そして私もまた小説世界の……/お題:団地妻の小説トレーニング/制限時間:15分

「……またお隣さんの愚痴になっちゃった」

団地妻は出来上がった作品を読んで呟いた。

専業主婦である団地妻は、最近になって小説を書くという趣味を見つけた。家事の合間をぬって出来上がった作品は、団地妻自身の実体験をもとに作られたものであり、ほとんど隣に住む一家への愚痴である。この団地妻はもう何本もこうして隣人への不満じみた作品を書いていた。

「なんでこうなるのかしら?自分の内側から湧いてくるものがこんなに薄汚いものだったなんて。なんて情けのない人間。愚痴を綴っただけの独りよがりの文章を小説と呼んでいいものかしら」

団地妻はパソコンの画面を眺めて、ため息をつく。自己表現の結果がこうも美しくないものだと、自分自身に嫌気がさしてくる。団地妻は時計を見て、そろそろ夕飯の支度をしなくては、と重い腰を上げた。台所へ向かう途中で、団地妻は何か思いついたようにふと立ち止まった。

「……この気持ちを作品にすればいいんじゃないかしら?主人公は……そう、愚痴小説を書く団地妻。団地妻は自分の書く作品に嫌気がさして思い悩むが、夕飯を作ろうとしたところで、この気持ちを作品にしようと……」

団地妻はふっと喋るのをやめた。そして突然、何かを探すように辺りを見回す。

「でもその主人公もきっと、自分をモデルにした小説を書くのよね。そしてその小説の主人公も……。まさか、私も小説の中の登場人物だったりして、なんてね」

大当たりだよ。

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