ネギは大人の味/お題:大人のうどん/制限時間:15分

「うえへ、辛い」

口の中にびりっとした感触が走り、僕はネギを吐き出した。母親が差し出したティッシュにネギを包んでから、僕は水を飲んだ。母親は

「しょうちゃんには少し大人の味だったかな」

と笑い、僕の前に置かれたうどんの中に浮かんでいるネギを、ちまちまと箸で一つずつ摘み、自分のどんぶりに移し替えた。まだ小学校にも上がっていない頃の記憶だ。今でもやけに鮮明に思い出される。それ以来、僕がうどんにネギを入れることはなかった。だから僕は長らく、うどんにネギを入れることは大人のすることだと思っていた。


会社の昼休みに、昼食を食べにうどん屋へ入った。混んでいる中、カウンター席に座る。注文したかけうどんが届いて、腹が減っていた俺はすぐさま食べようとして、ぎょっとした。ネギが入っていたのだ。ネギは辛くて美味しない、とあの時学んだから、俺はネギの入ったうどんを食べてこなかった。しかし、大の大人がネギごとき食べられなくてどうすると思い直して、おそるおそる口に運ぶ。

「……美味い」

辛くなかった。それどころか、ネギのシャキシャキ感がうどんのうまみを引き立たせている。いつのまにか俺も大人の味がわかるようになっていたんだと思い、少し嬉しい気分になった。

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