第15話 敬語使うべきじゃん


 トカゲに乗って俺たちがローゼンベルクの城の上空にやってくると、城の屋上にたくさんの兵士がいるのが見えた。

 しかも兵士たちはみな武装していて、こちらに弓や魔法矢を向けている。

 もしかしなくても、俺たちは警戒されてるのか?

 まあ、そりゃあいきなり魔物が城の上空に現れたら、武装もするか。

 だけどそれにしても、たかがトカゲ一匹に対する警戒にしては大げさすぎる気もしないでもないがな。


「敵襲ぅううう!!!! 放てッ!!!!」


 幹部クラスの兵隊がそう叫ぶと、俺たちに向けて一斉掃射がなされた。

 どうやらあちらから姫の姿は見えていないようすだ。

 あとで姫に矢を向けたと知ったらこいつらどうなることやら。

 しかし突然の掃射にも、俺は一切動じない。

 俺がなにかするまでもなく、すべての矢は空中で霧散した。

 この程度の攻撃では俺の周囲にある微量な魔力の障壁を抜けることもできない。

 もちろん俺は魔力を抑えているが、それでもだ。


「そんな……!? 効かないだと……!?」


 絶望の表情を浮かべる兵士たちのもとへ、俺はゆっくりと滑空して降りていく。


「うわ!? こっちにきたぞ!?」


 俺は彼らとコミュニケーションがとれる位置まで移動すると、姫の顔を彼らに見せた。


「そんな!? 姫!? どういうことです!? ドラゴンにさらわれたのか!?」

「みなさん、落ち着いてください。このドラゴンは味方です!」


 ライゼがみんなに呼びかけるも、兵士たちはいまいち状況を理解できていないようだ。

 それにしても、トカゲなのにまだドラゴンって呼んでる……まあいいか。


「ど、どういうことなのです!? まったくわけがわかりませんぞ!」

「まあまあ、落ち着いてくれ。お騒がせして本当に申し訳ないと思ってる」


 俺はそう言いながら、ゆっくり城の屋上に降り立った。


「な!? 貴様は何者だ!? 貴様が姫をたぶらかしたのか!? その異常な魔力の強さ……化け物か……!?」

「いや、違うけど。とにかく話をきいてくれ」


 彼らの警戒がなかなか解けないので、俺はさらに魔力を抑える努力をした。

 それからトカゲを帰すことで、ようやく彼らは話をきいてくれる態勢になった。

 ライゼとティナがなんとか話をして、事の顛末を伝える。

 それを一旦報告係が筆記し、王のもとへと話を通す。

 それからようやく俺たちは王に呼ばれて、面会が許された。

 俺はかなり警戒されたままだったが、ライゼの信頼があるおかげでなんとか入城をゆるされた。




◆◆◆




「そうかオブライエンが……それは残念だったな」


 オブライエンの裏切りを知って、王は悲しい顔をした。

 彼は優秀なスパイで、王の信頼も厚かったようだ。


「だが、ライゼ。お前が無事でなによりだ」

「お父様。それについては、すべてこちらにいらっしゃるレルギア様のおかげです」

「うむ、そういう話じゃったな。レルギア殿、本当に娘を窮地から救ってくださり、感謝する」


 ライゼの父は王であるにも関わらず、俺に深々と頭を下げた。


「おいおい、頭を上げてくれ。俺は当然のことをしたまでだ。美女を守るっていうな」


 俺がそう言うと、先ほど俺に刃を向けてきていた幹部兵士が突っかかってきた。


「おい貴様! 姫を助けたからってあまり調子にのるなよ? 王に無礼ではないか! 敬語を使え」


 確かにそれもそうだなと思いつつも、俺は敬語なんて使えない。

 ずっと森にアイリと二人きりだったから、そんなものは習っていないし、よくわからないのだ。

 困っていると、王がいきなり怒鳴り声を上げた。


「なにが貴様だ! レルギア殿に失礼なのはお前だ! ライゼを救ってくださった英雄になんていう態度だ! おい誰かこいつを牢につないでくれ!」

「な!? 王、そんな!? あんまりです……!」

「ええい! うるさい! 処刑されたいのか……?」


 王が俺をかばってそんなふうに言い出すので、俺はさらに困ってしまう。

 なにも処刑まで言わなくても……ちょっと怒りすぎでは?


「おいおい王様、それはやりすぎだ。この男も悪気があって言ったんじゃないんだろう? 許してやってくれ。俺は別に気にしない」


 俺がそう言ってやると。


「これは……レルギア殿はふところも深海のようにお深いのですな……。おいお前、レルギア殿に感謝するのだな。次はないぞ?」

「は、はい……。寛大な処置、ありがとうございます。王、レルギア様」


 とりあえず揉め事は避けられたな。

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