エピローグ


 朝。目を開ければ、無味乾燥な天井が視界に飛び込んでくる。

 何の飾りっ気もない、ただ白いだけの天井。白い壁、白いベッド。窓の外には、澄み渡るような青空が広がっている。そう、まるで明の笑顔のような――


「え……?」


 おかしいと、僕が認識するのと、部屋の扉が開くのは同時だった。


「三瀬さ~ん、おはようございます。今日の調子は――」


 入ってきたのは、若い女性だった。真っ白なナース服、扉の向こうに広がる清潔感のある廊下に、僕はこの場所が病院であることを悟った。


「大変っ! 先生! 三瀬さんの意識が――!! すぐにご家族に連絡を――!」


 去りゆく看護師の影を追うように、僕はベッドの上から飛び降りていた。正しくは、転げ落ちていた。どれほど力を込めても、足が上手く動かない。ただ激痛が走るだけで、微塵も立ち上がることが出来なかった。

 一体どういうことだ。僕は確かに死んで、でもさっきの女性は僕のことを三瀬と呼んで。ということは、僕は死んでいない? せっかく初めて友達が出来たと思ったのに。来世で会おうと誓い合ったのに。何もかも夢だったというのか?

 そんな馬鹿な、ありえない。


「あき――」


 歯を食いしばりながら、なんとか病室の外に這い出る。

 と、僕が病室から顔を出すのと同じタイミングで、隣の病室から誰か出てきた。


「正塚さん、落ち着いて……! 今、ご両親に連絡を……!」

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冥土少年院 ぬえもと @nueayad76

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