酔っぱらいライター/お題:高貴な小説訓練/制限時間:15分
「やはり、小説家に必要なのは経験だと思うんだ」
平日の夜、居酒屋にて。小説家友達は日本酒片手にそういった。
「経験?」
「ああ、経験だよ。豊かな人生経験が作品を豊かにする。そう思わないか?」
「まあ、間違っちゃいないな」
友人は酔いが回っているのか、頬を赤らめて机をどんと叩いた。
「そこで、だ。俺は今から散財する」
「はあ」
俺が適当に相槌を打つと、友人が店員を呼びつけた。
「はい、ご注文は?」
「この店で一番高いものを」
「一番高いものですか?ええっと……定食ですかね?」
「ああ。カードで一括払いだ」
友人はさっとクレジットカードを取り出し、店員に見せつける。居酒屋でなければかっこいいセリフだったのに。店員は困惑した様子だ。
「お客さま、お支払いはお会計の時に行いますので……」
「あ、やっぱり、この店のもの全て買おう。いや、店ごと買ってやる!この店は俺のものだあああ!」
友人が叫び出す。店中の客の視線が俺たちに集まる中、俺は友人の頭にお冷やをぶっかけた。
「ひんやりする……」
「すみません、店員さん。さっきの注文はなしで」
「は、はい。かしこまりました……」
俺はため息をついて、酔いつぶれた友人を見やる。全く、こいつと飲むと碌なことにならない。すっかり寝てしまった友人を担ぎ、店を出る。重かったので途中で放置して一人で帰った。
「なあこれ、実話だよな」
友人の作品を読んで俺は言った。
「言っただろ?経験だって」
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