恋心は加速させる、地を踏み締める足を。/お題:走る復讐/制限時間:15分

「好きだ!」

「え……ごめんなさい」

電車の扉が閉まる。俺は駅に取り残され、扉のガラス越しに困惑した表情の幼なじみがよく見える。

「え……?」

「え……?」

俺は呆然としていた。何が起こった?俺は今、上京する幼なじみの見送りに来ていて、扉の閉まる直前、長年の想いを告白した。想定では驚いた幼なじみが嬉し涙を流し「私も」と言い、ガラスにへばりついた幼なじみと涙ながらの別れを迎える予定だった。それなのになぜか今、俺たちは互いに困惑した表情でガラス越しに向かい合っている。

「もしかして俺、振られた……?」

幼なじみはこくりと頷く。

「好きじゃなかったの?俺のこと?」

幼なじみはこくりと頷く。

「え、な、なんで?あんなの絶対好きでしょ!小さい頃からずっと一緒で小中高と同じ学校、家は隣同士で帰り道も同じ、俺が部活の大会に出る時も必ず応援にも来てくれたし、こんなの確定演出じゃん。え、なんで?なんで振られたの俺?」

「普通に友達だと思ってた」

「マジかよ……」

俺は頭を抱える。というか、幼なじみという関係にあぐらをかいていた俺もいけなかったかもしれないが、思わせぶりしてきた幼なじみの方もタチが悪くないか?

呆然と立ち尽くしていると、電車がプシューと息を吐いた。ガクンと揺れ動き、駅を出発する。俺は動き出す電車と並走した。

「それでも俺はお前のことが好きなんだ!」

「いや……私は別に好きじゃないんだけど……」

俺は走った。どこまでも走った。加速する電車に負けじと足を動かし続けた。

「ちょっと、どこまでついてくるの!?」

「この気持ちがお前に伝わるまでだ!」

「じゃあ一生走ってろ!」

俺は今でも走り続けている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る