第14話 え?トカゲだろ?どう見ても


「よし、そうと決まればさっそく王都に戻ろう! 王様に報告だ」


 ティナが荷物をまとめはじめる。

 俺も初めての外出だから、いろいろと用意しなきゃな。

 それにしても、外の世界か。緊張するな。

 いや、ワクワクだな。


「でも、どうやって……」

「そうですね姫様。ここからだと、まずはこの森を抜けて、そこからはなんとか街道で馬車を拾って戻るしかありません……。そこまでレルギア殿に護衛をしてもらうしか……」


 二人はどうやら馬車をなんとか調達して戻る気でいたらしい。

 そんなんじゃ、日が暮れてしまう。


「乗り物なら、俺が用意するよ?」

「へ? レルギア殿、馬車をもっているのか?」

「いや、馬車じゃない」

「で、では……?」


 俺は無言で上空を指さした。


「空路……?」

「待っててくれ。今乗り物を呼ぶよ」


 俺はさっきカンナを呼び出したのと同じ方法で、乗り物を呼び出す。

 魔力を対象に向けて放出し、俺だと合図するのだ。

 しばらくして、空の彼方から一匹の魔物が飛んで現れた。


「「あ、あれは……ど、どどどどドラゴン!?!?!?!」」


 ライゼとティナはそれを見たとたんにそんなことを言って驚いた。

 おそらく初めてみる生き物だったのだろう。

 まあ、大魔境と外の生態系は大きく違うだろうからな。無理もない。

 だけど、こいつはドラゴンなんかじゃないのだ。

 飛んできたそいつを、俺は地面に座らせて、言う。


「いや、トカゲだけど?」

「い、いいや……どこからどう見てもドラゴンにしか見えないのだが……」


 ティナは動揺しながらそんな不思議なことを言う。

 どうやらトカゲに怯えているようだし、本気でこいつをドラゴンだと勘違いしているのか?


「いやぁ。どこからどう見てもトカゲだろ。これは」

「さっき空を飛んでいたのだが……」

「まあ、トカゲは飛ぶだろ」

「いや飛ばないはずだが……」


 あまりにも信じられないというようすで、ティナは鑑定のスキルまで使い始めた。

 しかしティナ、というか人間はトカゲよりも下位の種族らしく、鑑定で詳しいステータスを見ることができなかったようだ。

 鑑定スキルは上位の種族から下位の種族にしか正確に作用しない。


「ただのトカゲなわけないだろ……鑑定も効かないし……」

「いやアイリがトカゲだって言ってたんだよ」

「しかもこれただのドラゴンじゃなくて古龍種にしか見えんのだが……」

「んなバカな。ドラゴンっていったらアイリくらいしかいないはずだ」

「えぇ……」


 もうあきらめたという感じで、ティナは肩を落とした。

 こんなトカゲをドラゴンだなんて言ってたら、アイリが怒るな。


「じゃあ本人に聞いてみればいい」

「え……?」

「なあ、お前トカゲだよな?」


 俺は目の前に従えたトカゲに尋ねた。


「は、はははははい! わたくしめは卑しい卑しいトカゲでございます! レルギア様の前で、自分が古龍などとは決して名乗れませんです。はい」

「ほらな」


 俺はドヤ顔でそう言った。


「いや、それレルギア殿が言わせてるだけでしょ……」

「いや、こいつらが勝手に言ってるんだよ。ドラゴンを騙るには恐れ多いってな」

「えぇ……」


 この森に住んでいるトカゲは大体、みんな俺やアイリに怯えていた。

 だからこうやって呼べばすぐにやってくる。

 どいつもこいつもめっちゃ弱いから、簡単に言うこときいてくれる。

 まあ別にだからといって虐めたりこきつかってやってるわけじゃない。

 たまにくるドラゴンスレイヤーとかいうトカゲ狩りの変な物好きから、守ってやる代わりにいろいろ手伝ったりしてもらってるだけだ。

 あとは勝手にこいつらが俺に怯えて食料とかを持ってきてくれる。

 決して、俺がトカゲを虐げて無理やり服従させているわけではない。


「じゃあ、さっそく。ローゼンベルクの王都まで俺たち三人を乗せていってくれるか?」

「もちろんですレルギア様! このトカゲめにお任せください」


 俺たちはトカゲの背中に乗って、宙を飛んだ。

 空路で行けば、ローゼンベルクまではほんの数時間で着く。




◆◆◆




 その日、ローゼンベルク城の上空に、巨大な影が現れた。

 宙を舞う異形の怪物を見た兵士が、王に伝令を伝える。


「ローゼンベルク王! 申し上げます! 城の上空にドラゴンが現れましたあああああ!!!!」

「なにぃ……!? ど、どどどどドラゴンじゃとぉおおおお!?!?!?」

「い、急いで兵を集めます! 武装の許可を!」

「あああああ!!!! こ、この国は終わりじゃああああ!!!! 娘が聖女として神殿に向かった矢先、ドラゴンに滅ぼされるなんて……!!!! 魔王軍め卑劣な……!」


 彼らの恐怖心は、この数分後に解消されることになる。

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