だ! がっはっは!」

「なんなんだ貴様らは……! 僕を馬鹿にするのもいい加減にしろ!」


 しまいには、ドマスは顔を真っ赤にして起こり始めてしまった。

 なんだか変なやつだな……。なにがしたいんだ?


「がっはっは! 赤子みたいなやつじゃな。人間とはこうも滑稽なのか!」

「くぅ……許さん許さん許さん!」


 カンナが火に油を注ぐ。

 ドマスはそのまま踵を返し、どこかへ去ろうとする。

 去り際に、捨て台詞を残していく。


「僕の叔父はこの学院の教頭なんだからな。僕を馬鹿にしたことを後悔するがいいレルギアよ! 覚えていやがれ! いつか痛い目をみせてやる……! おい行くぞ……!」

「なんだったんだアイツ……」


 ドマスは連れていた女に合図をすると、そのまま去って行った。

 よく見ると、連れの女に荷物を全部持たせていやがる。

 しかも女はみすぼらしく汚れていて、煤だらけだ。


「なあ、あのドマスとかいうやつの後ろにいた女はなんなんだ?」


 俺はティナに尋ねた。


「ああ、レルギア殿は御存じないのか。あれは奴隷だ」

「奴隷……? そんなのがあるのか?」

「まあ、王族だから奴隷の一人くらい連れていてもおかしくはない」

「それにしてもひどいな。あんな可愛い女の子を、あんな扱い。しかも汚れて傷だらけだったぞ?」


 いくら王族とはいえ、俺にはとても許せないな。

 あいつは気に食わないやつだったが、より一層嫌いになった。

 可愛い女の子を大切に扱わないなんて、間違っている。


「まあ、奴隷の身分というのはそういうものだ。仕方がない」

「そうなのか……なんとかしてやりたいな」


 それにしても、わざわざライゼと友達にならなくても、あの奴隷を抱けばいいだろうに。


「あいつあの奴隷の子だけじゃ足りなくて、溜まってんのか?」

「いや、王族は奴隷を抱いたりなんかしない」

「はぁ? あんな可愛い女の子を抱かないなんてアホか?」


 俺はますますドマスが嫌いになった。

 あいつが抱かないのなら、いつか俺があの奴隷を解放して抱いてやろうか。

 それにしても、痛い目を見せてやるとか捨て台詞で言ってたけど、俺はなにをされるんだろうか。

 まあ、あいつがなにをしてきても、俺には関係ないか。

 あんな不能野郎にできることなんて、大したことじゃないさ。

 ま、ライゼたちになにかしたら殺すけどな。問答無用で。


「私は魔王なのじゃが……じゃが……」


 自分が魔王だと信じてもらえなかったのがよほど嫌だったのか、カンナはうわごとのようにそう言っていた。

 拗ねてるのちょっと可愛いな。

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