夕日と人魚/お題:汚れた海/制限時間:15分

目と鼻の先に海の見える街で育った。幼い頃、海岸へ夕日を見に出かけた俺は人魚と出会った。

「何をしているの?」

岩の上で太陽の光を浴び体をきらめかせながら、人魚が幼い俺に問いかけた。

「夕日を見ているんだ」

「ふふ、綺麗よね、夕日。太陽がだんだんと海をオレンジ色に染めて、そして最後には地平線がぱっくりと太陽を飲み込んでしまう。毎日毎日、太陽は飲み込まれるの」

頬を橙色に染めて、人魚は艶かしく微笑んだ。


月日が流れた。


大きくなった俺は久しぶりに海岸へ出かけた。夕方だった。あの時の美しい光景を思い出しながら、砂浜を歩いた。足元に違和感を覚えて、目線を下に向ける。ゴミだった。黒い、何かの部品のような人工物だった。それを蹴飛ばして、顔を上げて驚く。砂浜が黒くなっていたのだ。よくよく見れば、それらは全て、海岸に流れ着いたゴミのようだった。俺は衝撃を受ける。いつのまに、この砂浜は汚れてしまったのだ。さらに進むと、あの日と同じように、岩の上には人魚が座っていた。しかし、あの日とは違い、生気のない顔をしている。

「あら、来たのね」

「どうしたんだ、この砂浜は。いつのまにこんなに汚れてしまったんだ?」

「時の流れ、というやつよ。仕方のないことなのかもしれないわ」

夕日の影になって、人魚の顔はひどく悲しそうに見えた。あの時の煌めきは失われてしまった。俺は夕日なんかそっちのけで、寂れた人魚の姿に釘付けになった。

「もう、行くわ」

人魚はそう告げると、水飛沫も上げずに海の中に飛び込んだ。砂浜には俺一人残された。それ以来、俺は人魚の姿を見ていない。

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